読者の皆さんの学校(勤務校やよく知る学校)で、働き方改革は進んでいるだろうか。
タイムカード・ICカードなどで出退勤管理をするようになった、会議が減った、部活動の休養日をちゃんと取るようになった、遅くまで残る雰囲気はなくなってきたなど、幾つか前進していることもあるが、「とても忙しい日々なのは変わらない」という学校は多い。
実際、先日公表された千葉県教育委員会の集計データ(本年6月)によると、在校等時間が月80時間を超える教諭は、小学校で10.4%、中学校は34.5%、高校(県立)で8.4%であった。小中は昨年、一昨年の同時期とそれほど変わらない(小中は2~3ポイントほど減少、高校は大幅に減少)。
あるいは、新型コロナの影響や新しい学習指導要領の実施もあって、学校のやることは増える一方であり、「働き方改革なんてものは掛け声だけ」、そういう実態の学校も少なくないのではないだろうか。
やや手前みそだが、私が2019年に出した本の中で、学校の働き方改革がうまく進まない典型例として、以下の警告をしていた。
働き方改革がうまくいかない典型例①校長の認識としては「上から言われているし、ともかくやるべきだ」という程度にとどまる。やっていることは「早く帰ろう」という呼び掛けくらい。
②「児童生徒のため」ならば多少遅くなっても仕方がないと、安易に例外を認める。
③多忙の要因、内訳を見ないまま、できる範囲のことをやみくもに進める。また、教職員の中や保護者などとの間でコンフリクト(対立)が起きそうなことには踏み込もうとしない。
④残業時間といった結果だけを追い求めるあまり、虚偽申告や持ち帰り仕事の増加などが起こり、かえって「残業の見えない化」が加速する。
⑤一般の教職員の多忙は緩和されつつあるが、教頭や学年主任らが仕事を巻き取っており、一部の人の多忙がさらに悪化している。
出所:妹尾昌俊『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』
おそらく、いまもこれらに当てはまる学校は多いのではないか、と推測しているが、読者の学校は、幾つか当てはまるだろうか?
文科省も各地の教育委員会も、あるいは多くの研修会や教育雑誌なども、グッドプラクティスの収集・共有に熱心である。そこからのヒントも多くあるが、それだけで事態は好転しているだろうか。事例集を手にした学校、研修を受けた管理職などは、動いているだろうか。
学校の長時間労働は、さまざまな要因が複雑に絡み合っているし、長い年月をかけて定着してきたものでもある。働き方改革(と呼んでも呼ばなくてもいいが)は、そんな甘いものでもないと思う(私自身への反省も込めて書いている)。
むしろ、マズイ例から学ぶことの方が多くの教訓がある、と私は考えている。
①~⑤を一つ一つ説明する紙幅はないが、こうした事態となる理由としては、幾つかの要因がある。ここでは3点に整理したい。
第1に、新型コロナや新学習指導要領で業務が増えても、教職員数はほとんど増えていない(むしろ、講師が見つからず未配置や減少の場合もある)。
第2に、働き方改革は短期決戦ではなく、数年がかりで取り組むべきことも多いが、目の前のことに手いっぱいな学校では、中長期的なところは後回しになりがちである。学校には「〇〇計画」がたくさんある。そこも業務改善のメスの入れどころではあるし、むやみに増やすのは賛成できないが、働き方改革に向けた計画や工程表をつくっている学校は少ない。計画もない状態では、かけ声だけとなっても自然の成り行きだ。
第3に、校内外のコミュニケーション不足が影響している可能性がある。というのも、若手ほど長時間勤務の傾向は強い(千葉県のデータなどでも確認できる)。授業準備も校務分掌も不慣れなので、当たり前と言えば当たり前の話だ。だが、コロナの影響もあってか、あるいは忙しい日々であるせいなのか、はたまた教職員の年齢構成がいびつだからか(若手が急増している)、相談したり、若手を育成したりする機会が減っている職員室もある。
コミュニケーション不足は学校の中だけではない。感染防止のために、学校と保護者、地域がじっくり話せる場もずいぶん減ってしまった。例えば、部活動数を減らしていく、児童生徒の下校時間を早める(または登校時間を遅らせる)、丁寧なコメント書きを減らすなどは、保護者などの理解が必要だが、話せる場も少ない中で、なかなか切り込めない学校も多いのではないだろうか。
1点目は主には文科省と都道府県・政令市の教委の問題だが、2点目、3点目は各学校も振り返ってほしいことである。特効薬や近道はない。