不登校問題、学校だけで抱えないで(今村久美)

不登校問題、学校だけで抱えないで(今村久美)
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誰一人取り残さない

 来年4月にこども家庭庁を設置する法律が先の国会で成立した。これまで文科省や厚労省などが、ばらばらに子ども関連政策をおこなってきたが、その省と省のはざまで取りこぼしてきた課題を、一つ上の「子ども真ん中」の視点で取り扱う。私は、不登校の問題も、こども家庭庁で扱うべき、まさに「取りこぼしてきた課題」の一つだと考えている。

 不登校になったら学校に引きずってでも連れ戻す、そういう考え方は終わった。これからは、学校に戻すではなく、学びと再びつなぐこと。学校だけで抱えるのではなく、行政・学校・NPOが協働して、子ども真ん中で支援する。

 この在り方を考える一つの事例として、島根県雲南市において私たちカタリバが市と協働で運営する「おんせんキャンパス」の取り組みを紹介したい。

 2015年6月に同市に設置された教育支援センターを「おんせんキャンパス」と名付け、不登校やその傾向にある子どもとその家族をサポートしている。子どもたちに居場所を提供するとともに、市教委や同市の福祉部門と連携して、同市内22校に在籍する全ての不登校状態にある子どもたちの状況およびその周辺環境の状況(学校や家庭、専門機関)の把握に努め、家庭訪問や学校へ不登校専門員としてスタッフを派遣することなどを通じて積極的に関与していく「アウトリーチ型」の支援を展開していることが大きな特徴だ。

 家庭訪問では、保護者の話をゆっくり聞き、「一人で抱え込まなくてもいい。あなたは一人ではない」と、丁寧に関わる。ある時は母親の友人のように家族の食卓で夕食を共にし、ある時は子どもの部屋のふすまの向こう側から一緒にオンラインゲームをして、少しずつ子どもを外の世界に誘い出す。そんな不登校の子どもに対する支援を、一人一人に最適と思えるかたちで行っている。

 誰一人取り残さない取り組み。そのためには情報が不可欠になる。子どもや家庭環境について知るためだけではなく、家庭訪問するカタリバのスタッフの命を守るために、安全が確保されているかなどを確認しておく必要がある。そうしたことのためにも情報が必要だということを伝え、市教委の担当者と対話を重ね、関係性を築いていった。

「子ども真ん中」に転換

 協働が始まった当初、カタリバチームが最も苦心したのは、協働相手である市教委のスタッフの方々とフラットな関係を築くことだった。連携が始まったからと言って、行政がNPOを全面的に信頼し、情報共有するにはハードルがある。とは言え、NPOが下請け機関のような位置付けで行政から下りてきた施策を運用していく方法では、本当に行うべき「子ども真ん中」の支援が進まない場合もある。

 ある中学1年生の女子生徒が1月から不登校になった。この生徒について当初は「保護者が子どもに関心を持っておらず、通学させることを放棄している。ネグレクトに近い」と分析されていた。ところが、カタリバスタッフが家庭訪問で保護者と話してみると、両親共に懸命にこの女子生徒と接していたことが分かった。

 両親は女子生徒が登校渋りをみせた当初、担任に相談しながら「何とか登校させよう」と引きずってでも連れて行く覚悟で通学を促していた。しかしそれがかえって親子関係に亀裂を生み、夫婦間もこじれさせる結果を招いたという。そこで、「この子が周囲を拒否しているのだから、親はこの子が言うことを全て受け入れよう」と考えを一転させた。

 担任からは「学校に来させてほしい」という連絡を再三受けたが、「今はその段階にない」と断り、「子ども真ん中」で状況を捉え直そうとしていた。その頃にカタリバとつながり、スタッフが直接的に女子生徒へ関わるとともに、学校と保護者の仲介をしながら丁寧に話し合いを繰り返した。次第に、本人や保護者の意向に沿った支援が始まった。女子生徒を無理に戻そうとしたわけではなかったが、結果的に、学校に毎日ではないが、復帰することにもつながった。第三者が関わることで見える側面もある。それぞれの立場から見えている情報を共有することで、より子どもたちに適したサポートの方法が見えてくる。

 同市での協働以降、学校に再度接続した子どもは7割を超える。保護者アンケートからは、「子どもが安心と自信を取り戻した」と感じていること、そして保護者自身の気持ちも前向きになっているコメントも多数寄せられている。

施策が滞る背景

 日本では22年現在、小中高生の約24万人が不登校になっていると言われている。不登校を巡る状況においては国や自治体によってさまざまな取り組みがなされている一方で、都市部と地方では環境が異なるため、全ての地域において同じやり方ではうまく行かない。審議会で発表される事例の中には、本当に素晴らしい事例だと思う一方で、財源措置として不登校の児童生徒24万人分、同じコストをかけられるのかと疑問になることも少なくない。全ての子どもが取り残されない当たり前を何としても実現したい。

 また別の視点として、教育支援センターに相談窓口や、公的な居場所を設置しても利用者数が定員に達していない自治体もある。また、スクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)の存在も、とても感謝され評価されている学校もあれば、「連携の仕方がよく分からない」と、存在がうまく教員に周知されきっていない学校もある。SCもSSWも、能力も経験もバラバラで、地方では常に人材不足が止まらない。

 こういった、せっかく実行されている施策の中にも、効果を発揮しきれていない懸念もある。8年連続不登校が増え続けているのは、子どもたちから突き付けられた、政策への通信簿かもしれない。

 本当の意味で誰一人取り残さず、抜け落ちることのない教育を目指すには、国全体で子ども政策の発想を転換させ、子どもを真ん中に置いた支援を進めていく必要があるだろう。

不登校の子を見逃さない

 不登校の子どもには、100人いれば100通りの歩み方がある。その支援を、多くの児童生徒を抱え多様な業務を担う学校だけに任せるには限界がきつつある。重要なのは、学校が時には強過ぎる責任意識を手放して、外部の民間団体などの第三者を頼ること、民間団体は学校と積極的に連携し、「子ども真ん中」でその子が本当に必要としている支援を提供していくことだ。

 子どもたちが社会に出ていく過程で、職場でうまく人と関われないこともあるかもしれない。これからも傷つくことがたくさんあるかもしれない。その時に自身に合ったコミュニティーを見いだしたり、人に頼ったりする力も必要になってくる。行政と民間団体は子どもたちがその力をつけられるように、役割を分担し連携してサポートをしていく必要がある。

 支援を実現させるには、まず公教育と連携して子どもの支援にあたれる民間団体がもっと増える必要があるが、それと同時に、学校側も民間団体との協働を推し進められるよう、教委が制度を整え連携の仕組みを浸透させることが、不登校問題への重要な対策の一つだと考えている。

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