本紙8月26日付で報じられているように、文科省の協力者会議は生徒指導提要の改訂版の最終案を取りまとめた。
現行の生徒指導提要は、2010年に刊行されたものであり、「生徒指導に関する学校・教職員向けの基本書」とされた。過去には、1965年刊行の「生徒指導の手びき」、1981年に刊行された「生徒指導の手引(改訂版)」があり、生徒指導提要はこれらの改訂版と捉えられることもある。しかしながら、「生徒指導の手引(改訂版)」までは中学校・高校を前提として書かれていた一方で、生徒指導提要は小学校をも対象にしており、名称も異なっていることから、単なる改訂版とは言い難い。
そもそも、「提要」という語は多くの人にとってあまりなじみのないものと考えられる。その意味は、要点や要領を提示することであるが、実際の生徒指導提要は生徒指導に関連する事項を網羅的に示そうとしていて、「提要」という語に合うものか心もとない。「生徒指導」は「ガイダンス」ということなので「生徒指導ガイド」はおかしいのかもしれないが、「生徒指導ハンドブック」のような名称の方が分かりやすかったのではないかと思ってしまう。さらに言えば、小学校に「生徒」はいないのに、「生徒指導」という名称を小学校にまで含めて扱うのもいかがなものかと思う。そして、生徒指導提要は生徒指導に関する「基本書」とされているが、法的拘束力はなく、学校などがどの程度従うべきなのか、その位置付けが曖昧であるという問題もある。
今回、生徒指導提要が、この名称となってから初めて改訂されることとなった。2010年以降、いじめ防止対策推進法や教育機会確保法の施行、児童生徒間でのスマートフォンの普及、そしてコロナ禍などがあったことを踏まえれば、10年版をいつまでも使うわけにはいかないのは当然だ。今回、状況の変化を踏まえた新版の生徒指導提要が作成されたことは、価値あることである。改訂版で、性に関する内容、発達障害や精神疾患に関する内容、貧困家庭やヤングケアラーに関する内容、外国人児童生徒に関する内容などがしっかりと取り上げられていることの意義は大きい。
ただし、やはり生徒指導提要の位置付けが曖昧であることは変わっておらず、それゆえ掲載内容をどのように理解すればよいかが難しい。
例えば、今回の改訂では、「校則の適用・見直し」についての記載事項が注目されており、校則を学校のホームページなどで公開することや児童生徒や保護者の意見を聞いて見直しをすることなどが書かれているが、どの程度こうした校則の見直しに関する取り組みをするのか、学校の立場では判断が難しいと考えられる。学校としては、校則に関する取り組みの見直しを強く求められているのか否かが理解しづらいと考えられる。
また、本紙8月25日付で報じられているように、不適切指導により自死に至ったと考えられる児童生徒の遺族らの団体が、不適切指導について具体例を増やすことなどを要望している。不適切指導が繰り返されないよう、具体例を増やすことは重要であるが、そもそも生徒指導提要が学校現場でそれなりに影響力を持つのでなければ、不適切指導を抑止することにはつながらない。
こうした曖昧さの背景には、法令上、生徒指導の位置付けが十分に確立していないことがあると考えられる。学校教育法施行規則では、中学校・高校に生徒指導主事を置くものとし、生徒指導主事は生徒指導に関する事項をつかさどるとされているが、具体的な規定はない。そして、小学校に関しては生徒指導に関わる規定はない。生徒指導の重要性が高まっているのであれば、生徒指導についての規定を増やし、生徒指導においては生徒指導提要を参考にすべきことを規定するということもありうるのではないか。
他方、教員の多忙さが問題になる中で、各教員に生徒指導提要に記されている膨大な内容を理解した上で実践することを求めるのには、無理がある。生徒指導提要は、誰に向けて書かれているかがはっきりしない書かれ方となっているが、管理職、生徒指導主事(あるいは生徒指導担当)、一般の教員のそれぞれで必要な事項は大きく異なるだろう。だとすれば、対象者と内容を限定したものに分けて数種類作るということも考えられる。そのように分ければ、不適切指導はもちろん、いじめ対応も含め、問題ある対応の事例を具体的に載せることもしやすいのではないか。
なお、今回の改訂版から、関連する法令や通知などにリンクが貼られたデジタルテキスト版が作られることになったのは、重要なことだ。生徒指導を進める際に、法令や文科省の通知などを確認すべき機会は多い。生徒指導提要をPC画面上で確認し、必要に応じて法令や通知を見ることができれば、法令や通知を踏まえた対応がしやすくなるはずだ。今後、他の文書でもデジタルテキスト化を進めてほしい。