学校の働き方改革を巡る議論の中でしばしば耳にする「給特法」。その問題点を指摘する声や裁判、法改正に向けた動きなどが活発になっているが、なぜ教員の働き方に大きく関係するのか。3回に分けて解説する。第1回では、そもそも給特法とはどんな法律なのか、基本的なポイントや立法の経緯をひもといていく。
1972年に施行された給特法は、正式には「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」という長い名称の法律で、その名にあるように、公立の幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高校、中等教育学校、特別支援学校の教員(主幹教諭、指導教諭、教諭、養護教諭、栄養教諭、助教諭、養護助教諭、講師、実習助手、寄宿舎指導員)を対象にしており、私立学校や国立学校の教員には適用されない。ただし、給特法が成立した当初は国立学校を中心的な対象としていたが、2004年の国立大学の法人化で対象から外れている。
ところで、日本国憲法第27条第2項に基づき、日本では労働条件の「最低基準」を定めた労働基準法がある。労基法には労働契約の考え方や賃金、労働時間、休日、有給休暇、就業規則などの最低基準が定められている。例えば、労働時間は1日8時間および週40時間まで、休日は毎週少なくとも1回確保されなければならず、この「法定労働時間」を超えたり、「法定休日」に働かせたりする場合には、使用者側と労働者側が協定を締結し、労働基準監督署に届出をする必要がある。そして、こうした「時間外労働」に対しては、通常よりも割増の賃金、つまり残業代が支払われることになっている。
しかし、給特法は第3条で、給与の月額4%分に相当する額を基準とした教職調整額を上乗せして支給する代わりに、残業代は支給しないことが定められている。
また、給特法第5条・第6条に基づき、公立学校の教員に対しては原則として時間外勤務を命じないとされており、例外的に時間外勤務をさせる場合として①校外実習その他生徒の実習に関する業務②修学旅行その他学校の行事に関する業務③職員会議に関する業務④非常災害の場合、児童または生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合、その他やむを得ない場合に必要な業務――が政令で定められている。これがいわゆる「超勤4項目」と呼ばれるものだ。
このように、給特法は公立学校の教員の時間外労働と給与について、労基法の一部を当てはめないという例外事項を定めたものだ。
ではなぜ、このような例外的なルールが定められたのか。これは、給特法が制定された当時の状況が大きく影響している。
戦後間もない1948年に、公務員の給与制度改革が行われ、公務員は1週間の拘束時間の長短に応じた給与を支給することとなっていたが、教員の給与はその勤務の特殊性から、週48時間以上勤務するものとして、一般の公務員より1割程度高い給料が支給されることとなった。その一方で、教員に対して残業代は支給されないこととされ、当時の文部省は、原則として超過勤務を命じないように指導してきた。
ところが、実態としては教員が正規の勤務時間外に仕事をする状況があり、1966年ごろから残業代の支給を求める「超勤訴訟」が全国各地で起きていた。そして、その判決の中には、教員の時間外労働に対して残業代を支給すべきとしているものがあり、人事院がこの問題を指摘。文部省は66年度に、1年間をかけて教員の勤務状況について実態調査し、これに基づいて68年には教員の時間外勤務に対して「教職特別手当」を支給する教育公務員特例法改正案を国会に提出したが、廃案となってしまった。
人事院はその後、教員の勤務に対して、他の公務員と同様に時間管理を行うことは適当ではないとして、時間外勤務に対する手当ではなく、勤務時間の内・外にかかわらず包括的に評価した本給相当分として「教職調整額」による支給方式を提案。これによって71年に給特法が成立した。
給特法は法律の趣旨を規定した第1条で「この法律は、公立の義務教育諸学校等の教育職員の職務と勤務態様の特殊性に基づき、その給与その他の勤務条件について特例を定めるものとする」と、他の労働者や一般の公務員とは異なる「職務と勤務態様の特殊性」があるとされている。この勤務態様の特殊性とは、学校外の教育活動や家庭訪問、学校外の自己研修といった教員個人の活動、夏休みをはじめとする学校休業期間などを指すとされ、こうした教員固有の勤務態様によって勤務時間の管理は困難としていたわけだ。
ところでこの教職調整額は、なぜ月額給与の4%とされているのだろうか。
これは、給特法がつくられる前に当時の文部省が行った66年度の教員の勤務状況の実態調査に基づき、当時の公立小中学校の教員の平均的な勤務時間から割り出している。
その調査では、週平均で小学校は1時間20分、中学校は2時間30分の超過勤務時間があったとされ、それが、夏休みや年末年始、学年末・始を除いた年44週にわたって行われた場合の残業代に相当する金額が、給与の約4%に相当するとされた。それ以来現在に至るまで、教職調整額は一度も見直されることのないまま、4%で据え置かれている。
それから50年がたった2016年度に文科省が実施した教員の勤務実態調査では、平日1日当たりの学校内での勤務時間は小学校で11時間15分、中学校で11時間32分に上り、勤務時間外にも「超勤4項目」以外の業務に携わっていることが分かっている。立法当時よりも教員が働いていることは誰が見ても明らかな状況だ。