いじめ・不登校・自殺 数年間の傾向を捉えよう(藤川大祐)

いじめ・不登校・自殺 数年間の傾向を捉えよう(藤川大祐)
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 本紙電子版10月27日付で報じられているように、同日、文科省から2021(令和3)年度の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の結果が発表された。本紙を含め各メディアでは、不登校の大幅増、いじめの前年度減少からの反転、自殺の前年度からのやや減少などを強調し、コロナ禍の影響にも言及しながらこの結果を報じている。

長期休校の影響を踏まえ、グラフを補正してみる

 

 

 こうした報道では前年度との比較に注目が集まりやすいが、19(令和元)年度末からのコロナ禍の影響を踏まえて考察するには、コロナ禍以前からの傾向を捉えることが必要だ。そこで、ここでは17(平成29)年度からの過去5年間の傾向を捉えることを試みたい。図1は、17年度を100としたときの、いじめ認知件数、不登校件数(小・中学校段階)、暴力行為、自殺の推移を示したものだ。

 各項目とも、17年度から19年度まではおおむね増加傾向を示していたが、その後の傾向は単純には言えない。

 自殺以外の3項目については、20年度のところでグラフが下向きに凹んでいる。20年度は多くの地域で1~2カ月の長期休校があった上に、分散登校や行事の中止などもあって、学校の教育活動が大きく制限された。

 そこで、単純に12カ月の学校生活のうちの2カ月ほどは機能していなかったと仮定し、仮に休校などがなければ各項目の件数が2割増加したと考えて、グラフを補正してみよう。なお、19年度も年度末の3月に休校はあったが、3月は春休みもあり影響は小さいと考え、19年度については補正を行わないこととする。数値補正後のグラフが、図2だ。

いじめ・暴力行為は横ばい、不登校はコロナ禍が助長

 いじめと暴力行為に関しては、19年度以降、ほぼ横ばいであることが分かる。19年度までは、いじめの積極的な認知が進んでいじめの認知件数は増加していた。だが、コロナ禍以降は、いじめの認知件数は高止まりしたとも、積極的に認知しようとする勢いがなくなったとも解釈できる。暴力行為についても、いじめと同様に、積極的な認知の増加が止まったものと考えるべきだろう。いじめと暴力行為については、この3年間の状況に大きな変化はなく、コロナ禍の影響で事態が悪化したと考えるのは無理があるように思われる。

 他方、不登校については、20(令和2)年度を補正して見るか否かにかかわらず、件数の増加傾向がコロナ禍を経て一段上がったと見る必要があることが分かる。多くのメディアが論じているように、コロナ禍が不登校を助長する方向に機能していると考えて分析を進める必要がある。

自殺 学校教育が減少に寄与

 最後に、自殺について。自殺については、図1にあるように、グラフが20年度のところで上に盛り上がっており、他の項目とは様子が異なる。20年度において学校での教育活動が大きく制約されたことを踏まえれば、学校教育が通常通り実施されることは、子どもの自殺を減少させる方向に機能していると考える必要がある。もちろん、学校でのストレスが自殺につながるケースは少なからずあると考えられるが、逆に学校に行けなかったり行事ができなかったりすることが自殺につながることの方が多い可能性がある。

 以上のように、前回の20年度が長期休校等で特殊な状況にあったことを踏まえれば、今回の調査結果について前回や前々回との比較だけで解釈するのでなく、少し長い期間の傾向を検討する必要がある。このようにして検討した結果、いじめと暴力行為については19年度以降増加傾向が止まっている可能性があること、不登校については増加傾向が新たな段階に入っていること、自殺については学校教育の適切な実施が減少に寄与していることが解釈できると分かった。

 なお、本稿では各項目の件数全体の推移のみに着目し、学校種別をはじめとする細部のデータについては検討していない。当然ながら、今後対応策が検討される際には、細部のデータの分析が重要である。

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