国は教員の働き方改革を強力に進める姿勢を(藤川大祐)

国は教員の働き方改革を強力に進める姿勢を(藤川大祐)
【協賛企画】
広 告

 本紙電子版12月23日付で報じられているように、文科省が「教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査結果」を発表した(調査基準日は2022年9月1日)。本紙記事では、小中学校においては小幅改善がなされているものの、時間外勤務の削減に「壁」があることが指摘されている。

 今回の文科省の発表は、教員の働き方改革がまさに「壁」に当たり、1カ月の時間外勤務を45時間以内にするなどの「公立学校の教師の勤務時間の上限に関する指針」の実現がまだ遠いことを示している。発表を読んだ学校関係者は、絶望感を抱いたのではないか。

できそうな取り組みさえ、やっていない教委が多い

 なぜこのようなことになるのか、具体的な点をいくつか指摘しておきたい。

 第1に、時間外勤務がかなり過小に把握されていると考えられる点である。調査対象となったのは「在校等時間」であり、家庭への持ち帰り仕事の時間は把握されていない。また、本紙記事へのコメントにもあるように、時間外勤務が月45時間以内になるよう出退勤の打刻を調整するよう言われるという教員が多い。学校の教員には、過小に把握された時間外勤務でさえあまり減っていないということが伝わると考えられる。

 第2に、すぐにできそうな取り組みさえ、やっていない教育委員会が多いことである。例えば、放課後から夜間などにおける見回りや児童生徒を補導した時の対応を学校以外の主体が中心としている市区町村は26.0%、学校徴収金(給食費を含む)の徴収・管理を教職員が関与しない方法で行っている市区町村は36.0%しかない。こうした業務は2019年1月25日の中教審答申「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」でも「基本的には学校以外が担うべき業務」とされているのに、22年9月現在でまだまだ改善が進んでいないのである。これでは、教委は教員の働き方改革を本気で進めるつもりがないと宣言してしまっているようなものだ。

改革加速のメッセージも伝わらない

 第3に、「国としての今後の取り組み」として掲げられている項目には改革を加速する要素が見られず、「取り組みの総合的かつ着実な実施」「勤務時間の客観的な把握」など、既定路線をそのまま進めると言っているだけで、改革を加速するというメッセージが伝わらない。

 そもそも文科省は、20年度からの小学校新学習指導要領の実施にあたって小学校3~6年の授業時数を35時間ずつ増やしている上に、23年度から全国学力・学習状況調査に英語の「話すこと」を導入して学校現場の負担を増やす策を重ね、進めるはずだった部活動の地域移行でもトーンダウンしていて、教員の勤務時間問題の深刻さが分かっていないとしか思えない状況を作ってしまっている。今回の発表でも取り組みを加速する姿勢を見せられなかったことで、ますます期待されない存在となってしまったのではないか。

 教員養成系学部の教員の実感を述べれば、教員を目指す学生を今後も確保できるか否か、今が分水嶺にあると感じられる。教員の仕事の過酷さが可視化され、その過酷さに耐えられるかどうかの不安を抱えている学生が多い中で、働き方改革が進むことだけが希望の光のはずだ。

 働き方改革が強力に進められるのであれば教員として貢献したい学生は増えるだろうが、働き方改革推進が進まないという印象が与えられてしまえば、自分には教員は務まらないと考えて別の進路を選択する者が増えると感じられる。

 このようなことを日常的に感じている立場からすると、教委からも文科省からも本気で働き方改革を進める姿勢が伝わらない今回の発表は、大変残念だ。ぜひ、政府与党と文科省には、改めて教員の働き方改革を強力に進めるという姿勢を打ち出してほしい。

国の本気を示す施策を次々と打ち出せ

 すぐにできそうなこととしては、次のようなことが、国の姿勢を示すことになるはずだ。

 第1に、教員が担うべきでない業務を定め、教委や校長に対してそうした業務を教員に行わせることを禁じる法的措置を取ることである。放課後から夜間の見回りや学校徴収金の徴収・管理などの業務を教員が行ってはならないことを明確化するのである。

 第2に、文科省が学校に行わせる調査などを大幅に削減することである。例えば、全国学力・学習状況調査を悉皆でなく抽出にすれば、学校現場の負担は大幅に減る。

 第3に、部活動については、地域移行がすぐにできないとしても、教員が顧問を担当するか否かを選択できるようにし、顧問となった教員は兼業扱いとし正当な報酬を保証する。

 第4に、小学校の時間数を旧学習指導要領当時に戻し、これに合わせて指導内容も削減する。

 このような施策を次々と打ち出せば、国は教員の働き方を本気で変えようとしているという姿勢が伝わるだろう。もちろんこれらはすぐにできそうなことだけであり、こうしたことに加え、教員の定数増や学級編制の標準の引き下げ、さらには給特法抜本改正による適切な時間外手当支給といった策を実現していくことが必要である。

広 告
広 告