日本が魅力的な留学先であるためには(ウスビ・サコ)

日本が魅力的な留学先であるためには(ウスビ・サコ)
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 2023年が明けても相変わらずのコロナ禍だが、わがキャンパスでは昨年、水際緩和とともに多くの留学生たちが本格的に初来日、再来日を果たし、まだ完全な正常化とはいえないまでも、学びの場所としてにぎわいを取り戻してきた。そういえば日本への国外からの留学生はコロナ禍前には30万人にも及んでいた。全体ではどれぐらい回復したのだろうか。国はこの留学生たちに高度な知識を身に付けてもらい、グローバル人材として国内で生活し、研究を続けていってもらいたいと思っているようだ。この国の制度がそれに応え、また魅力的であれば、自然と留学生はこの国にとどまるだろう。今回は留学、留学生について私の経験を基に考える。

不思議の国ニッポン

 私の留学の始まりは中国だ。母国マリとの関係から中国の存在についてはある程度の知識があったが、日本については自動車と電化製品以外まったく知らなかった。それでも日本から中国への留学生は多く、友人として日常は英語や中国語でコミュニケーションをとっていたが、深く付き合っていたわけではない。最初のころ、印象に残っているのは、笑える話だが、急いでいるわけでもないのに小走りをし、レトルトの食事をとる日本人留学生の姿だった。当時マリからやってきたばかりの私にとって、日本人のそのような行動や食事は珍しく映ったのだろう。当時日本と言えば、テクノロジーが発達した世界最先端の国である。日本の友人たちは魔法のような最新の電化製品を使っていた。まさに不思議の国ニッポンである。まさかその国がのちに自分の運命を変えるとは思わなかった。

留学生としての不安はやはり言語

 それが何の偶然か自分も日本にやってくることになった。30年前以上のことだ。今ならいろいろな翻訳機もあって便利のようだが、当時はやはり言葉が一番の障害だった。私は研究分野としてある程度の実績がある京都大、大阪大や神戸大のような関西の国立大学への進学を目指し、その前に日本語を使えるようにしようと思ったのだが、日本語教室での学習速度が遅いことがとても気になった。私にはある程度日本語を使えるようになるまでにかかる標準的な1年も待てなかった。私はこう考えていたのだ。自分が日本語を実際に活用する世界に入らない限り、本当のもの・ことは学べないだろうと。すぐにでも建築について学びたかったのだ。

 私はとりあえずあいさつや日常会話ができるようになった段階で先生を探し始めた結果、研究生として京都大に入ることができた。もちろん最初のうちは日本人と同じ教室で勉強するのは大変だったが、私の確信は間違っていなかったと思う。私は学長就任後に学内の留学生を30~40%にするという大目標を掲げたが、同時に日本語学習支援センターを立ち上げた。普段は留学生に日本人と同じ授業を受けてもらい、内容を理解できなかったり困ったりしたり、あるいは課題は出されたけどその内容を十分把握していないという場合に、そのセンターで学んでもらったのだ。私の経験から少々言葉は不便でも、授業を現地の学生と混ざって受けることで見えてくるものがあると思っていたのだ。

日本は留学先として魅力あるか

 さて、国が留学生政策について力を入れるということは、危機感の裏返しでもあると思う。例えば、少子化もそうであろうし、研究開発の分野での世界的な地位の低下ということもあるかもしれない。今後も日本が世界の人々から留学先として選ばれるために何が必要だろうか。私が考える日本の大きな問題というのは、留学生が大学や大学院を出たあとに国内で仕事ができて、スキルアップできるような環境が保証されていない、あるいは保証されているようには見えないことだ。

 世界では一般的に、留学先で卒業・修了したら慌てて元の国に帰りたいと思う人はいないだろう。例えば、日本の学生もアメリカへ留学したら、最終的には日本に帰るとしても、しばらくはアメリカで仕事を探すのではないだろうか。だが、実際に国外から日本への留学生は、卒業後にこの国で居場所が保証されてないために、せっかく学んだ日本語や日本の知識を使えないのだ。改めて英語圏に留学する学生も多いと聞く。これは日本にとって大きな損失ではないかと思う。

「日本モデル」に憧れ

 だからといって、日本が留学先としてもう魅力的でないかというと、そうではない。やはり日本が持っている技術力、経済力は世界から見たらまだまだ憧れだ。なによりも日本には戦後すさまじい発展を遂げてきたという歴史がある。アフリカなど世界に多数ある発展途上の国々にとって、この「日本モデル」は輝きを失っていない。私も子供のころに「日本モデル」という言葉をよく聞かされた記憶がある。敗戦から短期間で日本がどうやって発展したのかと、みんな知りたがっている。もちろん現実には少子化や経済力の低下でそのような輝きは失われつつあるのだが、国外からはまだそのような視線が注がれているということを皆さんには分かってほしい。

卒業後の就職支援を

 だからこそ、先ほど述べたように、留学生の卒業後の就労支援にも責任を持ってほしいと思うのだ。多くの国々の中から日本に魅力を感じてせっかく来てもらったものの、出口がなければ不安でしようがないだろう。他の行き先を探すことにもなりかねない。そのまま日本にとどまってもらうことは、日本の理解者が増え、それ自体が国家的な利益にもつながってくる。

 最近では大学側、企業側もようやく環境整備をするようになってきたが、私が思うに社会そのものが受け入れる準備ができていない。例えば、いまだに留学生用の下宿が探しにくいということがある。私の学生時代と比べればそのような例は少なくなっているが、まだそんな状況があるのかとがくぜんとする。

 それと、留学生だから、とお客さん扱いすることをやめるべきだ。実際には言葉の問題などから留学生の指導を面倒くさがる教員たちもいるにはいる。だが、私は経験から学内に留学生が増えると国外に行きたくなる日本人や国内学生も増えることを知っている。学内に自然に留学生が溶け込み、多様性にあふれたキャンパスで学んだ学生が外国を志す。これこそ好循環と言えるだろう。

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