持ちコマ時数を週20時間に それが働き方改革の核心(喜名朝博)

持ちコマ時数を週20時間に それが働き方改革の核心(喜名朝博)
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35人や40人は教員が掌握できるぎりぎりの数

 新1年生の児童数が気になる時期になってきた。入学予定者が71人から105人までなら3学級。学区域への転入によって1人でも増えれば4学級となる。他の学年も同様だ。境界線上の学年では、2つのクラス分け案を作っておくことになる。定期異動事務も終わっており、学級増となれば初任者が配置される。その初任者も配置されないかもしれないというのが、昨今の教員不足の実態だ。

 学級編制の標準を定めているのが「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(以下、義務標準法)である。2021年の改正で、小学校では25年度までに全学年で35人となる。約40年ぶりの引き下げは画期的なことだったが、教室の広さから考えても35人は多い。21年のOECDの統計では、日本の小学校の平均学級規模は27.2人である。算術平均では実態を正確に表すことはできないが、OECDの平均が21.1人であることからも、わが国の教育費への公的支出の低さが証明される。

 そもそも、35人や40人という数は、教員が子どもたちを掌握できるぎりぎりの数だ。学級数によって教員定数が決まる義務標準法は、効率性と経済性が優先されている。少人数と学力の相関は説明できないが、20人程度の学級ならば、個別最適な学びや協働的な学びが充実する。1人1台端末を活用して、個々の考えを共有するのにも都合がよい。

 さらに、20人程度の学習集団であれば、子どもたち一人一人が、学習を自分事として捉えやすくなる。人数が多ければ多いほど、集団の中の一人として影が薄くなり、誰かが答えてくれることや時間が過ぎることを待つことになる。これでは主体性は発揮されない。

小学校の担任は毎日5時間授業

 山梨県は1年生の25人学級を4年生まで拡大することを決めた(「山梨県独自の25人学級 24年度までに小3・小4にも拡大へ」本紙電子版1月5日付)。県の独自予算を活用するとしているが、他の自治体では、基礎定数や加配定数を使って少人数学級を実現している。義務標準法は、学級数に係数を乗じて教員定数を割り出す。これにより、担任以外の専科教員などの数が保障される。

 しかし、総額裁量制の導入により、自治体の判断で学級の定員を下げたり、非正規教員を増やしたりすることが可能になっている。これは、結果として教員1人当たりの持ちコマ数を増やすことにつながっている。19年度の学校教員統計調査では、小学校の担任(教諭)の平均持ちコマ時数は24.5時間、毎日5時間授業していることになる。高学年における教科担任制の導入の目的の一つは、この持ちコマ時数の削減であるが、その恩恵を得ている学校は少ない。

1日に1時間でも空き時間を

 子どもたちへのきめ細かな対応や有権者へのアピールのため、自治体には少人数学級を推進する動きがある。担任する子どもの数が減れば学級事務も減るかもしれないが、教員にとっては1日に1時間でも空き時間が保障されているとありがたい。貴重な空き時間も、補教や配慮を要する子どもへの対応で、学級事務ができないのが今の学校だ。

 もし、週20コマを法律で規定できれば、時間割を調整して打ち合わせや会議の時間を確保できる。授業準備も勤務時間内に終えられるかもしれない。担任する子どもの全てを見ていくという小学校の学級担任制は、今となってはリスクにもなりうる。より多くの教員が関わることで、自己実現できる子どもたちがいることを認識しなければならない。

その意味でも、少人数学級か持ちコマ時数の削減かという二項対立の発想ではなく、どちらも実現するべきである。給特法の改正や廃止は、制度を現状に近づけるためだけのものであり、マイナスが少しだけゼロに近づくだけのことだ。子どもたちと教員のウェルビーイングの実現のためには、義務標準法を改正して、20人程度の学級規模と20時間程度の持ちコマ時数について明記すべきである。それが、学校における働き方改革の核心となる。

かみ合わない歯車が教育界の閉塞感に

 学級規模20人程度・持ちコマ時数20時間程度の実現には、教員の確保が必須である。教員不足の時代に不可能だと考えるのではなく、この理想型の実現のために制度改革を進めるという明確な目標を示すべきである。教員が足りないから2年間で免許を取得できるようにするという短絡的な発想は、教職を軽んじているとしか思えない。

 さらに「教員の養成・採用・研修」「処遇と職場環境の改善」「学校における働き方改革」「社会への啓発と理解促進」という4つの歯車がかみ合っていないことが、教育界に閉塞(へいそく)感として漂っている。次期教育振興基本計画では、それを払拭(ふっしょく)するためのロードマップを示し、より実効性をもたせるべきではないか。

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