「esportsがスポーツの一種として認められるにはどうしたらいいと思う?」
「海の生態系が変化して、クラゲが大量発生しているのはなぜ?」
自分の学校内ではできなかった質問を、子どもたちが、オンライン越しに他の学校の生徒に投げ掛ける。
昨年、カタリバが小規模高校の探究学習をサポートする「学校横断型探究プロジェクト」に、8校の学校が参加した。いま、日本には1学年に1~2クラスしかないという、規模の小さな公立高校が約300校存在する。
そうした学校の子どもたちが、オンラインで別の高校の生徒とつながって、探究に取り組むのが、このプロジェクト。自分の地域の紹介をしたり、グループ議論などを行ったりしながら、自分の取り組みたいテーマについて学びを深めていく。
ある子は、障害者の心理やコミュニケーションに関心を持っていた。通っている岩手県の県立大槌高校は、県全体での人口減少も影響し、現在は毎年定員割れ。今は1学年60人弱がいるものの、似たような関心を持っている人が、校内にはなかなか見つからなかった。
その子は同じプログラムに参加した生徒と話し合い、障害者と健常者が話すときの心理などについてディスカッション。年4回の合同授業に加え、意欲が高い生徒たちは、放課後もオンラインコミュニティーに集まって、議論した。
1年間のプロジェクトを終えた後、参加した生徒たちからは、「同じ学校内ではどうしても考えや課題が似てしまう傾向があるけれど、他校と意見交流をすることで新鮮な意見や課題点をもらうことができて良かった」「コロナ禍でなかなか他の高校と交流する機会がないが、他の高校生の様子が分かる貴重な体験となった」という声が寄せられた。
「小規模という背景があり、学校内での探究学習が難しい」というケースは、今後増えていくと予想される。子どもの減少や過疎化などを背景に、公立高校は、この10年間で学校数が約200校減少。小規模の学校の割合も増え、1学年に1~2クラスという高校は約11%。1学年3クラスまでを小規模と仮定した場合、全日制の公立高校のうち約21%となる。
「小規模だと、手厚く見ることができて探究学習などもやりやすいのではないか」という人もいるかもしれないが、探究学習でそれぞれの関心を深めていく上では、意見を交わしながら創発していくことが欠かせない。小規模校では、同じテーマに関心を持つ子が見つからず、チームが組めなかったり、ライバルとなる相手がいなかったりする。
学校が少ない地方の子どもたちは、小学校から高校まで、ずっと同じ友達に囲まれて過ごすような場合も多い。人間関係が固定化して同調圧力が強い中で、「自分はこれをやりたい」「実はこういうことに関心がある」と気恥ずかしくて言いづらいケースもある。
また、外部の専門家などに話を聞いたりする上でも、「関心のある生徒の数が数人と少ないのに、わざわざ声を掛けて大丈夫だろうか」と教員が引け目に感じてしまうような場合もあるだろう。
1校だけでは難しいことも、複数の学校で連携すればやれるという実証に、「学校横断型探究プロジェクト」では取り組んでいる。コロナ禍以降、さまざまな現場でオンライン活用は進んでいるが、授業の配信など子どもたちが一律に同じ話を聞くだけではなく、それぞれが双方向に話せて主体的に取り組める環境作りに、プロジェクトでは力を注いでいる。
ある学校では、服飾に興味があるものの普段の授業はつまらなそうで学校を休みがちという子がプロジェクトに参加。オンラインで外部の大人と交流する中で、自分から質問したり、自分の考えを伝えたりするなど積極的に発言し、先生が驚いたというケースもあった。
この取り組みによって変化するのは、生徒だけではない。教員たちにも変化があった。
ある学校の教員は、ニッチなテーマを持つ生徒に対して、どうフィードバックしたらいいか困っていた。他校のベテランの先生からの質問ややりとりを見ることで、「もっと褒めてもいいんだな」「結構面白い研究なんだな」と新しい視点を得ていった。
「関心がある分野の専門家につないでもらって、生のエピソードや詳しい知見を聞かせてもらうことで、生徒がめきめきと成長していく。教員が自分たちだけで抱え込まないための、いい例になっているのではないか」と話す教員もいる。
普通科高校だけではなく、特別支援学校からの参加もあった。特別支援学校では、自閉症・情緒障害のある子どもや知的障害のある子どもが全体の9割以上を占める。身体が病弱ではあるものの通常級の子どもと同様に「探究的な学びを進めたい」という子は高等部の3学年で3人しかおらず、先生もどうサポートしたらいいのか悩んでいたという。
教員たちが、上司から言われるのではなく、自ら「やりたい!」と手を挙げてこのプロジェクトに参加してくれたことも大きい。「学校内ではなかなか話せないけど、うちの学校の探究のカリキュラムをもっとよくしたいから意見が欲しい」と他校の教員に投げ掛け、みんなでブラッシュアップしていくということもあった。
教員たちが想いを持って協働していくのを、カタリバが事務局としてサポートし、互助によって各校での実践的な学びの質が上がっていく。意欲を持った人同士でつながって何かをすることができるという実感を、参加した教員たちは得たのではないかと思う。
2023年度は、このプロジェクトにすでに18校が参加を表明しており、4月まで問い合わせも受け付けている。いまの社会の中で、十分なリソースを持たない学校や地域は増えており、自分たちだけで何かをしようとすると難しいことも多い。けれど、小さな学校同士がつながることで解決していくというのは、少子化が進む社会の中で求められる新しい仕組みではないだろうか。未来につながる小さなモデルを、学校と協力しながらこれからも作っていきたい。
※学校横断型探究プロジェクトの詳細はホームページから参照できる。