新採教員への支援 始業式は4月中旬にできないか(藤川大祐)

新採教員への支援 始業式は4月中旬にできないか(藤川大祐)
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 本紙電子版2月20日付で報じられているように、山形県教委は小学校に配置される大卒の新規採用教員について、単独で学級担任を持たせないことで負担を軽減する策を講じると発表した。こうした策がとられるようになった背景には、新卒の教員が初年度からすぐに担任を受け持つことの負担が大きいという声があったという。

着任して数日で最前線 学校の在り方は異常

 そもそも、4月上旬の学校は新規採用教員でなくても大変である。人事異動があり、4月1日に新年度の職員が初めて集まり、大小さまざまな会議や打ち合わせを行って、数日後には始業式・入学式となる。数日で30人前後の児童の情報を頭に入れつつ始業式・入学式の準備をし、学級開きを行わなければならない。最初の時点で児童の信頼を得ることができなければ年間の学級経営は厳しいものになりかねないため、学級経営は重要である。

 新規採用教員にとっては、学校の状況も教職員の人間関係も分からないまま、数日のみの準備で始業式・入学式や学級開きに臨まなければならない。よほど優秀でさまざまな経験をしている人でなければ、不安があって当然であり、何から取り組んでよいかすら分からないだろう。

 大手の一般企業であれば、新入社員には数週間から数カ月の研修期間があり、その後も数カ月から1年程度のOJT期間があることが一般的だ。新入社員が研修もそこそこに入社数日後から最前線で働くということは考えにくい。着任して数日で新規採用者を最前線に立たせる学校の在り方は異常だ。

無理の度合いは近年ますます大きくなっている

 学校の始業式や入学式が4月初旬になったのは、明治時代に4月入学が定着した頃から変わらないようだ。当時は、高等教育を受ける人が少なく、小学校の教員は地域のエリートであり、テレビなどの学校外のメディアがあまり普及していなかった時代だ。師範学校を出たばかりの新規採用教員が不慣れな授業をしても、教員が尊敬され教員の指示に従うことは当然と考えられていたはずであり、新年度の準備期間はあまり必要なかったのだろう。

 1980年ごろから校内暴力や不登校の問題が注目され、90年代には「学級崩壊」が社会問題化するようになるなど、徐々に教員の仕事は難しさを増していった。それでも、小学校の教員養成は国立大学(入試で多くの受験科目が課されており、学力の水準がある程度担保されている)を中心になされ、採用試験の倍率も高かったので、能力や適性の高い者を教員として確保することはあまり難しくなかったはずだ。

 しかし、2000年以降、教員の採用数が増える一方で、将来の需要減を見込んで国立大学の教員養成系学部は縮小され、教員として採用される者の平均的な学力はかなり下がっていると推察される。学力が下がっていれば授業の準備の負担は大きいはずであり、始業式・入学式の対応や学級経営においても余裕が必要ではないだろうか。

 以上のように、新規採用教員を4月初旬から学級担任として最前線に立たせることにはかなり無理があり、その無理の度合いは近年ますます大きくなっているものと考えられる。

準備日数を増やす工夫を

 このように考えれば、山形県教委が決めたように、新規採用教員については1年目はOJT期間とし、一人で学級担任にならなくてよいようにすることは合理的である。1年かけて準備をし、採用1年後から学級担任にすることを目指すこととすれば、本人も周囲も安心であろう。実施にあたっては、新規採用教員を指導する「新採教員支援員」が具体的にどのような支援を行うかといった課題はあろうが、予算と人材が確保できる自治体においてはこうした取り組みをぜひ進めてほしい。

 他方、大人数を採用し、現場で採用者の多くが初年度から学級担任となっている自治体では、山形県教委と同様の対応をすぐに取ることは難しいかもしれない。そうした中でもできる範囲で新規採用教員が一人で学級担任を持たなくてよいよう対応してほしいが、ここでは別の点を提案したい。

 これまで当然のようになっていた4月初旬の始業式・入学式を、もっと遅らせることはできないだろうか。仮に4月6日に始業式だとすると、教員の準備期間は最大5日であり、土日が入れば平日は3日しかない。これを仮に5日遅らせて4月11日始まりにすれば、準備の日数(平日)は6~8日と増える。ここで消滅した5日間の授業日については、現場で年間35週と定められている授業日数を年間34週に減らせば、夏休みや冬休みに影響を生じさせることはない。

 さらに言えば、大型連休中の4月30日~5月2日の最大3日間は、学校を特別休業としてはどうか(この分の授業日は夏休みや冬休みで調整するのがよいだろう)。新規採用教員はまず4月11日から4月28日までの約半月を乗り切り、そこで心身をリフレッシュしつつ連休明けから夏休みまでの準備をすることができる。

 このような授業日程の変更だけであれば、予算も人も増やす必要はない。子どもたちのためにも、新規採用教員が余裕をもって働けるようにすることは重要であり、他の教員にもメリットとなるだろう。

 今後、多様な策が検討され、実施されることに期待したい。

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