教員勤務実態調査 学校の働き方は変わったのか(妹尾昌俊)

教員勤務実態調査 学校の働き方は変わったのか(妹尾昌俊)
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 文科省「教員勤務実態調査」(2022年実施)の速報値が4月28日に公表された。すでに報道されているように、前回調査(16年実施)と比べて小学校、中学校とも教諭の1日の在校等時間は約30分縮減するなど、一定の前進が見られる。といっても、教育現場の先生たちから聞くのは「仕事は減っていない」「現場は火の車」といった声だ。私のもとにはそうした声が届きやすいので、バイアスがかかっている可能性もあるが、読者のみなさんの実感はいかがだろうか。

 なるべく正確な事実確認をすること、実態把握をすることは、有効な打ち手を講じる際の大前提である。だが、調査をするだけでは事態はよくならない。今回の調査を生かしながら、校長や教職員、教育行政関係のみなさんと一緒に、いくつか注意しながら考えたいことがある。ここでは3点に整理しよう。

①時間を意識した働き方や行事の工夫など一定の前進が見られる

 1日約30分削減したことを、たった30分と見るのか、改善したと見るのかは、評価が分かれるとは思うが、何が影響したのだろうか。次の表のとおり、教諭の平日については、小中学校とも、学校行事や学校経営、学級経営に関する時間が少し減っている。おそらく、新型コロナの影響もあって、学校行事そのものが減ったり、準備時間を短縮したりしている影響がひとつ。また、学級通信を減らしたり、学活を短縮したりするなど、各学校、先生で工夫した影響もあろう。

 前回の2016年時点では多くの公立学校でタイムカードすらなかった。勤務時間を意識した仕事の進め方に多少はなってきた、ということかもしれない。

文科省「教員勤務実態調査(令和4年度)【速報値】について」
文科省「教員勤務実態調査(令和4年度)【速報値】について」

②平均値だけを見るな。健康リスクの高い教員も相当多い

 報道では在校等時間の平均値が注目されることが多い。おそらく各教育委員会でもその傾向はあるかもしれない。だが、教員の健康保持や過労死防止に取り組んでいる私からすれば、平均値はひとつの目安に過ぎず、あまり大きな意味のあるデータではない。過酷な状況にある人の健康、メンタルにとって、平均値がどうなのかは関係ない。

 今回、分布を示すデータも一部ではあるが、公表されている。1週間の在校等時間の分布を見ると、週60時間以上の人(月換算すると、時間外が80時間を超える)は、小学校教諭の約14%、中学校教諭の約37%であり、いずれも16年と比べて20ポイントほど減少している。極端に長時間労働な教員は減少傾向ということかと思う。とりわけ、中学校ではこの間、部活動のガイドラインができて、休養日をとるようになった影響なども大きい。

 だが、3点、要注意だ。

 第1に、今回の調査は10月・11月のデータであるため、とても忙しい時期(例えば、4月)にデータを取ると、もっと跳ね上がる可能性が高い。

 第2に、先ほど述べたとおり行事の影響などが大きいが、コロナが落ち着き、学校行事が従来通りとなると、また違ってくるだろう。加えて、教員不足、講師不足の状況もここ数年深刻化しており、学校現場をさらに苦しめている。

 第3に、上記のデータには持ち帰り仕事が含まれていない。持ち帰りを含めた分布は公表されていないので、現時点では不明だが、平均値からみると、小中とも週4.3時間程度は持ち帰り残業が発生している。これも個人差があることは推測できるが、この平均値を参考にするならば、週の実仕事時間として、週55時間~60時間未満の教諭も、過労死ラインを越えている可能性が濃厚と推定しておいたほうがよいだろう(健康経営の観点から)。週55時間以上の比率を集計したのが次のグラフだ。

文科省「教員勤務実態調査(令和4年度)集計【速報値】」をもとに筆者作成
文科省「教員勤務実態調査(令和4年度)集計【速報値】」をもとに筆者作成

 週55時間以上の人(≒月当たりに換算すると過労死ライン超の可能性)が16年より減少しているのは、一歩前進と言ったところだが、とはいえ、いまだ、小学校では3割強、中学校では6割近くがこの水準で激務である。小中学校の教員の勤務実態はまだまだしんどい状況が続いていることは、このデータから明らかである。

 とりわけ、今回の調査でも分かっているし、前回調査のときも同じ傾向だったのだが、若い教員ほど在校等時間が長い傾向がある。しかも、精神疾患による1カ月以上の療養者数は20代教員で約1.66倍(16年から21年にかけて)、30代教員は約1.43倍(同期間)に急増している(「公立学校教職員の人事行政状況調査」)。若手のうちは、授業準備も大変だし、校務分掌や学級経営にも苦労する。しかし、周りの先輩や教頭もすごく忙しくしていて相談しづらい。そうした職員室も多いのではないだろうか。

 また、今回調査でも副校長・教頭の在校等時間は多少マシにはなっているものの、とても長いことが確認できた。平均値でも過労死ラインを越える水準だ。

 このように、特にしんどい人、過酷な人に注目した対策が、各学校や設置者等には必要だ。

③現場の意識改革や工夫だけに依存するのは限界も

 ここ5~6年のあいだに、教育委員会も学校もそれなりにさまざまな働き方改革を実践してきた。会議の見直しや学校行事の精選、部活動の休養日の設定などはどこでもやっているし、程度の差はあれ、ほかにも業務改善などに取り組む学校は多い。私も含めて、度々校長研修などもやってきた。これらの取り組みに意味がなかったというわけではないだろうが、どれほどの効果があったのか、十分だったのか、課題はなんなのかを検証していく必要性を、今回の実態調査の結果は示唆しているように思う。

 また、前述した業務の内訳別のデータを見ると、当然ながら、教諭の1日のうち一番多くを占めるのは授業関連である。授業(主担当+補助)、授業準備、学習指導を足すと、小学校教諭は1日約6時間10分、中学校教諭は1日約5時間15分である。また、調査では生徒指導(集団)となっているが、給食、掃除、休み時間の見守りなどで小中学校とも約1時間かかっている。したがって、正規の勤務時間が7時間45分であることを踏まえると、小学校教諭は残り約30分、中学校教諭は残り約1時間30分ほどしかない。この残り時間に、小中学校ともに学校行事の準備や個別の生徒指導、保護者対応、それから会議や事務作業(校務分掌など)が、中学校は部活動なども入ってくる。

 何が言いたいのかと言うと、教育関係者はよくご存じのとおりではあるが、そもそも勤務時間の中で仕事を終えられる設計・運用になっていないのだ。業務がオーバーフローしている状態である。

 しかも、授業関連の負担や生徒指導(集団)については、教員数を増やすか、学習指導要領を大幅に減らしてよしとするかしない限り、大きく減ることはない(標準時数よりも余剰な授業時間を減らすなど、各校でできることもあるが)。もしくは給食や休み時間のケアに、教員以外のスタッフをもっと雇うかである(給食時のアレルギー対応などが大変なのは承知しているが、教員免許状は必要ない業務である)。

 要するに、授業関連や生徒指導(集団)に関する業務負担軽減を図ろうとするならば、各学校の取り組み、ましてや校長や教員の意識改革などでは対処できない。

 各学校も「もっと人をくれ」「教員数が増えないと、もうムリだ」とばかり言って学校での改善を放棄してしまうようでも困るが、一方で、学校にばかり「頑張れ、工夫しろ」と言い、「人もカネも出さないが、校長先生よろしく頼みます」という文科省、教育委員会であっても問題だ。

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