子供をスウェーデンの学校に通わせていた1年間、日本とは勝手が違って驚くことが多々あった。特に、大小さまざまな行事については、6歳の子供が聞いてくる情報に、半信半疑になることも少なくなかった。その一つが「明日は、バラバラの靴下を履いて学校にいく」というものだった。
スウェーデンの人気童話『長靴下のピッピ』の主人公が、左右異なる靴下を履いているのを模した遊びかと思ったが、そうではなかった。学校のカレンダーには翌日の欄に「Rocka sockorna!(ロッカ・ソッコールナ。靴下でロック!の意)」と書かれていた。
先生に尋ねると「その通りよ!」と、子供が正しく伝達できたことを評価した上で、笑顔で教えてくれた。
3月21日は「世界ダウン症の日」だという。ダウン症は、正しくはダウン症候群といい、細胞の中の21番目の染色体が、通常は2本だが、生まれつき3本あるために起こる。3月21日という日付はこの数字の組み合わせから来ている。2012年に国連が定めた。
啓発活動として、カラフルだったり、左右違ったり、目立つ模様のついた靴下を履く「Lots of socks(たくさんの靴下)キャンペーン」が世界中で行われている。そのスウェーデン版が「ロッカ・ソッコールナ」だ。
靴下は2本セットであることや、かかとのところで曲がった形が染色体と似ている。派手な靴下を履くことで、多様性を意識し、ダウン症について語るきっかけにしようというのだ。
きっと子供たちは、左右異なる靴下を楽しげに履いたり見せ合ったりしながら、ダウン症について学校で話を聞いたり、家や地域の人たちと話をしたりするのだろう。
そして、ダウン症の人がどのような困難を抱え、どのような教育や支援のニーズがあるかといったことを学ぶ。例えば、スウェーデン・ダウン症協会のウェブサイトには、次のような○×クイズが載っている。あなたは○か×か分かるだろうか?
正解は、4番だけ○で、他は×だ。スウェーデンでは、ダウン症の子供は通常学校に通いながら、特別支援教員の支援を受けることができる。本人の適性を考えて家族が希望すれば、特別学校に行くこともできる。
身近にダウン症の人がいても、間違ったイメージを持っている人も多いかもしれない。スウェーデンの赤ちゃん用品企業は、オムツパッケージのモデルにダウン症の特徴を持つ赤ちゃんを起用し、好意的な注目を集めた。デンマークでは、ダウン症のモルテンとペーターがTVで人気を博した。
北欧では、ダウン症がごく自然に社会に受け入れられているように見える。こうした共生の姿勢は、正しい理解に基づくものでもある。
ダウン症児は、人によって程度は異なるが一般的に筋力が弱く、動作がゆっくりで、平衡感覚が弱い。そのため、スポーツや運動を苦手とすることが多く、肥満といった健康上の問題につながりやすい。
こうした問題に対して、ダウン症の理解や特別なスポーツ指導を広める「Up & Goプロジェクト」が行われた。このプロジェクトはスウェーデン、ノルウェー、リトアニア、クロアチア、ルーマニアの5カ国が連携して進められ、スポーツリーダー向けの研修プログラムが作られた。
研修プログラムは、ダウン症についての理解、ダウン症児の運動に関する理解、そして指導法といった内容からなる。参加者に自分自身の実践を振り返ってもらいながら、日常的な事例をふんだんに取り入れて、実際の指導にすぐに生かせるように設計された。
研修を通して、参加者はダウン症児の運動能力に関する理解を深め、適切で安全な運動方法や具体的な指導法を習得した。研修の成果や、使われた教材などは今でもネット上で公開されている。
適切な支援の方法を広めることで、ダウン症児の健康と成長を支え、共生をさらに進めることができる。
身近にあるものをほんの少し変えてみることで、楽しみながら、人々と話したり、正しい知識を身に付けたり、考えたりする機会になる。大切なことを学び始めるのに、神妙さや厳格さは必ずしも必要ない。そして自然な話し合いが、多くの人の視野を広げ、理解を深め、行動を起こすことにつながっているのだろう。
あなたも21日に、カラフルな靴下を履いてみませんか。