【地域で育つ、地域を育てる】 学校教育と社会教育の連携

【地域で育つ、地域を育てる】 学校教育と社会教育の連携
【協賛企画】
広 告

 大学を卒業してすぐ北海道浦幌町の地域おこし協力隊に参加し、「うらほろスタイル」の活動に参加する高校生をサポートしてきた古賀詠風(えいふう)さん。地域おこし協力隊の3年の任期を終えた現在も浦幌町に残り、活動を継続している。そこにはどんな思いがあるのか。インタビューの最終回では現在の活動と、学校教育と社会教育が連携した学びの在り方について聞いた。(全3回)

活動の収益を子どもたちの財源に

――地域おこし協力隊の3年の任期を終えた後も、浦幌町に残られました。浦幌町での中高生との関わりを継続したいと考えたのですか。

地域おこし協力隊の卒業時には、浦幌部の高校生からプレゼントを受け取ったという
地域おこし協力隊の卒業時には、浦幌部の高校生からプレゼントを受け取ったという

 そうなんです。任期が来たときに、これまで関わってきた中高生の顔を思い浮かべると、まだこの町で一緒に学び続けたいと思いました。その中で、事業を連携して行っていた「持続可能な地域づくり」に必要な課題解決や事業創出に取り組む一般社団法人十勝うらほろ樂舎に入社し、協力隊の時と同じように中高生と関わる仕事もさせていただくことになりました。

 「うらほろスタイル」が15年間続き、活動が広がっていく中でできたのが十勝うらほろ樂舎です。「立場を超えた協働で、次世代につなぐモデルをつくり、世界に広げる」をミッションに据えている団体です。

 組織として大切にしているのは、子ども・若者たちが「関わりたい!」「暮らしたい!」と思えるような「まちづくり」、そして未来を切り開き、たくましく生き抜く力を育める「人づくり」です。その点は「うらほろスタイル」も十勝うらほろ樂舎もブレていないところです。

 それに加えて、税収が減り、子どもたちが学び育つ環境が いつまで用意できるか分からない状況がある中、自分たちでしっかりと収益や関係を得て、次世代につなぐ活動を持続的に行っていくための「資本づくり」も進めようというのが十勝うらほろ樂舎の考え方です。こうした理念に共感したのも、地域おこし協力隊が終わった後に、「ここで働きたい」と思った理由の一つです。

――古賀さんにとって、地域おこし協力隊の3年間は、大半がコロナ禍の中でした。活動への影響はやはり大きかったのでしょうか。

 そうですね。どんな職種もそうだと思いますが、活動が制限されてはいました。自分自身の将来設計などについても、いろいろと考えさせられましたね。ただ、制限がある中で、「それじゃあ、どういうふうにやっていけばいいのか」と、事業の進め方をいろいろ考えるなどして、楽しく暮らせてはいました。だから、あまりネガティブには捉えていなかったかもしれません。

地域移行の部活動の指導者を雇用

――学校と地域の連携という点で言えば、部活動の地域移行という動きがあります。古賀さんは、どのように受け止めていますか。

 部活動の地域移行について言えば、浦幌町でも取り組みが始まっています。十勝うらほろ樂舎では、部活動の外部指導者を採用し、取り組んでいます。指導を町の人のボランティアに頼るだけではなくて、きちんと指導者を雇用することで、持続的に回っていく仕組みを作ろうとしているのです。

――こうした地域を挙げての子育ての取り組みには、移住者を呼び込んでいきたいという狙いもあるのでしょうか。

 あくまでも、目的は「次世代につなぐ」こと。そこをぶらさないように活動を地域一体となって進めてきた「結果」として、移住者が増えてきているということだと捉えています。

浦幌部でも関わった浦幌の酪農家さんと
浦幌部でも関わった浦幌の酪農家さんと

 地元紙の十勝毎日新聞の記事によると、2019~21年の浦幌町は、20~24歳は転入者が計111人に対して転出者が計86人、25~29歳は転入者計87人に対して転出者計78人です。つまり、3年間で20代の転入者が転出者を34人上回っています。水沢一広町長も「『うらほろスタイル』から派生した事業も要因だろう」と述べられています。

 これは、都市部に人口が集中している今の日本において、すごいことかもしれません。僕自身はここに移住してまだ4年ほどですが、浦幌町の子育てや次世代育成の姿勢に共感して移住する人が増えている実感はあります。

――浦幌町の取り組みを他地域に発信していこうという考えはありますか。

 そうですね。この町の「次世代につなぐ」という姿勢や取り組みは、他の自治体も参考にしていただけるところはあるとは思っています。

改めて感じる学校の機能・役割の大きさ

――学校の外から教育に関わるようになって、改めて学校の役割や教職員の仕事をどのように受け止めていますか。

オンラインでインタビューに応じる古賀さん
オンラインでインタビューに応じる古賀さん

 僕自身は中学・高校時代、学校の在り方に違和感を覚えた経験から、社会教育分野で学んだり、学外で活動したりするようになりました。活動を始める以前は、学校の閉鎖的な部分や抑圧的な部分をネガティブに捉えていましたが、浦幌で活動する中で学校というものの機能・役割の大きさを改めて認識しました。

 子どもたちはさまざまな活動に意欲的にチャレンジしていますが、これも学校という存在の大きさ、これまでの積み重ねがあってのことだと思うんです。だからこそ、学校教育と社会教育をうまく接続していくことの重要性を感じています。

 学校の外側から子どもたちと関わっていく中で、高校がない町で、どのように小中学校と連携して取り組んでいけば、町として子どもたちをこれまでよりも育んでいけるのか、考え続けています。これまでの15年間の学校と地域の協働を基に、これをさらに充実させていきたいですね。

――それ以外に、これから取り組んでいきたいと思っていることはありますか。
 
 浦幌町の子どもたちは学校教育の中でさまざまな人と関わり、さまざまな経験をした上で、地域でチャレンジをし始めています。そんな空気がある中で、子どもたちがふらっと町のある場所に立ち寄って、町の人と出会えるような場所、サードプレイス的な場所をもっと充実させていけないものかと思っています。

 浦幌町は、町全体で子どもを育てていく雰囲気がある町です。そんな町だからこそ、この町でしかできないやり方があるのではないかと日々考えているところです。

【プロフィール】

古賀詠風(こが・えいふう) 1996年、北海道遠軽町生まれ。北海道大学教育学部で地方での教育や社会教育を学びながら、「カタリバ」で高校生への授業運営と大学生への研修を担当。大学卒業後、2019年より北海道十勝の浦幌町地域おこし協力隊うらほろスタイル担当として移住。町の中高生が行う地域を舞台とした活動団体「浦幌部」のサポートや社会教育の場づくりなどを行う。3年の任期を終え、事業を連携して行っていた「一般社団法人十勝うらほろ樂舎」に今年4月より入社。個人事業主としても、北海道江別市の大学生の活動を支援するプロジェクトに参加。

広 告
広 告