遅刻を繰り返す子どもに、どんなふうに問い掛けるか――。改めて考えてみると難しい課題だが、そんな難題にヒントを与えてくれるものとして「しつもんメンタルトレーニング」が注目を集めている。考案者である藤代圭一さんは「問いを変えるだけで大きな変化が生まれる」と語る。インタビューの第1回では、子どもが成長できる問いの方法や聞き方の工夫について聞いた。(全3回)
──藤代さんが考案された「しつもんメンタルトレーニング」は、「問いを変えるだけで大きな変化が生まれる」と言われています。これはどういう意味でしょうか。
例えば目の前に、遅刻を繰り返す子どもがいるとします。教員として、どんな問い掛けをしますか?
――「なんで遅刻するの?」と聞きたくなります。
そうですよね。心の声そのものです。でも、それでは言い訳が返ってくるか、黙り込んでその場をしのごうとするかのどちらかになりがちです。
そこで問い掛けを変えてみましょう。「どうすれば遅刻せずに登校できたかな?」と。怒られると思っていた子どもは戸惑うかもしれませんが、遅刻せずに登校するためのアイデアを自分なりに考え始めます。
――教員が一方的に言葉を投げ掛ける形ではなくなるのですね。
その通りです。他にも例えば、何度言っても忘れ物を繰り返して、他の子にまで迷惑を掛ける子がいるとします。先生の心の声は「何度言ったら分かるの?」だと思いますが、そう投げ掛けてしまったらその場限りの謝罪を引き出すだけで、その子はまた忘れ物をするでしょう。
そこでこんな問いに変えます。「うちの子はあなたより忘れ物が多いんだ。どんなアドバイスをしたら効果があると思う?」と。
――そう聞かれたら「先生に頼ってもらえた」とうれしくなりますね。
子どもも含めて人間は、誰かのためになら無性にアドバイスしたくなるものです。そう聞かれた子は効果的なアドバイスをしてくるだけでなく、その言葉はブーメランとなって本人に返ることになります。その結果、持ち物に対する姿勢に変化が生まれるでしょう。
同じ状況でも、投げ掛ける問い次第で謝罪や言い訳が返ってくることもあれば、建設的なアイデアが返ってくることもあります。つまり、問いを変えることで子どもに変化が生まれるのです。
――実を言うと私自身は学校教員を16年間していましたが、「なんで週番の仕事を忘れるの?」「なんでロッカーを整理しないの?」と、言い訳を引き出す問いばかりしていました。
何を隠そう、言い訳を引き出しやすい「なんで?」を多用していたのは、この僕自身です。サッカー指導者をしていた頃は、やる気のない子がいれば「やる気がないなら来なくていい!」と強く言ったり、欠点やミスを見つけては「なんでそんなこともできないんだ!」と叱責(しっせき)したりして、子どものやる気や自信を奪っていました。
当時は「何度言っても伝わらない」と怒りが込み上げ、声を荒げることもありました。その結果、「サッカーが大好き」と言って入ってきた子が、「嫌いになった」と言って辞めてしまうようになったのです。今振り返っても、穴があったら入りたい気持ちになります。当初は140人を超える大所帯だったサッカースクールは、退会者が続出して存続が危うくなる事態にまで陥りました。
――「子どものため」と懸命に働き掛けたのが裏目に出たのですね。
その当時は「子どものため」と、自分なりに試行錯誤しているつもりでした。でも、思い返せば、自分が考える正しさを押し付けていただけでした。子どもに「なめられてはいけない」との思いから、自分を大きく見せようとしていた部分もあったと思います。そう気付くのに、かなりの時間がかかってしまいました。
そうした経験を経て「しつもん」を学び、「トライアル&エラー」を繰り返しながら、人生が変わる経験をすることができたのです。
――「しつもん」について、もう少し詳しく教えてください。
僕は、問いを大きく2つに分けて考えています。一つは、「なんで忘れたの?」に代表されるようなミスを指摘する詰問や取り調べのように問いただす尋問、自分の想定している答えを意図的に引き出そうとする誘導尋問、命令のメッセージを含んだ質問です。
もう一つは、相手の心の内にある本音や考えを引き出す「しつもん」です。表記は平仮名にして、普通の「質問」と区別しています。「しつもんメンタルトレーニング」の目的は、この「しつもん」から生まれるコミュニケーションや会話で、相手の成長を促すことです。
――正解がある質問とは違うのですね。
子ども自身が考えることに重きを置いていて、正解を求めるようなことはありません。例えばサッカーの試合中、ある選手がパスミスをしたとします。この場面で「なんであのとき、パスをしたの?」と優しく問い掛けたとしても、そこにはパスをとがめるメッセージが隠れています。中には「なんでパスしたんだ!?」と感情的に言う指導者もいるかもしれません。こうした問い掛けは意見を求めているようでいて、一方的に意見を押し付けているだけなのです。
「なんであのとき、パスをしたの?」「すみませんでした」というやりとりは、会話とは呼べません。後になって「理由を言って」と詰め寄っても、コミュニケーションにつながらないでしょう。
――子どもは言われた通りにしか、行動しなくなってしまいますね。
一方で、「あのパスを出したとき、どんなことを考えていたの?」と問い掛けたとします。その答えは子どもの心の中にしかありませんし、それはその子の正直な気持ちです。だから何を考えていたか、本当はどうしたかったのかを知ることができます。
子どもが答えたら、さらに「どうしたらよかったと思う?」と問い掛けます。すると会話が継続し、コミュニケーションを通じて子ども自身がミスの原因を深く考え、アイデアや改善策を考えるきっかけになるのです。
この「しつもんメンタルトレーニング」は、スポーツ現場での実践を基に、子どもが自ら考え行動するメソッドを体系化したものです。主に小学生から高校生を対象とするもので、スポーツの場面に限らず学校や家庭、企業でも実践できます。
――相手の本心を引き出すには、どうすればよいのでしょうか。
鍵となるのはニュートラルな姿勢です。僕たちは自分自身との関係性を他者に投影します。そのため、自分自身との関係が良好でないと、「その答えは間違っている」「常識的にそれは無理だと思うよ」などと相手をジャッジしたりコントロールしたりするような言葉を投げ掛け、自分の価値観を押し付けてしまいます。
もちろん、そうした言葉にも考えはあるのだと思いますが、自分を否定的・批判的に接して来る人に、自分の本音や自分らしい答えを伝えようと思うでしょうか。きっと、攻撃的な言葉から自分の身を守るため、適当な言葉でその場をしのごうとするでしょう。
「ニュートラル」は、自動車で言えば「どちらにでも行ける」ことです。ギアを「ドライブ」に入れれば前へ進めるし、「リバース」に入れれば後ろに下がることもできる。もちろん、ハンドブレーキを引いて、その場にとどまることもできます。
人とのコミュニケーションもこれと同じです。たとえ自分の中に「正解」だと思うものがあっても、いったんそれを保留し、ニュートラルな姿勢で相手の言葉とその背景に耳を傾けることが大事なのです。
――そうして「ニュートラルな姿勢」を保ち続けることで、相手は心を開くようになるのでしょうね。
おっしゃる通りで、同じ質問でも相手によって、答える内容は変わってきます。例えば、「あなたはどんな働き方をしたいか」と上司から聞かれたとしましょう。日頃から自分のことを気に掛けてくれている上司と、常に威圧的で聞く耳を持たない上司とでは、答える内容は大きく違ってきます。
質問とは不思議なもので、全く同じ問いでも条件次第で答えは変わってきます。「Who(誰が)」だけでなく、「When(いつ)」や「Where(どこで)」「How(どのように)」「Why(なぜ)」などの要因も影響します。
それは、自分自身に問いを投げ掛ける際にも言えることです。「これから、どんな生き方をしたい?」という問いも、満員電車の中でもまれながら問い掛けるのと、離島のビーチで寝ころびながら問い掛けるのとでは、自分の中から生まれる答えは変化します。だから、自分で自分に問い掛けるときは、意識的に場所や環境を変えてみることをお勧めします。
【プロフィール】
藤代圭一(ふじしろ・けいいち) 問い掛けることで自分を知り、幸福度を高めるアプローチが人気。島根県の離島・海士町と沖縄の2拠点で暮らしながら、全国各地で「自分らしく生きる」講演・セミナー活動を行う。また、教えるのではなく問い掛けることでやる気を引き出し、考える力を育む『しつもんメンタルトレーニング』を考案。アムステルダムやシアトル、シンガポールなど世界各地の子どもたちにも実施。全国優勝チーム、日本代表チームなどさまざまなジャンルのメンタルコーチを務める。子どもや選手に「やらせる」のではなく「やりたくなる」動機付けを得意とし、全国各地の指導者のコーチとしても活躍。52の問いを散りばめた「Life is Learningカード(対話カード)」は、海士町のホテル「エントウ」のアメニティーにも採用され「自分とつながり直すきっかけになった」と好評を得ている。『私を幸せにする質問』(東洋館出版社)など著書多数。