毎年12月10日はノーベル平和賞の授賞式があるが、スウェーデンのウプサラ市では一足先に「ウプサラ平和賞」の授与式が行われた。これはウプサラの国連協会が、地元で活躍する「日常の英雄」をたたえるもので、毎年10月24日の国連デーに行われる。
ウプサラ平和賞は2014年に始まった。国連の3本柱である平和と安全、開発、人権に関する領域において、ウプサラ市の住民が地域で活動する人や団体をノミネートする。今年は3つの平和賞が授与された。
「発展と貧困撲滅」カテゴリで受賞したのは、ウプサラ市の公立子育て支援センター(オープンプリスクール)と、そこに勤務するナディア・バッケロック先生だ。センターのあるゴッツンダ地区は全国的に知られる「しんどい地域」で、警察当局にも「特別脆弱(ぜいじゃく)地域」に指定され、組織的な犯罪や暴行が起きている非常に深刻な土地柄だ。さらに移民の割合が高く、失業率も高い。子育て支援センターには、産育休中の母親が子連れで集まり、歌やベビーマッサージなどのイベントに参加する。移民の保護者はスウェーデン語の授業も受けられる。
受賞理由は、「保護者と子ども双方に対する健康促進や予防的な活動を行っており、草の根レベルで、真に社会統合を促進している」点にあった。ナディア先生は地元紙に、「(受賞したことは)信じられないし、とても名誉なこと。でも、受賞したのは私だけではなく、全ての保護者、子ども、そして同僚だ。みんな、子どもがいる家庭が少しでも生活しやすくなるようにと活動している」と語っている。
移民や社会統合の問題は、ウプサラ市をはじめとする都市部では大きな課題になっている。今年の「平和と安全」カテゴリでは、同じくゴッツンダ地域の舞踏・演劇団体に所属するカレン・モニー氏が受賞した。また、「人権」カテゴリでは、作家で医師のネガール・ナセー氏が受賞した。彼女は、両親がイランからの移民だ。
一方、ウプサラ平和賞を通して、社会統合に向けた活動がいかに難しいかということも痛感させられる。18年に「平和と安全」カテゴリで受賞した任意団体「ゴッツンダ母の会」は、同地域で、夜の見回りをしたり、関係各所と連携したりして、若者をサポートするために活動する団体だった。当時、ウプサラ市から70万クローナ(約900万円)を助成されることも決まり、ニートの若者に活動を提供することが期待されていた。
しかし、同じころ、この団体と警察の間で対立が起こった。警察がある犯罪捜査の一環で同団体の事務所を捜索したところ、麻薬の痕跡が見つかったというのである。また、警察は、同団体が捜査を妨害する行動をしたと批判した。同団体は、警察に反抗したことはないし、麻薬に対してもゼロトレランスであると弁明した。市の青少年センターは、同団体と協力関係にあり、リスクを抱える人々に関わる団体へのサポートは重要だと擁護した。しかし、批判の矢面に立った同団体は、11月に活動を終了してしまった。
しんどい地域の悪循環の中で、地域に介入するプロセスや、成果を上げることは非常に困難だ。しかし、そのような困難な状況の中でも、草の根で小さな変化を起こすべく活動している人たちがいる。ある年のウプサラ平和賞受賞者は「しんどい状況にある人たちを助けるには、世界中をまわらなくてもいい」と地元紙に語った。
北欧は国際的な援助活動に積極的だが、国内にもしんどい状況はたくさんある。ウプサラ平和賞は、身近な課題と、その解決に取り組む地元の人々の挑戦を垣間見せてくれる。