スウェーデンのウプサラ市にあるクリスタレン子育て支援センターは、移民の親子に遊びや歌の時間を提供したり、スウェーデン語習得を手助けしたりする活動をしている。草の根で社会統合を真に促進していると評価され、2022年度のウプサラ平和賞を受賞した。同支援センターのナディア先生に、活動の様子を見せてもらった。
子育て支援センター(オープン・プリスクール)とは、プリスクールに通う前の子どもと保護者が自由に来訪し、子どもを遊ばせたり、親同士のネットワークが作れたりする場だ。ウプサラ市内にある6つの公立センターのうちの一つが、ゴッツンダ地区のクリスタレン子育て支援センターである。
ゴッツンダは以前から「しんどい地域」として知られる地区で、移民が多く、失業率が高く、組織的な犯罪や暴行事件も多い。取材の朝、少し緊張しながらバスに乗り、地区の中心部にあるショッピングモールに向かった。このモールの3階に、クリスタレン子育て支援センターが入るゴッツンダ・ファミリーセンターがある。子どもと保護者のための育児、保健、福祉に関わる行政機関が集約された場所だ。
開所前だったため、まだ親子の姿は見えない中、穏やかな笑みをたたえたナディア先生が出迎えてくれ、緊張も一気にほぐれた。
部屋は広々としていて、かわいらしい彩りのカーペットやクッション、おもちゃや絵本が置いてあった。静かに絵本を読む小部屋や、子どもたちがお絵描きや粘土で遊べる部屋、そして保護者が自由に使えるキッチンもあった。集まってきた親子はアフリカ系、アジア系、中東系、欧米系など多様だった。ナディア先生は、ほとんどの来訪者と顔見知りで、子どもの名前を呼びながら「いらっしゃい!」と迎え入れる。
クリスタレン子育て支援センターの特徴の一つは、保護者がスウェーデン語を学べたり、スウェーデン文化への導入講習を受けられたりすることだ。
スウェーデンに移り住んで間もない人には「移民のためのスウェーデン語(SFI)」が無償で提供されているが、同センターでは育休中の保護者が子連れでSFIを受けられる点が画期的だ。
また、子育て支援センターが保護者たちと一緒に開発した「インテグレーション・ハブ(iHUB)」という教材を使った連続講座も無料で受けられる。iHUBは、スウェーデンで子育てをする際に必要な情報を集めた教材で、子どもの教育や保健、子どもと一緒に楽しめる余暇活動のヒント、保護者のための教育や職業、スウェーデンにおける民主主義的な文化や権利・義務などについて、簡単なスウェーデン語やイラストを用いて紹介している。筆者が最初にスウェーデンに子連れで来たときに、まさに知りたかった情報が満載だった。
取材当日は、iHUB講座の一環で、ポジティブ・ペアレンティングについてのレクチャーが開かれていた。10組ほどの親子が、授乳したり離乳食をあげたりしながら、講師の話に耳を傾けていた。ナディア先生は、スウェーデン語がまだ完全には分からない参加者にアラビア語で説明を加えた。
参加者とのやりとりの中で講師やナディア先生が強調したのは、家で子どもと母語で話すことの重要さだった。スウェーデンに住んでいれば、子どもたちはおのずとスウェーデン語を習得する。家では保護者の母語で話すことで、子どもに無償で語学力を授けることになるし、第2、第3の言語を習得する際にも役立つ、と言う。子育て支援センターは、スウェーデン語と文化への入り口を提供するとともに、利用者たちのルーツも重視している。
子育て支援センターには多様な民族的背景をもった親子が来る。ナディア先生自身もアルジェリア出身で、長らくスウェーデンで暮らしている。ナディア先生は、その人の属性が違いを生み出すのではないと考える。あるのは、その人が「どのような人間であるか」による違いだ。私たちは皆人間であり、気持ちよくいる権利がある。そのためには、お互いにオープンマインドで柔軟に、共感をもって接することが大事である。子どもにとって大事なのは、保護者が愛情と互恵の精神をもって接すること、そして保護者自身が健全に居心地よく過ごすことだ――。これがナディア先生の信念であり、クリスタレン子育て支援センターの活動にも通じている。
ここに通う保護者の中には、人生の友を見つける人もいるし、お互いの子どもの面倒を見合うような友人になる人たちもいるという。異なる言語と文化の中に住むことと、幼い子どもを育てながら暮らすことは、どちらも孤独を生み出しかねない。地域に開かれた子育て支援センターは、これら二重の孤立を断ち切る重要な役割を担っている。
そして、子育て中の保護者であるからこそ、子どもと家族の将来を想像し、真にインクルーシブな社会を目指そうという機運も生まれるかもしれない。クリスタレン子育て支援センターからは、そのようなポジティブな雰囲気と、希望が感じられた。