【若手教師の育て方】 成長を促す多職種連携

【若手教師の育て方】 成長を促す多職種連携
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 教職課程を履修する学生からも厳しいまなざしで評価されている教師という職業。「自分に務まるだろうか」と不安を感じている新任・若手教員を、先輩教員や管理職はどのように育てていけばいいのだろうか。京都教育大学大学院の片山紀子教授は、鍵を握るのは真の多職種連携だと指摘する。インタビューの2回目は、日米の比較なども踏まえつつ若手教師の育て方について聞いた。(全3回)

「場」の助けを借りて育てる

――若い教員を迎える側の先輩教員や管理職には、どのような支援や対応が必要なのでしょうか。

 子どもと一緒で、自己有用感を持たせながら育てていくことが大切です。若手の先生に「職員室でどう接してもらいたいか」を尋ねると、「頑張っているね」「大丈夫?」「こうするといいよ」「ありがとう」など、一言でもいいから取り組んだことに対して声掛けをしてもらいたいという声を多く聞きます。先輩や管理職には、深く期待せずとも「声を掛けることは大事」と心にとどめておいてほしいですね。

 今時の若い先生は、学生時代は数人のグループで行動し、波風の立つ人間関係を苦手としています。また、誰かにやってもらうことに慣れており、任せきりにされた経験も多くありません。そのため、そこそこの責任のある発表を依頼する、そこそこの担当を任せるといった「場」を用意し、周囲が手伝いながら経験を積ませていく段階が必要です。あくまでも楽しい雰囲気の中で関わり、追い込むような任せ方は避けてほしいと思います。

今の若手教員の支援の在り方について語る片山教授
今の若手教員の支援の在り方について語る片山教授

 新任の先生をいきなり「同僚」とみなすのも、やや危険です。授業も保護者対応も行事運営も、まだ見通しが持てない人に「良かれ」と思ってあれこれアドバイスしても、入っていきません。それよりも相手から力を引き出すような配慮を心掛けるとよいと思います。それこそが、「取り組んだことに対して一言でもいいから声を掛けてほしい」ということなのです。

一度は現場を離れて学ぶ経験を

――先輩や管理職が持つべき心構えについて、教えてください。

 若者に接する年長者は、教職に限らず「自分自身が学び続け、やってみせること」が大事です。傲慢(ごうまん)な先輩や自分のしてきた経験が正しいと信じ込んで指導する先輩に対し、若手は表面的には従っているように見えても魅力を感じないし、納得も尊敬もできず聞く耳など持てません。

 先輩教員には、できれば30代のうちに一度現場を離れ、大学院で学んでほしいと思っています。現場を知ってから学び直すと、その後のキャリアが大きく違ってきます。人脈も広がるし、自分を俯瞰(ふかん)して見る目も持てます。

ミドル層には、引き出しを増やすための「学び直し」を推奨する
ミドル層には、引き出しを増やすための「学び直し」を推奨する

 例えば「子どもはとにかく褒めて育てる」という主義の先生がいたとします。でも、大学院などでコーチングを学べば、褒めるというのは子どもをコントロールする側面も持っていることを知るでしょう。「すごい」とか「さすが」とか単純な褒め方ではなく、結果に至るプロセスや日常の言動、習慣などを認める「事実承認」が有効であることを理解できれば、その知見を現場で生かすこともできます。

 社会が急速に変化する中、常にアンテナを立てていなければ取り残され、不要な存在となってしまいます。それは大学教員である私も同じです。歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリは、教員という存在自体が「古い体制の産物である」と断じていますが、現実にそうならないよう、日々自分をバージョンアップしていかなければなりません。

教師がマジョリティーの職場はつらい

――職員室の雰囲気は、仕組みや制度では変えられないのでしょうか。

 学校に真の多職種連携の文化をつくることが、これからは鍵になるでしょう。2015年に出された中教審の答申「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」では、教職員総数に占める教員以外のスタッフの割合が日本は18%であるのに対し、米国は44%、英国は49%となっています。

 日本でもスクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)などの配置が進み、専門職と連携して課題解決に当たる「チーム学校」の重要性が言われますが、現実には十分に機能していない側面があります。人が配置されておらず、コーディネートする力も弱いからです。

 この点は米国の学校と比較するとヒントが見えてきます。「連携」の意味合いが全く違うからです。米国の学校には校内に常勤の専門職スタッフが数多く配置されていて、待遇も教員と同じです。出欠確認は学校の運営スタッフが担いますし、家庭訪問はSSWが行います。校内でけんかが起きたり、不審者が現れたりしたらスクールポリスやガードマンが駆けつけます。教員が休んだときの「代行教員」もいて、管理職が授業に入るなんてことはありません。

 授業以外の仕事の多くは教員ではなく専門のスタッフが担当していますし、そうした人たちが子どもたちに授業をすることもあります。例えば、安全指導をスクールポリスが行います。

多職種連携の必要性を訴える片山教授
多職種連携の必要性を訴える片山教授

 私が以前、マンハッタンの学校を視察したいと教育委員会に申し入れたときは、なかなか実現しませんでした。直接、学校に掛け合っても入れてくれるのは10校に1校ぐらいです。身分証明の提示を求められたり金属探知機のゲートをくぐらされたりと、徹底したセキュリティー対策が採られていました。こうした仕事は教員に務まるものではないですし、専門職が務めるからこそ安全対策を徹底できるのです。

 米国の教員に課せられた責務の一つは、問題を一人で抱え込まず管理職に上げることです。むしろ上げなければ問題になります。管理職は問題解決のために専門職スタッフに課題を振り分けて、解決まで導くコーディネート役を担います。つまり、仕事の範囲と責任が明確に切り分けられているのです。まさに多職種連携の一つの在り方だと思います。

 国が違えば歴史や文化、教育制度も異なりますから、これをそのまま日本に移入すべきだとは言いません。でも、専門職を非常勤配置のままにして「外部スタッフ」として扱う限り、教員が自分一人で問題を抱え込んでしまうような状況は変わらないでしょう。教師がマジョリティーの学校では、他の人に頼れない、頼ってはいけないという雰囲気が強くなってしまうのです。

 米国ほどではないにしても、ある程度の多職種連携が進めば、日本の教員も精神的にだいぶ楽になるのではないでしょうか。多くの専門スタッフが学校にいれば、子どもを見る目も多角的になります。教室や職員室が開かれ、体罰や暴言を防ぐことにもつながるはずです。若手が安心して成長していくためにも多職種連携、専門職の増員は不可欠です。

【プロフィール】

片山紀子(かたやま・のりこ) 奈良女子大学大学院人間文化研究科比較文化学専攻博士後期課程修了博士(文学)。現在、京都教育大学大学院教授。主に体罰事案やいじめ事案について検証委員などを務めるとともに、全国各地で教員研修を担当している。一方、米国の生徒指導については体罰や生徒懲戒、規律などをテーマとしてニューヨーク州やペンシルベニア州、ノースカロライナ州などでフィールドワークを積み重ねている。著書に『日米比較を通して考えるこれからの生徒指導』(共著、学事出版)、『「うまくいかない」から考える若手教師成長のヒント』(共著、ジダイ社)ほか。YouTubeの「片山紀子Channel」で動画を配信中。

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