【Society5.0を生き抜く学び】 本物の商品開発にこだわる

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 生徒たちが2つ以上の事業者をつなげて商品開発などをする実習「こじまっちんぐ」を展開する岡山県立倉敷鷲羽高校ビジネス科では、2年目にブルーベリー農家と牧場をマッチングさせてジェラートの開発を実現させた。この取り組みでは生徒たちが多くのジレンマに直面したが、3年目にはさらに大きな壁が待ち受けていたという。実践を推進してきた大池淳一教諭へのインタビューの第2回では、3年目以降の取り組みと、商業科の学びにおける商品開発実習の意義について聞いた。(全3回)

根拠を持って事業者と交渉に臨む

――「こじまっちんぐ」2年目で牧場側がブルーベリーの価格に納得したのは、6次産業化補助金が交付されていたからという話がありました。翌年以降はどうだったのでしょうか。

 3年目は、それまでビジネス研究部の生徒を中心に進めてきた活動をビジネス科3年の授業に落とし込み、62人全員で取り組みました。「2社以上のマッチング」「利害が対立する当事者を取り込む」「商品開発の過程での想定外」の3点を意識して取り組みましたが、やはり補助金の問題にぶち当たりました。

 そこで、生徒たちが意見を出し合いました。一人一人がスライドを作って、それを基に4人ぐらいでもう一回練り上げたものを発表し、クラス全体で最終的に一つに絞るような形で意見を集約していきました。「商品価値がないブルーベリーを使えば安くなるんじゃないか」「ブルーベリーの収穫を手伝いに行って分けてもらえばいい」など、さまざまな意見が出て、何とか販売価格を抑える方法を考えました。

 また、自分たちだけで考えるのではなく、同県立高梁城南高校とオンラインでつながり、生産者側の立場からの意見も反映させようと考えました。そうした過程で分かったのが、ブルーベリーは商品価値にならないものは出ないということでした。落ちた果実も全て肥料になるそうなのです。そこで、唯一できることとして「作業の手伝いに行って分けてもらう」ことにしました。

「本当は私が一番板挟みになりました」と笑う大池教諭(Zoomで取材)
「本当は私が一番板挟みになりました」と笑う大池教諭(Zoomで取材)

 ところが、私が通う大学院の授業でこの経緯を話したところ、「今の生徒が卒業したら取り組みはどうなるんですか」と指摘されました。確かにそうです。持続可能ではない。そこで生徒たちに、「来年、君たちが卒業した後、誰がやるのか」と問いました。また、2年目にも課題になった価格について、私から「そもそもブルーベリーはそんなに高いのか」「牧場は300円にこだわりを持っているけれど、これは本当に変わらないのか」と生徒たちに投げ掛けました。

 生徒たちは全国のブルーベリージェラートの価格を調べました。すると、容量当たりの値段として300円は圧倒的に安く、原価を圧迫して当然だということが分かりました。生徒たちは「値段を上げるための根拠を得た」と言い、牧場に交渉しようという話になりました。

 生徒たちの調査では平均が440円だったのですが、300円から440円では上がり過ぎなので400円に設定しました。ただし、100円の値上げをするならやはり何かしらの付加価値を付けないと駄目だと考え、ブルーベリーの量を増やす、生産者の顔が見えるパッケージにするなどの提案を考えました。

 こうしたことは、商業を学んできた生徒たちだからこそ発想できたのだと思います。また、高梁城南高校からは「ブルーベリーは農薬がほとんどいらない作物なので、『意味消費』という言い方で提案すればよいのではないか」という意見をもらいました。生徒たちはそういった根拠を持って牧場側に「400円でいきたい」と提案しました。後日、生徒たちにその時の様子について聞いたところ、「説明している間に牧場の方の表情が変わってきて、いけると思った」と話していました。

 まだ解決していない対立点として、生産者側が「ブルーベリーをたくさん使ってほしい」と考える一方で、牧場側が「ミルクをたくさん使いたい」と言っている点があります。これは今後の課題として使えるかなと思っています。

全国の高校に呼び掛けて開発商品のマルシェを開催

自分たちで開発した商品を販売する生徒たち(本人提供)
自分たちで開発した商品を販売する生徒たち(本人提供)

 「こじまっちんぐ」の1年目は児島地域内、2年目は県内の他地域へと広がってきましたが、生徒たちは日本旅行が主催する「サステナブル・ブランド国際会議2022横浜」にも参加して、クラウドファンディングが利用できる権利を得ました。最初は、世の中のもったいないものを使って高校生が商品化するという提案をしていたのですが、それだと対象が狭過ぎるため、広くSDGsに関する商品を扱おうという話になりました。そして、「せっかくだから、全国の高校で開発した商品をSDGsという切り口で集めて販売しよう」という企画になりました。

 「こじまっちんぐ」で開発してきた商品は、地域と連携してSDGsの課題解決にもつながるものです。また、全国の高校で作られている商品も同じようにSDGsの課題解決につながるものが多いはず。一方で、高校での商品開発は単発的なものが多く、卒業したら終わりというケースも少なくありません。それを持続可能なものにしようという考えで取り組み始め、昨年10月30日に岡山駅の地下通路広場で「SDGsいちななまるしぇ」を開催しました。全国各地から計26校が参加し、約40商品を販売しました。

――持続可能という話からすると、このマルシェは今後も同じような形で続けるもくろみはあるのでしょうか。

 今回は生徒たちが全国各地の高校生が開発した商品を調べて、販売してほしい商品を選んで出品を呼び掛けました。ただ、労力的には相当なものだったので、このやり方では持続可能とは言えません。ただ、いろいろな学校とのつながりができたことで、例えば宮城県の石巻商業高校が本校の商品を仕入れたいと言ってくださったり、山形県の米沢商業高校が新商品ができたと連絡をくださったりしています。今後、さまざまな取り組みに発展できそうな意味では次につながるものだと思っています。
 
――「こじまっちんぐ」が児島地域、岡山県内へと広がって、3年目は全国とのマッチングになったわけですね。

生徒たちが制作したフランス語の掲示物(本人提供)
生徒たちが制作したフランス語の掲示物(本人提供)

 実を言うと、次は世界に広げる予定です。フランスで2月に開催される日本の観光と食のイベント「セボン・ル・ジャポン」に日本旅行が参加することを受け、本校と高梁城南高校の生徒たちが、自分たちが考案したブルーベリー商品を出展する準備を進めています。EUの食品基準の関係で乳製品であるジェラートの出品は難しいのですが、高梁城南高校の生徒が開発したブルーベリー甘酒を出品します。

 さらに、生徒がかつて制作した児島地域の観光客向けの動画をフランス語に翻訳したり、フランス語のPOPを作ったりしました。ちょうど本校にフランスからの留学生がいるので、彼女にも協力してもらいながら準備しています。また、本校の生徒たちが生産者と主催者の間に立ち、日本の地方の生産物を海外に出していく橋渡し役も務めています。

 激しく変化する時代に、この「ジレンマ克服型開発実習」を取り入れることによって、これからの時代を生き抜く能力が育成できると私は考えています。また、商業科の高校においてはこうした商品開発こそが、意味のある授業実践になるのだと思います。

(大川原通之)

【お詫びと訂正】「山形市立商業高校」は「山形県立米沢商業高校」の誤りでした。訂正して、お詫びします。

【プロフィール】

大池淳一(おおいけ・じゅんいち) 1976年生まれ。山口大学経済学部卒業後、岡山県の商業科教諭として採用され、現任校の倉敷鷲羽高校では20年より開設されたビジネス科の新設に携わり、現在はビジネス科長、学年副主任、就職指導係、クラス担任として新学科1期生の指導に携わる。昨年5月には新学科での実践が活育教育財団主催Next Education Awardにおいて最優秀賞を受賞。現在、鳴門教育大学大学院修士課程に在籍。モットーは「頼まれごとは試されごと」。

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