【北欧の教育最前線】進化する遊び場 ストックホルムのパークレーク

【北欧の教育最前線】進化する遊び場 ストックホルムのパークレーク
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 常駐のスタッフがいて、若者と一緒に遊具や看板をつくっている公共の遊び場がスウェーデンにあると聞いて訪れた。ストックホルム中央駅から地下鉄に数分乗り、静かな住宅街を抜けると、広い緑地公園の一角に遊び場「ローリス・パークレーク」はあった。遠目には、カラフルな手作りの公園に見えるだけだが、近づいてゆっくりと時間を過ごすと、楽しさの中にたくさんの思いや歴史が感じられ、大切な理念が実践されていた。

入場無料で誰でも利用できる遊び場

スタッフ常駐の遊び場であるパークレーク
スタッフ常駐の遊び場であるパークレーク

 スタッフ常駐の遊び場はパークレークと呼ばれ、遊具があるがスタッフはいない公園(レークプラッツ)と明確に区別されている。ストックホルムには現在45カ所のパークレークと、290ほどの公園がある。

 ローリス・パークレークは、平日午前9時から午後5時と、隔週土曜日の午前10時から午後3時に開いているという。入場は無料で、誰でも利用できる。

 訪れた昼ごろには、親子連れの姿がちらほらと見えた。スタッフは、平日は3人で土曜日だけ4人になるそうで、園内の整備をしたり、野外グリルでホットドック用のソーセージを焼いたりしていた。

 「ようこそ、ローリス・パークレークへ!」と描かれた看板に導かれて、まず小屋に入った。部屋は明るく彩られ、テーブルで何組かの親子が持参した昼食を取っていた。

屋内のボードゲーム
屋内のボードゲーム

 奥の部屋には、卓球、ボードゲームの他、さまざまな遊び道具が並んでいる。ゆったりとしたソファーや絵本もある。ずいぶん年代物のボードゲームもあり、丁寧に使われていることが分かる。デジタル機器なしでも非常に楽しそうな空間だ。

 屋外には、木製の手作り遊具や設備が広がっている。サッカーなどボール遊びができる場所、滑り台やブランコや砂場、ままごと遊びの道具やカウンター、バンド演奏ごっこ用ステージ、乗馬ごっこ用具などだ。

 スタッフが、遊具や自転車の貸し出しを行っている。冬にはそりとヘルメットを借りることもできる。夏には地面にチョークで絵を描き、冬には色水で雪に絵を描くなど、季節に合わせた活動や催しもある。

遊び場の歴史

 興味深かったのは、公園の中に文字が多いことだ。遊び小屋の外壁には、子どもの権利条約の条文が書かれた風船が描かれていた。その横には性の多様性の説明。ベビーカー置き場には、さまざまな人気者の絵が紹介文とともに飾られ、ヒーローやヒロインも多様であることが説明されていた。もちろん全て手作りだ。

 遊びの中で、伝えたいメッセージがたくさんあることが切に伝わってくる。文字が読めない子供たちも訪れるが、親に内容を尋ねたり、絵に関心を抱いて話題にしたりするのだろう。

 パークの片隅には、「パークのすてきな歴史」と題した掲示板があった。

 このあたりには15世紀ごろに孤児院があり、その後に工場が立ち、タバコ畑があった。公園として整備され始めたのは1936年だという。同年ストックホルム中心部には、スタッフの常駐するパークレークが夏季限定で設置された。当時、都心で車が増えており、車を気にせずに子供たちが伸び伸び遊べる場所が求められたのだ。

 遊び場の数は増え、40年には1年中開設される遊び場もできた。80年ごろにはストックホルムに約210のパークレークがあったそうだ。

 ローリス・パークレークは、45年に開設された。

 開設当初はブランコや砂場がある程度だったが、手作りの遊具や看板が少しずつ作られていった。円形劇場や、屋内遊びをする小屋ができ、工具などを備えて建築遊びができるようになった。スケート教室を開いたり、人形劇が行われたりした。

 95年には、パークに来る女の子の数を増やすためにウサギを飼育し始めた。スタッフだけが世話をするのではなく、子供たちも関わって世話をするために、ウサギクラブが作られた。ウサギの庭や障害物も作られ、最大で9匹のウサギを飼っていたそうだ。時々、ウサギが逃げ出して、公園内を跳び回ることもあったという。2009年には、動物飼育の規制が厳しくなったため、飼育をやめた。

 今でも、常駐のスタッフが中心となって、子供たちや若者が活動に参加しながら発展を続けている。

 こうした歴史が、往時をしのばせる写真や新聞記事とともに掲示されていた。遊び場の歴史を知ることで、現状の大切さを認識でき、愛着が湧くように思えた。

遊びを通した教育

 パークレークには、安全に遊ぶ場所という以上の狙いがある。パンフレットには、5つの教育目標が記されている。

 ▽身体をたくさん使う「意義深い余暇時間に貢献する」▽色、かたち、音楽、演劇といった、さまざまな形式の表現の可能性を示して「創造性を励ます」▽世代や国籍などの違いを超え、遊ぶ中で「社会的つながりを促進する」▽訪れる人が遊び場の環境づくりに関わることで「民主主義を実際に練習する機会を提供する」▽国連子どもの権利条約を基盤にした活動によって「子どもの権利を促進する」。

子どもの権利条約が書かれた風船
子どもの権利条約が書かれた風船

雪の中でもカラフルな遊具
雪の中でもカラフルな遊具

 特に大切にしているのは次の5つだ。▽全ての子供は等しい価値と同じ権利を持つ▽全ての子供は生きる権利・育つ権利を持つ▽子供の最大の関心は常に第一に考慮される▽全ての子供は、自分に関わる決定に関わり、意見を表明する権利を持つ▽全ての子供は、遊んだり、休んだり、創作活動に関わる権利を持つ。

 時代に合わせて変化しながら、子供たちを大切にし、身体を動かすことを大切にし、自然を大切にする姿勢は揺らがない。現在は、クライミングの遊具の改修と、トランポリンの設置工事を行なっているそうだ。進化し続ける遊び場を応援したい。

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