【北欧の教育最前線】少子化なのに人口増のスウェーデン

【北欧の教育最前線】少子化なのに人口増のスウェーデン
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 6月13日に閣議決定された「こども未来戦略方針」では、こども・子育て関係予算を「スウェーデンに達する水準」に倍増するとうたわれた。方針では、日本の少子化は待ったなしの瀬戸際にあり、これから6~7年が少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスだと指摘されている。

 スウェーデンは2000年代に出生率が回復したことで世界から注目されてきたが、10年以降は低下を続け、22年には過去最低レベルの1.52を記録した。子育て支援策は充実しているものの、少子化対策とは位置付けられていない。

家庭関係予算は少子化対策ではない

 スウェーデン政府の年次予算には「家族と子供の経済保障」という支出領域が設定されている。日本の児童手当や育児休業給付金に相当する予算が含まれるが、その目的は少子化対策ではない。スウェーデン政府の家庭関係予算は、子育て世帯の生活水準を改善することを目標にしている。子育て中の人は子供を持たない人に比べて所得が低い傾向があることから、児童手当などを通じてこの格差を是正しようとしている。

 目的は少子化対策ではないので、児童手当の増減が出生率を上げるか、という議論にはならない。その代わり、親の収入増加や所得格差の是正に児童手当がどの程度貢献したのかが評価される。特に男性のひとり親家庭や低所得層、移民家庭などは子育てによる経済的影響を受けやすいため、政府はこうした人たちを取り出して分析している。政府の予算提案書からは、子育てをする人に豊かで安心できる環境を用意しようとしていることが読み取れる。家庭関係予算は、保護者の経済保障という面だけではなく、児童虐待防止や子供の権利保障という観点からも説明されている。

低出生率を移民が補う

 スウェーデンの出生率は1992年以降、ずっと人口置換率を下回ってきた。それでも、当時870万人弱だった総人口は、現在は1050万人を超える。この差分は移民や難民が占めている。移民は2000年代に入って増加し、16年には年間約16万人の流入を記録した。その後やや落ち着いたものの、毎年人口の1%に相当する人が移住してくる。22年の移入者は約10万人で、同年の出生者数と並ぶ規模になっている。

 1人当たりの平均出生数を見ても、外国生まれの女性はスウェーデン生まれの女性よりも多くの子供を産んでいる。出生率の低さを移民が補う構図が読み取れるが、これにより移民背景を持つ人の割合が増えている。スウェーデンに住む人の約20%は外国生まれで、外国生まれの親を持つ人は35%に達している。

移民が支える夏休み

イチゴ売りの露店
イチゴ売りの露店

 この時期になると、ショッピングセンターの駐車場にはイチゴ売りの露店が出る。国産をアピールするためにスウェーデン国旗を華やかに飾っているが、店番をするのは決まって移民だ。

 スウェーデンの学校は6月上旬から夏休みに入った。家族連れは田舎のサマーハウスに行ったり、南欧などにバカンスに出掛けたりする。街からは徐々に人が減り、さまざまなサービスが夏季休業に入る。閑散とした街に残るのは移民たちだ。スーパーで商品を並べる店員も、プリスクール(幼保一元化された施設)の職員も、病院の看護師も、夏の間は移民が担当することが多い。彼らは、朝早くから、母語なまりのスウェーデン語で勤勉に働く。最近では、大手企業や研究機関などで活躍するエリートの移民も増えてきた。

強い風当たり

 このように、移民は労働力としても、出生率の向上にも貢献しているが、偏見に基づく差別は根強い。例えば、ムスリムの女性は多産で、児童手当だけで働かずに優雅な生活をしているといった言説を信じる人もいる。

 子育てをする誰もが安心して暮らせるように、という児童手当が国民の分断を生むきっかけを作っている面もあり、事態はより複雑だと言える。

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