1人1台端末の活用が当たり前になった今、ICTを使って学習するだけでなく、「何かを作ってみたい」と思う子どもは少なくない。そんな創作意欲を後押しするため、東洋大学附属牛久中学校・高校では、3Dプリンターやハイスペックなパソコンを備えた次世代のパソコン室「ICT Lab」を設置している。そこでは具体的にどのような創造的活動が展開されているのか、ICT環境の整備を中心になって進めてきた徳竹圭太郎教諭に聞いた。(全3回)
――ここ「ICT Lab」にある設備と生徒たちの活動について教えてください。
窓際にあるのは3Dプリンターで、3台あります。ものづくりに対する興味関心を引き出すと同時に、必要な備品を自分たちで設計して作れるようにしています。例えば、マスコットキャラを考えて作ったり、パソコンの冷却ファンを固定するパーツを作ったりしています。
ウィンドウズのパソコンも3台あります。生徒たちは1人1台ずつChromebookを所持していますが、3Dモデリングをするにはスペックが足りないこともあって、導入しました。それから「Raspberry Pi」という小型のコンピューターボードも3台あります。Linuxへの理解を深めたり、IoT機器の開発が比較的簡単にできたりするなどのメリットがあります。
これらが最初にそろえた機器で、その後は生徒のやりたいことに合わせて少しずつ機器やソフトを増やしてきました。「ICT Lab」専用のサーバーもあり、校内サーバーの更新があった際に譲ってもらいました。その他にもVRヘッドセットが数台あるほか、最近はAI技術の開発のような高度な処理ができる、より高性能のパソコンをメーカーさんから貸し出してもらっています。
生徒が持ち込んだ私物も少なくありません。ボーカロイドの「初音ミク」で音楽を作ってみたい生徒が持ち込んだ電子キーボードもあります。使われなくなったノートパソコンを生徒が集めてきて、パーツを交換することもあります。私が学生時代に使っていた古いパソコンなどのほか、誰がどこから持ってきたのか分からないものも多く、雑然としています。
――一般的な公立学校では、なかなかそろわない機器ですね。
確かに私学だから可能な部分はあると思います。でも、活動のきっかけは生徒のChromebookから出発していますし、「Raspberry Pi」などは比較的安価ですから、部費や学校予算をうまく活用すれば十分に購入できるのではないでしょうか。大切なのは、限界までChromebookでやってみて、そこから広げていくことだと思います。「ICT Lab」のパソコンに入っているソフトウエアは高額なサブスクリプションは避けて、無料で使えるオープンソースのものを中心に活用しています。
――「ICT Lab」ができたきっかけについて教えてください。
2019年度のことになりますが、ある生徒が私に「プログラミングを教えてください」と言ってきたんです。私自身もある程度はプログラミングができましたが、「だったら、みんなでやろうか」と言い、最初はChromebookでスクラッチ(Scratch)を使ってプログラムを組んでみました。そこから次第に「ちゃんとした活動場所がほしい」という話になり、1人1台のChromebookが整備されたタイミングで、使われなくなったパソコン教室を整備していくことにしたんです。
当時はまだウィンドウズ搭載のマシンが何台か残っていたので、「これでなんとか遊べるかな」と思いました。Chromebookでのプログラミングを拡張させる形で、何かを生み出せる生徒が生まれればいいなという感覚でのスタートでした。教室のレイアウトは生徒たちが自由に考え、床下の配線スペースに潜り込んで、配線をし直すなどもしました。
――生徒たちは具体的にどんな活動をしているのですか。
放課後に多いときは10人ぐらいが集まって、それぞれ好きなことをしています。高校生が中心で、2年生が7人、1年生が5人のほか、たまに中学生が1~2人来ます。活動日も正式には決まっておらず、生徒たちは「Discord」というSNSで連絡を取り合いながら決めています。
「ICT Lab」は、教室とは別棟にあります。出入口は交通系ICカードをタッチすると鍵が開くスマートロックシステムで、Raspberryセンサーを組み合わせて生徒たちが作りました。「先生、やっていいですか」と言うので許可したら、なんとドアに穴を開けてしまって・・・。これは学校からきつく叱られましたが、結果として生徒たちが設備や機器を自ら管理する意識も高まりましたし、IoTを体験できたので良かったと思っています。創造力は、怒られるところまでやってこそ生まれるものじゃないでしょうか。
――生徒たちが、制作物を発表する場はあるのでしょうか。
9月の文化祭が1年間の成果発表の場となっているので、そこに向けていろいろなものを作っています。22年度はVR体験ができるコーナーを作って話題を呼び、校内でも表彰されました。
また、外部のコンテストにも積極的に参加しています。茨城県内の高校生を対象にしたアプリコンテスト「Joyo High school テックコンテスト」には毎年応募していて、昨年度はVRでオンライン授業環境を構築するシステムが入賞しました。VR空間内に教室環境を再現して、黒板やホワイトボードに書き込み、質疑応答ができるようにしたものです。
オンライン授業を体験していた生徒たちの間にあった「ただ受け身で聞くだけでは学習効果が高まらないのではないか」という問題意識から開発したものです。私自身も、生徒に頼まれてVR教室空間に入り、実験台として模擬授業をしました。最初はどうすればいいか分かりませんでしたが、生徒の指示通りにやったことで、見事にVR空間での授業が成立しました。
――「ICT Lab」で活動する生徒たちは、どんなタイプが多いのでしょうか。
クラスにいるときは普通ですが、ここに来るとエンジニアの顔になる生徒が多いですね。会話をしていても、私が感心するぐらい専門的です。
プログラミングにしても、ただ動くだけでは楽しくないのでしょう。スクラッチだけで延々とコードを組み合わせて、何重奏もの音楽を作ってしまうような生徒もいます。「何のために作ったの?」と聞くと、「いや、作れるかなと思って」といった感じです。
そういう面白い子ばかりがそろっています。うちの学校には生徒の個性を認め合う文化があって、「ICT Lab」に来る生徒もクラスの中ではちょっと変わった存在ではあるのですが、普通に友達の中に溶け込んでいます。
――徳竹教諭自身は、日頃からよく「ICT Lab」にいるのですか。
私は基本的にはここに常駐せず、必要なときや時間があるときに来る程度です。ここには、いろいろな生徒が足を運んできます。「授業で使っているChromebookのキーボードが薄くて好きじゃないから、もっと分厚いキーボードを使って何か作りたい」と言ってやって来た生徒もいます。その生徒は今、ゲームを作るのに没頭しています。
【プロフィール】
徳竹圭太郎(とくたけ・けいたろう) 東洋大学大学院在学時から都内の私立高校の講師として勤務。社会科の授業研究に従事する中で工学的なアプローチによる授業改善の必要性を感じ、東京工業大学の博士課程に進学。現在、東洋大学附属牛久中学校・高校に勤務しながら、ICTを活用した学校教育のデザインを研究中。校内ではICT委員会に所属。「ICT Lab」の活動は「ICT夢コンテスト2022」で審査員長特別賞を受賞している。