【北欧の教育最前線】クラス旅行のお金はクラスで稼ぐ スウェーデン

【北欧の教育最前線】クラス旅行のお金はクラスで稼ぐ スウェーデン
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 スウェーデンの教育法では、学校教育は原則無料と定められている。そのため、クラスで旅行に出掛ける場合にも、保護者から集金をすることはできない。子供たちはクラス旅行や卒業パーティーの費用を、教員の関わりなしで自ら稼ぐことが多い。自分たちの目標のために、物を売ったり、イベントを開催したりして「クラス会計」にお金をためていく。

子供の子供による子供のためのディスコ

 10月のある日、子供が通う小学校のドアにチラシが貼られた。「ハロウィンディスコに来てね! 入場料は20クローナ(約260円)」。小学生たちは「ディスコ行く?」「もちろん!」と盛り上がり、わが子たちも興味津々で初めてのディスコに行ってみた。ダンスホールではお菓子やジュースが販売され、ノリの良い音楽が流れ、椅子取りゲームなどの企画もあった。村のほとんどの子供が来ているのではないかと思うほどの盛況ぶりだった。

9年生が主催したハロウィンディスコ
9年生が主催したハロウィンディスコ

 ハロウィンディスコの主催者は地元の9年生(中学3年生に相当)だった。その後も、クリスマスやイースター、夏休み前などの時節ごとに、中学生の異なる学年やクラスによって代わる代わるディスコが開催された。受付やお菓子販売、司会などは全て中学生が行う。それを傍らで保護者がサポートする。収益はクラス会計に入る。卒業時にみんなで旅行に行くためにお金をためているという。どこに行けるかは、稼ぎ次第だ。

 

クラス旅行のためにクッキー販売

 スウェーデンでは学校からの集金がない。特に義務教育段階では教材・教具や給食も全て無料である。学校教育の一環として実施されるイベントは、学校の予算で賄われるのが原則だ。

 そこで、学校主催の研修旅行などとは別に、生徒たちがクラス旅行や卒業パーティーをしたい場合は、ボランティアベースで集金をするか、クラスでお金を稼ぐ必要がある。クラス会計を設置し、卒業までの数年間にさまざまな企画を考えてお金を稼ぐクラスもある。ディスコはその一つだ。

 そのほかには、クラスの生徒が手分けして行うクッキー販売もよく行われる。地元のスーパーの前に臨時のクッキー売り場を作ったり、近所の家を訪問したり、ソーシャルメディアで宣伝したりして販売する。クラス会計のために、クッキーや洋服を手軽に販売できるようなサービスもある。このサービスを使うと、注文を受けてから必要な分だけクッキー缶を購入し、販売することができる。あるクッキー販売会社のウェブサイトには、小学6年生がヨテボリの遊園地に行くために約2万7千クローナ(約36万円)を稼いだ事例が載っていた。

生徒の主体性と保護者の協力が鍵

 クラスによっては、クラス会計を実施しない場合もある。生徒たちのやる気と主体性が必要となる上に、小中学生の場合、クラス会計の運営には保護者の協力も不可欠だからだ。ある生徒は「うちのクラスは、手伝ってくれる保護者が誰もいなくて、クラス会計はやらなかった」と話す。保護者は「保護者会でクラス会計の話が出ると、みんな下を向く」と苦笑する。

 クラスで話し合って実施するクラス会計だが、教員がまったく関わらないのも興味深い。クラス旅行も、生徒や保護者が主催するものであれば、教員は招待されることはあっても仕事として参加する必要はない。

 一方で、学校教育庁は、生徒や保護者の主催であっても、クラス旅行であれば全員が参加できるように配慮が必要だとしている。重要なのは、学校教育は無料であり、クラス会計のための集金やイベントへの参加はあくまでも任意だということだ。

 しかし、販売活動がプレッシャーになるという生徒や保護者の声も報道されている。ある生徒は「近所のドアをノックして売るのが嫌だった」と話す。保護者は職場に販売用のカタログを持って行ったり、ソーシャルメディアでの宣伝を手伝ったりするが、売れ残ったものは自分たちで買い取ることも多々あるようだ。真にボランタリーかというと、そうではない場合もありそうだ。

 自分たちがしたいことを、自分たちで稼いだお金で実施するという過程には、多くの学びがある。しかし、それが実現するには、生徒の主体性や保護者の協力、地域の寛容さなどが必要で、そこには社会経済的背景が関わってくる。舞台裏に生徒や保護者の悲喜こもごもがあると思うと、クッキーを売ったり、ディスコを運営したりしている中学生への見方も変わってきそうだ。

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