【北欧の教育最前線】入学を勝ち取るために住所を変える デンマーク

【北欧の教育最前線】入学を勝ち取るために住所を変える デンマーク
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 人気の公立学校に進学するために、一時的に住所を変更する人たちの存在がデンマークで報道された。戦略的に制度を活用する裕福な家庭や、対策に骨を折る自治体の姿が見えてきた。

利用が少ない学校選択制度

 デンマークの子どもたちは基本的には近所の公立学校に入学するが、定員に空きがあれば学区外の学校に入学を申請できる。保護者には学校選択の自由が認められているが、実際にこの制度を活用している人は少ないという。これは、地域の公立学校に満足している人が多いからかというと微妙なところで、内務・住宅省の調査では満足度の高い学校も低い学校もあるようだ。

 これまで、公立学校の学校選択があまり活用されていない理由は、一般的に公立学校が私立学校に比べて劣っていると見なされていないこと、長年の平等化政策により公立学校間に大きな差が見られないこと、そのため保護者は自分の子どものために学校選択をする強い動機がないこと、などと説明されてきた。

 一方、ある研究者は「学校選択が進まない状況には保護者に起因しない要因もある」と指摘する。自治体が学区外入学を忌避して空きをつくらなかったり、学校選択による学校の統廃合や教員の失業を防ぐために教員組合がネガティブキャンペーンを実施したりするというのだ。

住所変更する保護者たち

 その研究者の主張を裏付けるような現象が、最近、メディアで報じられた。子どもを評判の良い学校へ入学させるために、一時的に住所をその学区内に変更する保護者がいる、というものだ。

 例えば、コペンハーゲン市では、年長のきょうだいが入学していれば、下のきょうだいも優先的に入学できる制度がある。この制度を利用して、年長の子どもの入学手続き前に志望校の学区に一時的に住所変更する。住所変更のために、アパートの一室を借りたり、気付の住所をつくったりするのだ。一度入学すれば、“本当の”住所に戻って生活していても、下のきょうだいも入学できる。

 全国校長会の副代表は、住所変更の手口を使う保護者に対して、近所の学校に気になる評判があるなら、まずその学校と対話することを推奨している。悪い評判があったとしても、学校の実態とずれた偏見である可能性もあるからだ。

 人気校の保護者は、住所変更して入学する子どもが増えていることの弊害を指摘している。生徒数が多くなってしまうし、裕福な保護者がこの手口を使う傾向があるため、在籍する児童生徒の構成に偏りが生まれるというのである。

高校進学でも起きている住所変更

コペンハーゲン市内のある高校(イメージ写真)
コペンハーゲン市内のある高校(イメージ写真)

 住所変更による入学は高校でも起きている。都市部では、高校近くに住む親族や友人、知人の住所へと変更する若者が増えている。人気校に入学するための競争が激しいことと、2012年から、出願者の住所が高校に近いほど有利に働く制度になったことが背景にある。

 国立福祉調査分析センターが50万人以上の生徒を対象に行った調査によると、裕福な家庭の若者ほど住所変更を行っていた。同センターの上級研究員は次のように述べる。「誰かの住所変更のために、本来入学できたはずの若者が一定数、追い出されてしまっている。皆が戦略的に行動できるリソースを持っているわけではないため、住所変更は不平等を助長しているともいえる」。変更された住所に実質的に住んでいれば戦略的な転居と言えるが、実態がなければ意図的な不正であるとも指摘する。

 この状況に対して、コペンハーゲン市は、18年から転居の実態を証明する文書を求めるようにした。この対策を始めてから、住居変更の数は大幅に減少している。居住の実態が認められず不認可となる場合や、申請自体を取り下げる場合もある。ただし、疑いのある申請は昨年だけでも100件以上あり、文書のチェックや保護者への面接などで2~3カ月かかり、骨の折れる対策となっている。

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