公立高校では全国初となる「宇宙探究コース」の開設を来春に控え、専門教員として和歌山県立串本古座高校に着任した藤島徹教諭。すでに今年度から、授業や部活動、地域の活性化など多岐にわたって活動している。「目標は高く、この高校から宇宙飛行士を」と語る藤島教諭に、インタビューの最終回では宇宙がより身近になる未来を見据え、子どもたちに寄せる期待を聞いた。(全3回)
――宇宙を舞台にした映画や小説、漫画は数多くありますが、好きな作品はありますか。
『アポロ13』という、米国が「月に人類を送り込む」というミッションを描いた映画が好きですね。
―――『エイリアン2』という1986年の映画が57年後の未来を舞台にしていて、人類が他の星に入植して工場を建てるという話があります。そういったことが現実になり得るのでしょうか。
実はもう、「月に工場を作ろう」「月で暮らそう」という計画は出ています。国際宇宙ステーションは高度約400㌔のところにありますが、そこで人類が得た知見はとても多く、次は約38万5000㌔離れた月にそういったステーションを作り、ゆくゆくは工場を作って住もう、火星へ行く足掛かりにしようという話になっています。
――『エイリアン2』の未来はそう遠くないのですね。何十年後くらいになる見通しなのですか。
昨年の11月にも「アルテミス」という米国のロケットが、「月の周りに宇宙ステーションを作る」というミッションで飛び立ちました。実際に、2030年代ごろにはできてしまうんじゃないでしょうか。
――そうなると今の子どもたちにとって、「就職して宇宙へ行く」というのは現実的な話だと言えそうですね。
そう思います。各方面で、「月へ行こう」「月で何かビジネスをやろう」という動きがあります。「月の土地を売ります」と言っている人もいます。誰に許可をもらったわけでもなく、勝手にやっているだけなんですが、それを買う人もいるほどです。いずれ月でのビジネスは、現実的なものになってくると思いますね。
――一般人が宇宙旅行できる日も近いのでしょうか。どのあたりまで行けそうなのでしょう。
2021年に、実業家の前澤友作さんらが、日本の民間人として初めて国際宇宙ステーションに滞在しましたが、今はまだ「お金持ちしか宇宙に行けない」というイメージがあります。でも、そうやって経済力のある方がどんどん宇宙に行ってくれれば、宇宙旅行の値段は下がってくると思います。
国際宇宙ステーションは高度約400㌔ですが、実際のところ一般的には高度100㌔まで行けば、「宇宙に行った」ということになります。なので、国際宇宙ステーションまで行かなくても、100㌔をちょっと超えて帰ってくるような宇宙旅行は、まもなく頻繁にできるようになると思っています。
――高度100㌔からだと、どんな景色が見えるのでしょうか。
地球上にいても、遠くの海を見ると地球が丸く感じられます。特にこの串本町は本州最南端に位置し、南はフィリピンまで陸地や島がないので、太平洋の方を見ると地球の丸さがよく分かります。高度100㌔からだと、そういう光景がもっとリアルに見えて、青く美しい地球の姿を見ることができるんじゃないでしょうか。
――串本町に国内初の民間ロケット発射場を建設することになったのは、フィリピンまで南に何もないという立地が関係しているのでしょうか。
南や東に障害となるものが少ないという環境は非常に重要です。だからここ串本は、ロケット発射場に選定されたのではないかと思っています。
――串本町から間もなくロケットが打ち上げられるということで、串本古座高校でもロケットに関する学習活動をしているのですか。
私が顧問を務める「CGS」という地域貢献の部活動で、「ロケット班」という班を作りました。その班で県のロケット大会に出場しています。近いうちに「モデルロケット」という火薬のロケットを打ち上げる予定です。
打ち上げは部活動でやっていますが、授業でもその話をしています。興味を持ってもらって、部活動に入る生徒を増やせたらいいなと思っています。CGSでは観光客向けのガイドの作成など地域に根差した活動をしていて、町を活性化させる上でロケットが一役買っているかなと思います。
それから、私自身は宇宙に関する出前授業を小中学校でしていて、ロケットなどの宇宙開発について話をしたり、子どもたちに関連した工作をしてもらったりしています。
出前授業はかなり以前より行っていて、通算400回以上に及ぶのではないかと思いますが、当時は私の娘たちがアシスタントをしていました。その役目を本校の生徒たちが担ってくれたらと考えています。学校を挙げて宇宙の出前授業をやることで、地域の理解を得て、串本古座高校の宇宙探究コースに進学する子を増やしていけたらいいなと思っています。もちろん、高校生にとっても良い機会になると思います。
――学校に着任されてまだ2カ月ですが、これまでの経験を生かして多岐にわたる取り組みをされているのですね。
もちろん、高校生に教えるのが本務ですが、やっぱり地元の皆さんの理解あっての教育活動だと思っているので、地元の小中学校への出前授業の他にも、大人向けの宇宙教室や宇宙講演会みたいなものを開きたいなと思っています。
町にロケットの発射場ができたことは、地元の皆さんにとっても大きなことです。でも、それによって実際にどういうことが起こるのか、どういった街の発展につながるのかはよく分からない方もいると思います。私がそういった話をして、「なるほど、そういうことがこの町で起ころうとしているのか」と理解を深めてもらいたいと思っています。
そうやって地域の理解を得ながら、この高校で学んだ生徒たちが大学を卒業する頃には、たぶんロケットが打ち上がって産業も芽生えていると思います。だから、卒業生にはこの町に帰ってきてほしいですし、さらに高い志を持って「将来は宇宙飛行士になりたい」と話すような子が増えてくれたらいいなと願っています。
私自身もこの高校から宇宙飛行士が出てくれることを目標に頑張りたい。県から与えられた任期は5年ですが、その間に宇宙飛行士の卵をたくさん育てていきたいと思っています。
――最後の質問ですが、藤島教諭も宇宙へ行きたいですか。
そうですね。宇宙飛行士になるのはもう難しいかもしれませんが、宇宙旅行ぐらいはしてみたいと思います。青く美しい地球を宇宙から見てみたいという思いは、ずっと抱いています。
【プロフィール】
藤島徹(ふじしま・とおる) 1967年、神奈川県生まれ。日本大学理工学部航空宇宙工学科卒業。(公財)日本宇宙少年団、学習塾講師などを経て、(一財)日本宇宙フォーラム。2011年4月より4年間、18年5月より約5年間、JAXAへ2度出向。