東京学芸大学大学院教授
私の研究室で、自閉スペクトラム症(ASD)の生徒の余暇の過ごし方を調べたことがありました。「自由な時間にどんなことをしていますか?」という質問に、「カードゲーム」「アニメを見る」「音楽を聴く」「マンガを読む」「ライトノベル(ラノベ)を読む」「ネットを見る」など中高生らしい回答がありました。一方、「やってみたいけれど、できないことはありますか?」という質問には、「友人と共に遊ぶこと」「友達と遊びに行きたいけれど友達がいないのでできない」「同じ趣味の友達がゼロ」などの回答がありました。
前回、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもへの支援のための5つのポイントのうち、「構造化」を最も重要なものとして挙げました。今回はその点について詳しく説明します。ASDの子どもたちは余分な情報をカットし、必要な情報だけを意識に残すような脳の情報処理が得意ではありません。
自閉スペクトラム症(ASD)の人たちへの支援で大切なことについて、イギリスの自閉症協会は「SPELL」というキーワードで紹介しています。これは5つの言葉の頭文字を合わせたもので、「S」はStructure(構造化)、「P」はPositive(肯定的アプローチ)、「E」はEmpathy(共感性)、「L」はLow Arousal(刺激の低減)、「L」はLinks(連携)です。
自閉スペクトラム症(ASD)の人は、定型発達の人に比べて共感が乏しいことが指摘されてきました。それは対人コミュニケーションの問題の一つの側面です。共感には認知的共感と感情的共感という2つの側面があります。認知的共感とは相手の視点に立って感情の状態を理解すること、感情的共感とは相手の身になって感情的に反応することです。
自閉スペクトラム症(ASD)の主な特徴の一つに、行動・興味・活動の限定された反復的な様式があります。強いこだわりの問題です。手をひらひらさせるといった動きを繰り返したり、いつも決まった物しか使わなかったり、決まった言葉のフレーズを繰り返したりといった行動が見られます。
自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちの多くは、作文に苦戦しています。急に書けと言われても何を書いていいのか分からないと言っていた子もいました。ASDの子どもは、カッコ内に当てはまる語句を探すといった問題にはいとも簡単に、そして正確に答えられることが多いのですが、「どうして○○なのですか?」のような問いに答えられないことがよくあります。
自閉スペクトラム症(ASD)の人の認知の特徴として、「木を見て森を見ない」傾向があります。木を見る場合も枝葉ばかりに目が行き、幹を見ることができません。これは要点を把握することの難しさにつながります。
人とのコミュニケーションにおいては、「このような状況では相手はどう考えるか」とか、「ここでこう言ったら相手はどう思うか」など、相手の立場に立って物事を考えることが重要です。自閉スペクトラム症(ASD)の子にはそれが難しく、そのためにクラスメートとうまく関われないことがよくあります。
自閉スペクトラム症(ASD)の人たちの対人コミュニケーションの特性として、まず挙げられるのは会話の問題です。話すことはできても、かみ合った会話がうまくできないことが多いのです。例えば、次のような特徴があります。
小学5年生のユウトくんは給食の時間になるといつも気が重くなります。そのクラスでは数人のグループになって給食を食べるのですが、他のクラスメートが楽しそうに話す会話の輪に入れません。話題を合わせることができないのです。また、小学4年生のメイさんはウミウシが大好きです。話題といえばちょっと不思議な海洋生物のことばかりで、クラスに気の合う友達が一人もいません。
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