自閉スペクトラム症(ASD)の人は、定型発達の人に比べて共感が乏しいことが指摘されてきました。それは対人コミュニケーションの問題の一つの側面です。共感には認知的共感と感情的共感という2つの側面があります。認知的共感とは相手の視点に立って感情の状態を理解すること、感情的共感とは相手の身になって感情的に反応することです。
ASDの人たちは、このうち認知的共感に問題が見られることがさまざまな研究から明らかになっています。一方、感情的共感においては問題が見られないことも分かっています。相手の気持ちを理解することには困難さがあるものの、感じることはできるということです。ASDの子どもたちは誰かが泣いているのを見て、自分も泣いてしまうことがありますが、それは感情的共感が働いていることを示しています。
認知的共感は他者と経験を共有することとも言えます。経験を共有するためには物事の認識の仕方が似ている必要があります。同じものを見ても見え方が違うなら、経験を共有するのは難しくなるでしょう。そして、認知スタイルの異なるASDの人と定型発達の人が同じように経験を共有できにくいことは、共感の問題に関係すると考えられます。そうであるなら、共感が生じにくいのはASDの人だけの問題でなく、ASDの人と定型発達の人との間で生じる問題と言えるかもしれません。例えるなら、お互いの波長が違うために共鳴が起こりにくいという感じでしょうか。
このことに関し、ASDの特性を持つ人は同じタイプの人に対して共感的な反応を示すことが最近の研究で明らかになり、注目されています。ASDの特徴を持つ人とそうでない人の行動を記した文を読んでもらい、自分に当てはまるかどうかを判断してもらって脳の活動を測定したところ、ASDの人はASDの特徴を持つ人についての文を読んだときに共感に関係する脳の部位が反応したのです。
この実験の結果から示唆されることは、ASDの子どもも自分と似た特徴を持つ子どもとなら自然に共感的な関係が築けるということです。この知見に基づくと、通級指導教室でのASDの子ども同士の小集団での活動や、学校の外でもそのような交流の場があることはASDの子どもたちの心の育ちにプラスの影響をもたらす可能性があると考えられます。