【未来へのハッシャダイ】 若者の力を引き出す大人

 若者の「選択格差」を是正する――。そんな理念を掲げて、高校などでキャリア教育に関わる“元ヤンキー集団”に、注目が集まっている。その名前はHASSYADAI social(ハッシャダイソーシャル)。かつては自分自身も非行に走っていたと話す勝山恵一代表理事は、18歳の子どもたちにどんな思いで接しているのだろうか。格差が広がる中、若者が自分の人生を選ぶ力を引き出すために大人には何ができるのか、勝山代表理事に聞いた(全3回の1回目)。

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圧倒的な熱量と思いで若者のキャリアを支援する

――最近、いろいろな高校の先生からハッシャダイソーシャルの名前を聞きます。

 自分たちは「全ての若者に自分の人生を自分で選択できる力を」というメッセージを掲げて活動しています。高校だけでなく、少年院や児童養護施設に出向くこともありますね。

本気のパッションで若者と向き合う勝山代表理事

 今の世の中には、生まれ育った家庭環境や外的な要因によって、自分の未来の可能性やキャリアを諦めている若者がたくさんいます。彼らに直接会いに行って、自分たちの圧倒的な熱量と、圧倒的な思いを伝えて、彼らのキャリア支援に本気で寄り添っていこうというのが、ハッシャダイソーシャルのミッションです。

 自分自身は京都で生まれ育ったのですが、つい7年前まで非行に走っていました。ところが、19歳のときに子どもができた。それなのに自分はほぼニートで、「マジでヤバイ」状態だったんです。そのときに救いの手を差し伸べてくれたのが、妻の兄で、今の㈱HASSYADAI代表の久世大亮です。

 そこで営業の仕事を始めたのですが、それをきっかけにいろいろな人と出会い、新たな経験を積み、自分自身の人格さえも大きく変わりました。そして、次は自分が機会を届ける立場となって活動をしていきたいなと思い、一般社団法人のハッシャダイソーシャルを設立することにしました。

 今思えば、自分の可能性や未来を応援してくれる人たちが、偶然周りにいたということに気付かされます。僕の故郷はひとり親家庭の子どもや児童養護施設出身者が多い地域です。自分もそうでしたが、未来にワクワクするよりも、社会やキラキラしているものに嫉妬やねたみを抱く。可能性を見いだすよりも、奪う事、可能性を否定することが、日常的に多くありました。そんなコミュニティーだと、悪いことをした方が承認されるから、子どもたちは非行に走ります。自分が子どもの頃に非行に走ったのも、そういう環境的要因が大きかったと思います。

「かっこいい」の定義が変わる

――子どもの可能性を否定する周囲の大人の中に、教師は含まれていますか。

 僕自身は、学校の先生には恵まれていたと思います。もちろん、価値観の合わない先生も中にはいましたが、担任の先生は自分のことを分かってくれていたし、ひとり親という家庭環境も理解してくれていました。悪いことをして叱られることもありましたが、ただ怒られるというよりも、ちゃんと僕の背景にある事情を理解した上で対応してくれていることが、子どもながらに分かりました。

 ヤンキーや非行少年は教師が嫌いかといえば、そうでもないんじゃないかと思います。少年院に行くと、そこの子どもたちが将来なりたい職業の中には、学校の先生が入っていることもあります。それから「人に寄り添う仕事がしたい」という声も聞きますね。なぜそうなのかといえば、少年院に入ってから出会った大人が、彼らのロールモデルになっているからではないでしょうか。

勝山代表理事の考える「かっこいい」とは

 つまりそれって、彼らにとって「かっこいい」の定義が変わったということなんです。

 僕が地元にいたときは、けんかに強いことなどが「かっこいい」とされていたし、そうしないとコミュニティーの中で存在を承認されませんでした。そもそも、承認してくれる大人が不在でした。

 でも、世の中にはそれ以外にもたくさんの「かっこいい」があって、それを実践している大人と出会うと、その「かっこいい」に憧れるわけです。仕事を始めたときの僕自身がそうでした。

 おそらく、「大人を信じられない」と言う子どもたちは、今まで大人から自分のことを承認された経験がなかったり、応援されることがなかったりした人が多いのではないでしょうか。だから僕は、出会った子どもたちのことは、基本的に承認します。

――それは、日本の子どもたちの自己肯定感の低さとも、関係があるかもしれませんね。

 自己肯定感が低い理由として、自分に自信がなく、自分で自分のことを承認できないことがあると思うんですが、その背景にあるのは「成功体験のハードルが高過ぎる」ことではないでしょうか。

 「今までの人生の中で、成功体験って何かある?」と聞くと、答えられない子どもが本当に多いんですよ。これは大人にも言えることです。

「ハッシャダイソーシャル」の勝山代表理事と共同代表の三浦理事

 僕は、自分自身に対して承認する行動を意識的にするようにしています。そうすることで、自己肯定感が変わってくるんです。例えば、電車の中でお年寄りに席を譲ったり、トイレをきれいに掃除したり、そういうちょっとした良いことをするたびに、自分で自分のことを承認するんです。

 これは仲間や若者たちに対しても同じで、良いアクションをしているのを見掛けたら、すぐに褒めます。ハッシャダイソーシャルではオンラインスクールもやっているのですが、そこに参加している人たちの挑戦をどんどん承認して、後押ししてあげることで、コミュニティー全体の熱量がどんどん上がっていくんです。そういう場があれば、子どもたちの自己肯定感も「高まる」、というより「健全」な状態になるんじゃないかと思います。

共にハッシャダイソーシャルを創り上げた相棒

 ハッシャダイソーシャルは、㈱HASSYADAIの社員だった勝山代表理事と共同代表の三浦宗一郎理事が、わずか2カ月で1500万円もの寄付金を集めて立ち上げた。勝山代表理事が「僕の役割は外交で、宗ちゃんがプログラムをつくる」と、絶大な信頼を置く三浦理事に、ハッシャダイに参画するまでのいきさつを聞くと、まるで漫画のようなエピソードを話してくれた。
 三浦理事は高校卒業後、何か新しいことにチャレンジしたいと思いながら、自動車工場で働いていた。そんな折、偶然SNSで合同会社DMM.com(以下、DMM)の亀山敬司会長が「DMMアカデミー」という私塾を開くことを知った。「きっとすごい経歴の人ばかりが選ばれるのだろう」と思いながらも、どうしてもチャレンジしてみたかった三浦理事は、東京に出掛けたついでに亀山会長に手紙を届けることにした。100円ショップで買った便箋を使い切るほどに書き直し、思いを込めた手紙をDMMの本社に持参すると、何と亀山会長本人が直接会ってくれるという。
 三浦理事の話を聞いた亀山会長は「今夜、若いやつが事業プレゼンに来るんだが、君も一緒に来るか」と誘った。なんと、そのプレゼンをしに来た「若いやつ」というのが、㈱HASSYADAIの久世代表だった。
 この度胸を買われてか、その後に三浦理事はDMMアカデミーの最終選考にまで進んだのだが、勤めていた自動車会社をすぐに辞められない状況があり、やむを得ず辞退することにした。その後、自動車会社を辞めて自分を見つめ直すための旅に出た三浦理事が、帰ってきて門をたたいたのが、㈱HASSYADAIだった。さらに偶然は続き、㈱HASSYADAIは三浦理事が入社した直後に、DMMのグループ企業となった。六本木に移転後、三浦理事は本社のトイレで亀山会長と再会したそうだ。
  「講演では、毎回スイッチを入れ直すんです。遺言だと思って話すようにしています」と、勝山代表理事にも引けを取らない熱量で語る三浦理事。勝山代表理事の考えに共鳴しつつ、時には徹底的に議論を戦わせることもある。
 そんな二人でけん引してきたハッシャダイソーシャルだが、勝山代表理事は最近、ある変化を感じ取っている。
 「前は勝山・三浦のハッシャダイソーシャルだと思われていたんですが、僕らと変わらない熱量でハッシャダイソーシャルの哲学や思想を体現している仲間が、たくさん集まってきているんですよ」
 ハッシャダイソーシャルは今、仲間たちと共に第二の創業を迎えている。

(藤井孝良)

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【プロフィール】

勝山恵一(かつやま・けいいち) HASSYADAI social代表理事。1995年、京都府生まれ。高校をはじめ、少年院や児童養護施設などで講演を行いながら、さまざまな若者のキャリア支援プログラムを展開する。3児の父。

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