【北欧の教育最前線】 「ヒキコモリ」と名付けられた支援活動

【北欧の教育最前線】 「ヒキコモリ」と名付けられた支援活動
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 スウェーデン・ウプサラ市の医療福祉サービスの一つに、「HIKIKOMORI(ヒキコモリ)」と名付けられた活動がある。長期間家に閉じこもって社会から孤立している18歳以上の若者に対して、社会復帰の支援活動を行っている。2010年に開始してからニーズは高まっているという、担当者のディアナ・グスタフソンさんにお話を伺った。

本人の意思が最重要

 ウプサラ市でヒキコモリの活動を行っているのは、ソーシャルワークや心理学の専門性を持つ3人の職員だ。現在は18歳から35歳までの25人ほどを支援しているという。それぞれの職員が8人前後を担当するが、常にチームで全員の状況を見守りながら支援を行っている。

 なお、支援する相手のことは、クライアントと呼ぶこともあるが、普段は参加者と呼ぶとディアナさんは言う。社会とのつながりを作るヒキコモリの活動に参加しているからだ。上下関係を感じさせないこの呼び方にも、支援者と参加者の関係性が見て取れる。

 活動は、サポートなしでは社会復帰が困難な状況にいる人に対して、その状況を変えたいという本人の希望に応じて開始される。もちろん、初めは家族や友人などからの連絡があることも多い。しかし本人の意思がないのに無理やり支援を開始することはない。家族と一緒に面談に来てもらうなどしながら、本人の希望を確認する。重要なのは本人の意思なのだ。

 活動には3つの目標がある。最大の目標は、参加者が教育・訓練を受けたり、職業についたりすることだ。実際に、たいてい1年半ほどの支援の後に、約半数の参加者は目標を達成するそうだ。

 しかしその前に、第一の目標は、全員に対して、社会に存在する支援策の情報を伝えることだ。活動に参加する人は、本来受けられる支援を受けていないことが多い。経済的支援や医療ケアなどは、参加者の自立に必要である。

 2つ目は、孤立を解消することだ。家族や周囲の人と関わりを持ち、社会的不安を解消することで、社会活動に参加する素地を作る。これは、9割程度の参加者ができるようになると言う。

始まりからフォローアップまでの6ステップ

 支援は、大きく6つの段階で進められる。

 第1に、支援の合意を得た上で、診断テストや自己診断を行い、診断書を書く。第2に、困難を特定し、目標と優先度合いを設定する。そして参加者と支援者が話し合いながら、支援策や支援機関との調整を計画する。もちろん、こうしたステップは順調に進むとは限らない。参加者の状況に応じて、丁寧に面談を重ねていく。

 第3に、支援のための面談を定期的に行いつつ、医療や経済面に関する外部の専門家の必要性を判断し、参加者のニーズに応じて外部の専門家と連携する。また、連絡を取り続ける支援を行ったり、就業・就学の可能性や意志を確認したりする。第4にようやく、日常生活のルーティーン支援が位置付けられている。睡眠、食事、薬、活動、衛生面、スケジューリングなど。

面談やグループ活動を行う和やかな部屋
面談やグループ活動を行う和やかな部屋

 その上で、第5には社会的不安に対応する。個人面談を行ったり、グループ活動を行ったりする。ヒキコモリのオフィス内では、数人でゲームやパズルをして人と関わることに慣れ、少しずつ映画やボーリングなど外出を行ったりもする。心理療法を受けることもある。

 そして最後の第6段階では、全体的な状況や気分、今後の見通しを本人と確認し、最終結果の評価を行う。必要に応じて活動を延長したり、学習や訓練や労働を開始したりする。

徹底した個別対応

 以上のように大まかなステップや典型的な活動例はあるものの、実際のプロセスは徹底した個別対応だ。外に出られない参加者がいたら、支援者は参加者の家で活動を開始する。本人の様子を見つつ、徐々に外に出られるよう促していく。まずは一緒にバス停まで歩いて引き返す、次は一緒にバスに乗って次の停留所で降りて引き返す、そして少しずつ乗車距離を長くしていくといった具合だ。

 こうした丁寧な個別対応の根底には、参加者の視点から困難を理解する姿勢がある。

 例えば1時間の面談は、準備や事後の心身の回復を含めて1日がかりの仕事かもしれない。さらには、数日前から心の準備が必要かもしれない。それぞれの参加者が感じる困難を理解することで、必要なサポートが見えてくる。

 客観的に見て何ができて何ができないか、ではなく、本人が何をどのように困難に感じるかが非常に重視されているのだ。それは、参加者にとって、自分の意思と自立性が尊重され、必要なサポートを適切に受ける練習でもある。そしてヒキコモリでの活動を終えた後の社会生活においても、その重要性は変わらない。生活は続いていくのだ。

 ヒキコモリの活動は、一人一人に目を向けるとともに、社会のありようを見直す糸口にもなるだろう。

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