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 愛知県が「ラーケーション」を導入し話題になっている。「ラーニング」(学習)と「バケーション」(休暇)を組み合わせたこの造語は、公立学校などで平日に年間3日の休みが取れるようにする取り組みだ。子供たちが保護者と一緒に過ごす時間を増やしたり、学校外で学ぶ機会を作ったりできるほか、大人の「休み方改革」にもなると期待されている。

 スウェーデンでは「ラーケーション」とは異なるものの、10日までなら自己都合で学校を休める。そもそも授業日数が年178日と少ない。

授業日数に「上限」がある

 スウェーデンの教育法は基礎学校(日本の小中学校に相当)の授業日を年間190日以内に制限している。1日の授業時間も低学年で6時間以内、それ以上では8時間以内と規定している。さらに、学校教育法では、1年度は178日以上の授業日と12日以上の休日を設けると規定している。この2つの法律により、授業日は年間178日間となっている。

 教育法で「以内」と上限が定められたのは1986年のことで、それまではナショナル・カリキュラムの授業時間数を根拠に、実質的に下限規程のみとなっていた。

 上限が設けられた理由はやや複雑だが、その背景には子供たちを学校に拘束し過ぎるのは発達上好ましくないという国民の声があった。

上限ができたわけ

 スウェーデンでは、70年代に多くの生徒が個別の指導を受けるようになり、画一的な授業への批判が高まった。そこで、地域や生徒の事情に寄り添って意思決定ができるようにしようと、政府は自治体や学校に権限を委ね、教師は生徒に学習内容や勉強方法の選択を任せようとした。この際に導入されたのが、自由活動(生徒の自由選択時間)だ。

 しかし、週当たり80分間も充てられた自由活動の内容は現場に委ねられたため、放課後の時間に自習をさせて時数カウントをする学校もあった。こういったずさんな運用では、義務教育という名目のもと、生徒が学校に拘束され、無駄な時間を過ごすことになるため、一部の教育委員会は時間割に関するルールを作り、細かく管理することにした。

 85年に教育法改正の方向性が議論された際、教育省はこうした現場での細かなルールを法律に取り入れようとした。しかし、国民から、教育の内容まで法律で縛るのは地方分権の趣旨に反するし、生徒に対する不必要な介入につながるという批判が出た。

政策文書には、子供には余暇が重要だと明記されている
政策文書には、子供には余暇が重要だと明記されている

 また、学校で行われる全ての活動には目的があることから、授業であっても、自由活動であっても、生徒にとっては外から与えられた目的に従うことになり、それ以外の見方をする機会が確保できるとは言えない、と指摘された。自由活動は学校や生徒の状況に応じて柔軟な学習ができるようにと考えて導入されたが、結果として管理を強化することになってしまったと言える。

 そこで政府は、国民からの意見を尊重するとともに、子供たちが全人的な発達をするためには、学校だけではなく、余暇などで自由に過ごすことも必要だと考えて、義務教育の時間を限定することにした。そこで授業日の上限が初めて導入された。

年に10日までは学校を休める?

 スウェーデンの学校に子供を通わせて驚いたのは、年度初めに校長から「短い休みは担任から、長い休みは校長から、事前に許可を得ること」「自己都合で休めるのは年に10日までなので、計画的に」とアナウンスされたことだ。法律を読むと、権利として堂々と休めるとは書いていない。生徒には就学義務があり、特別な事情がある場合には校長が許可できる、と規定されている。しかし、多くの保護者や学校関係者は178日からさらに「10日までは休める」と認識している。

 就学義務の要件は厳格に定められていて、子供に義務を果たさせない保護者には罰金が科される。ある自治体は、保護者の年収の1%が科され、改善されない場合にはさらに0.5%が追徴されると定めている。このため、保護者にとっては、事情を説明して事前に許可をもらう方が、リスクが少ない。仕事よりも休暇を優先する家庭があることから、ルールを明確にしておく必要があるのだろう。

 学校側も無断で休まれるよりは、事情を把握しておいた方が対応しやすい。家庭で虐待があった場合などにいち早く気付き保護する必要もある。保護者の仕事の都合で子供が長期欠席する、と連絡すると、たいていの場合、「子供には教育を受ける権利があって、尊重される必要がある」とくぎを刺される。コミュニケーションが上手な先生からは「帰ってきたら旅行の様子をクラスで発表してね」と、さりげなく補充課題を出されることもある。

 日本では授業日数を定めた法律はない。学校教育法施行規則で標準授業時間数が決まっているため、これが実質的な下限規程として機能している。文科省の調査によると、大部分の小中学校で年間200日超の授業日があるという。大人の労働時間が規制されているように、子供たちの授業日数にも、健全な発達を保障するという観点から上限を設けてはどうだろうか。

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