【連載】いじめをなくす

 紙面に掲載した連載の初回分を紹介します。

学級への満足度を上げる  子どもを起点に教育実践

 いじめは事件が起きるたびに話題にされるが、それが未然に防がれることが最も重要だ。和歌山県教委の今年度のいじめ問題への対応として、「子どもからの小さなサインをも逃すことのないように意識を高くもち、いじめの未然防止、早期発見・早期対応、早期解決に向けて組織的に取り組む」と、未然防止を打ち出している。それでは、いじめを未然に防ぐにはどうしたらよいか。そのツールとして多くの学校で用いられているのが、心理テスト「Q―U」だ。

 正式名称は「Questionnaire―Utilities(楽しい学校生活を送るためのアンケート)」。学校・学級生活への不適応、不登校、いじめ被害の可能性の高い子どもなどを早期に発見できる唯一の標準化された心理テストとして、学校現場の評価も高い。

 いじめ対策としては、〝実態の正確な把握〟が強調されるが、それは子どもたちの声をとらえたものになっているのか。Q―Uの開発者である河村茂雄早稲田大学教育・総合科学学術院教授は、「客観的事実に基づいた理解というより、子どもたちがどう受け取めているかの理解を深めなければならない。教師は何をしたかという以上に、それが子どもたちにどう受け取られているのかを知らないといけない」という。

 教師が励ましのつもりで「がんばれ」と子どもの肩を叩いたとする。しかし、子どもはそれを叱責と受け止めてしまう可能性もある。「教師の思いと子どもたちの受け止め方がずれてしまっている場合が多い。子どもにどう受け止められているかを前提に、教育実践を組み立てる必要がある」と同教授は分析する。

 このQ―Uは「学級生活満足度尺度」を示したもの。その発想は「カスタマー・サティスファクション(CS、顧客満足度)」であるという。「企業は当然CSに努めているが、それが病院や役所など公的な領域に入ってきて、いま学校も考えなくてはならない」。

 そこで学級生活である。同教授は、Q―Uから得られた多くのデータの分析から、学級集団の状態が教育の成果を左右することに言及、「学級生活の満足度が高いクラスでは、学級内にルールが内在化し、子どもたちは主体的に生き生きと活動。学級全体に活気がある」と指摘。つまり、満足度の高い学級ではいじめが起きる可能性が低く、逆に低い学級はいじめが起きる可能性が高い、というのだ。

 Q―Uの結果から、満足度の低い子どもには積極的に教師が声をかけたり、子ども同士で褒め合ったりする機会を設ける。このような取り組みで学級の満足度が上がり、いじめも起きなくなる。子どもたち・学級集団の状態を的確に把握し、それに基づき教育実践を展開する。そうすればいじめの未然防止に一定以上の成果が上がる。「いじめや不登校をなくすためにではなく、日々の子どもたちの学校生活の満足感を保障するという発想。子どもたちにとって学校生活の基本は学級生活であり、そこの最低限の充実感、喜びを保障してあげたい。Q―Uは顧客満足度の学校版である」と。

 教師は、基本的に、通常は評価する立場であり、評価されることに慣れていない。自分の子どもたちへの関わり方がどのように受け止められているかを知り、修正すべき方向を探すことがこれからは求められるだろう。言い古された言葉だが、「教師が変われば、子どもも変わる」。

 河村教授は「子どもを起点にした教育実践のあり方を考える時代が来ている」と示唆するのだ。

 いじめは、いつも学校に存在するといってよい。自殺などそのときどきのセンセーショナルなニュースに伴って、大きく報道され、社会問題となる。事件は報道合戦が沈静化していくにつれて社会的には忘却されていくが、いじめ関連の事件が起きると、また騒ぎになる。この繰り返しだ。しかし、いじめはその間もなくなったわけではなく、学校には必ず存在している。当然だが、教師も見過ごしているわけではなく、いじめ撲滅のために全国の学校で真摯な取り組みが展開されているわけだ。これらの取り組みに資することができるような情報を、この連載で提供していく。