問われるのは大人社会だ 学校教育とChatGPT(藤川大祐)

問われるのは大人社会だ 学校教育とChatGPT(藤川大祐)
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 本紙電子版4月6日付で報じられているように、ChatGPTに代表される生成AIの学校での活用について、自民党は対応策を検討し、文科省は学校現場の参考となる資料を作成することとしている。

 改めて確認すると、ChatGPTは、米国OpenAI社が開発した大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)を基盤としたAIシステムで、大量の自然言語を学習しており、自然言語での命令や質問に自然言語で応答するものだ。

学校教育での活用場面

 ChatGPTの活用法にはさまざまなレベルのものがある。学校教育での活用場面を想定しつつ私なりに整理すると、以下のようになる。

①単純な質問に回答してもらう

 「昆虫の特徴はなんですか」「日本でいちばん長い川はなんですか」「日本にはなぜ桜の木が多いのですか」「小学生が合唱で声をそろえて歌うためには、どのような練習が効果的ですか」「足の遅い小学生が速く走れるようになるには、どのようなトレーニングが有効ですか」「社会科見学でお世話になった地域の農家の人へのお礼状の文章を作るとどのようになりますか」などなど、学校で子どもたちが知りたい単純な質問に回答してもらうことが可能だ。

 少々の応用として、「小学3年生の学級のお楽しみ会の企画を100種類教えてください」「小学校の学級でいじめを防止する方法を100通り教えてください」というように、たくさんのアイデアを出してもらう使い方もできる。

 また、「『ごんぎつね』の感想文を、日本語400字程度で書いてください」「中学生が校則を破って授業中にスマートフォンを使用してしまったことについて、反省文を書いてください」など、本来は人間がじっくり考えるべきだとすることについて、それらしい応答がなされる。また、文章の翻訳や要約、プログラミングなどに使うこともできる。

②プロンプトの内容を工夫し、複雑な要求に応じてもらう

 ChatGPTへの質問などの要求は「プロンプト」と呼ばれるが、このプロンプトにかなり複雑な要求を入力すると、まるでプログラミングをしたように、ChatGPTとの間でかなり複雑なやりとりを行うことが可能だ。漫画家のうめさんが、12歳のお嬢さんの作文の宿題をサポートするために作成したプロンプトが、SNSで公開され、話題になっている。

 うめさんの作ったプロンプトでは、「あなたはAI家庭教師です」「あなたは、前向きに、明るく、やさしく、親しみやすいキャラクターで、私をいつも励ましてください」とChatGPTの役割が書かれ、「対話を通じて、私が自分で作文を書けるようなアイデアをまとめることが、目標です」と目標が書かれ、さらに細かくフローやルールが書かれている。

 このプロンプトを入れることで、ChatGPTが「AI家庭教師」として一問一答で作文の構想を立てることを手伝う対話を進めてくれる。「素晴らしいテーマですね!」「大丈夫です!」などと、一貫して励ましてくれるので、作文に自信がない人が使っても、諦めることなく対話を進められるようになっている。

 こうした例を参考にすれば、子どもの学習に役立つ多様なプロンプトが作られるようになるだろう。

③ChatGPTを組み込んだサービスの活用や開発

 ChatGPTについては、その大規模言語モデルを他のソフトウエアと連携するためのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)が利用可能となっており、企業が自社の商品・サービスを説明するチャットボットに活用する例がすでに多く見られる。

 また、検索サービスと連携した「Bing」やPDFを読み込んで要約などを行う「ChatPDF」など、一般向けのサービスもある。ChatGPTは2021年9月までの情報がもとになっているのでそれ以降の新しい情報について調べることはできないが、Bingを使えば最新の情報を自然言語を使って調べることができる。

 ある程度のプログラミングの知識があれば、ChatGPTの大規模言語モデルを使うプログラミングを行うことができる。今後、教育向けのアプリが開発されることが増えていくであろうし、小中学生が自分たちのためのプログラムを作ることも出てくると考えられる。

 以上のように、ChatGPTが登場したことにより、次々と新しいことができるようになっており、学校教育においても効果的な活用が期待される。

未解決の課題が山積

 だが、学校教育での活用には課題が山積している。

 第1に、ChatGPTに関する倫理的課題が未解決である。自然言語の学習において著作権や個人情報がどのように扱われているかが不明であること、入力された情報が漏えいする恐れがあること、回答がどのような価値観を前提にしているかが不明確なこと、意図的に誤学習が促される恐れがあること――などである。

 第2に、回答の信頼性が低いことである。固有名詞に関わる質問で、もっともらしいウソの回答をすることが多いことなどが問題となっている。

 そして第3に、これまで人間がやってきたことの肩代わりをどこまでAIにやらせてよいのかという問題がある。特に、子どもの学習において、これまでであれば苦労して調べたり練習したりしていたことが、AIによって瞬時に解決されてしまってよいのかが問われる。

現状では教員による操作が現実的

 こうした課題が未解決なまま、学校教育においてChatGPTなどの生成AIの活用を大胆に推進するわけにはいかない。まずは大人社会において、生成AIに関わる課題をどのように解決し、生成AIをどのように活用するか、もう少し見通しを明らかにすることが必要だ。

 現状で、ChatGPTの利用は「18歳以上、または保護者の承認を得た13歳以上」となっている。小中高校においては当面、児童生徒に自由に使わせるのでなく教員が操作する使い方にとどめることが現実的だ。だが、子どもたちの私生活では、ChatGPTなどの利用が急速に広がることは間違いない。教育に関わるわれわれ大人には、ChatGPTを試行的に使いつつ、学校教育にどのように活用するかを考えておくことが求められている。

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