「保護者も社会も教員の労働実態を知って」 NPO代表ら訴え

「保護者も社会も教員の労働実態を知って」 NPO代表ら訴え
文科省で記者会見するNPO法人プロテクトチルドレンの森田代表(左)、NPO法人ストップいじめ!ナビの須永副代表
【協賛企画】
広 告

 教員の長時間労働が深刻な課題となる中、いじめ問題に取り組むNPO法人プロテクトチルドレンの森田志歩代表、NPO法人ストップいじめ!ナビの須永祐慈副代表らが、10月31日に文科省で記者会見を開いた。森田代表らは、教員の労働環境に関する独自アンケート結果を公表するとともに、教員が多忙であるが故に、いじめへの対応も含め、児童生徒と向き合う時間を十分に確保できていないこと、一部の保護者による攻撃が教員を追い込んでいることなどを指摘。「働き方改革は教員のためだけではなく、子供たちのためでもある。教員が、一人一人の児童生徒と向き合うゆとりを持てるようにするべき。教員の労働環境の実態を、保護者も含め、社会全体で考えてほしい」と問題提起した。

事務、保護者対応、いじめ・不登校対応がストレスに

 プロテクトチルドレンは今年6~7月に、全国の教員に対してアンケート調査を行い、1522人(小学校636人、中学校514人、高校297人、特別支援学校75人)から回答を得た。調査結果によると、1日当たりの学校内の勤務時間は「12時間」が3割を超え最多。1カ月当たりの残業時間では、16.8%が「過労死ライン」とされる「80時間以上」だった。

 回答者が「減らしたい」(減らしたい・やや減らしたい)と回答した割合が計5割を超えた項目には▽事務(調査回答、報告、記録等)▽持ち帰り業務▽コロナに関する対応▽保護者・PTA対応▽会議・打ち合わせ(校外)▽職員会議/学年会会議など▽部活動・クラブ活動▽行政・関係団体対応▽不登校・いじめ等の対応▽地域対応▽朝の業務――が挙がった。

 

 その中で、特に減らしたい業務を尋ねたところ、「事務」がトップで43.2%、次いで「保護者・PTA対応」(26.4%)、「部活動、クラブ活動」(24.6%)だった。一方で、特に増やしたい業務として挙げられたのは「生徒との交流」(48.0%)、「休憩時間」(46.5%)、授業準備(35.7%)だった。

 また回答者が「負担・ストレスを感じる業務」として挙げたのは、やはり「事務」が最多で54.5%、次いで「保護者・PTA対応」(47.2%)、「不登校、いじめ等の対応」(40.7%)だった。この3項目は、「一番ストレスに感じる業務」を尋ねた設問でも同じだった。外部委託したい・関わってほしい業務としては、「部活動・クラブ活動」(58.5%)、「事務」(49.5%)、「保護者・PTA対応」(34.8%)などが上位に並んだ。

 削減したい業務、また負担を感じる業務で、いずれも「事務」がトップとなったことについて、ストップいじめ!ナビの真下麻里子理事(弁護士)は「教員でなくてもできることをやらされているという感覚がある。専門性が軽視されているということで、非常に問題だと感じている。いろいろなことを任され、教員の専門性とは何かが非常にあいまいになっていることが、負担感にもつながっている」と指摘した。

 自由回答では、回答者から「保護者対応の時間が多過ぎるので専用窓口を作ってほしい。無理難題ともいえる要求をされ納得するまで終わらない」(小学校)、「部活動等を外部に委託しても、いじめや問題が起きれば学校対応になる。委託するなら全ての対応を願いたい」(中学校)、「業務が増え過ぎて生徒の様子を見落としたり、向き合う時間がなかったりする」(高校)といった悲痛な声が寄せられた。

いじめの解決が「保護者の納得」になっている現状

 今回の調査結果の分析にあたったストップいじめ!ナビの須永副代表は「いじめを止める要因の一つに、教員が日頃から子供たちと十分に関わっているかというポイントがある。アンケート結果によれば、教員も子供たちと触れ合う時間を持ちたいと思っており、葛藤があるのだろうと感じる」と指摘した。

 また「教員が忙しいと、教室の不安を呼ぶ。いじめられて苦しい時には、苦しさや現状を受け止めてほしいが、その時間が遮られ、放置されることにより、悲しみや傷つきが深まる。いじめの被害者は、加害者への報復や処罰を望むよりも、むしろ『元に戻りたい』と思っていることも多く、そのために教員にサポートしてほしいと思っている」と、教員が子供たちに向き合う時間を確保することの大切さを語った。

 もともとはいじめ被害生徒の保護者として、いじめ問題に取り組むようになったプロテクトチルドレンの森田代表は現在、中立的な立場で、各地のいじめ解決などに向けた支援を行っている。今回、教員の労働実態に関心を寄せた理由について「学校現場に入り、話を聞く中で、教員の労働環境の問題が浮き彫りになってきた。学校は子供たちにとって安心・安全な場所でなければならないが、教員の労働環境がこのような状況では、子供たちに対しても目配り、気配りが難しい状況になってしまう」と述べた。

 また、アンケートの結果では、「保護者・PTA対応」が事務に次いで大きな負担となっていることを踏まえ、「例えば、いじめの解決というのは本来、子供の安心・安全を得ることのはずだが、ほとんどの学校現場では、保護者の納得を得ることが目的になっている。保護者からのクレーム、罵倒に耐えながら仕事をしていくのがつらいという教員も多い」と指摘した。

 その上で「親は学校を信頼して子供を預けており、その分、期待も膨らむのだと思うが、まずは教員に、一人一人の児童生徒と向き合うゆとりを持ってもらうことが必要。学校や教育委員会にも問題がないわけではないが、保護者も学校を攻撃するばかりでなく、子供を守るための法律や制度、学校に要望できることは何なのかを知った上で、冷静に対応するべきだ」と語った。

 今年4~9月にプロテクトチルドレンに寄せられた1377件の相談のうち、学校からのものは182件、教育委員会からは218件、教職員からのものは270件あった。いずれも、相談内容で最も多かったのは「保護者対応」で、過大な要求や一方的な抗議への対応、協力・連携体制が築けないことに苦慮する声があったという。

 保護者からはいじめやいじめの重大事態を認めてくれない、要望に応じてくれない、隠蔽(いんぺい)・虚偽など、学校や教育委員会に対する不満の声が68件あったが、同時に子供からの相談として「親が学校に文句ばかり言うから登校しづらい、学校に行きたくない」「学校に対し、自分の意に反した事を親が勝手に言ってしまう」という声も20件近く聞かれたという。

広 告
広 告