都内の中学3年生を対象とした英語スピーキングテスト「ESAT-J」が11月27日、都立学校など197の会場で初めて実施された。結果は来春の都立高入試の合否判定にも活用される予定。都教委の発表(27日午後7時時点)によると、都内の公立中3年の生徒約8万人のうち95%に当たる約7万6000人が申し込み、当日は約6万9000人が受験した。受験生や保護者、都内の公立中学校や都立高校の教員を取材すると、「トラブルもなく受験できた」という感想の一方、直前の混乱や試験の公平性を指摘する声も聞かれた。
会場になった江戸川区内の高校では、27日の正午過ぎから、制服姿の中学生が緊張した面持ちで続々と訪れた。校門前や学校近くに合わせて4、5人のスタッフが立っており、「スピーキングテストの会場はこちらです」と声を出しながら、会場へと案内していた。都教委によれば当日、欠席連絡の電話がつながりにくい時間帯があった、会場を間違えて遅刻した生徒がいたなどのトラブルがあったという。受験者数が申込数より約7000人少ないことについて、都教委の担当者は「病気など、さまざまな原因による欠席者がいた」と説明。追試験は12月18日に予定されている。
今回のスピーキングテストは、ヘッドホンとタブレットを使って音声を録音する形式。英文を読み上げる問題、フロアガイドやウェブサイトなどの情報を見ながら質問に答える問題、4コマイラストで示された出来事を説明する問題、学校での昼食について意見を述べる問題などが出題された。
受験した生徒は「自分が受けた会場では特にトラブルもなかったが、友人の会場では機器のトラブルがあったようだ。自分も含めて全体的に緊張している様子はないように感じた。ただ、中にはテスト終了後に『全然できなかった』と言っている子もいた」と当日の様子を話した。
都内の受験生の保護者はスピーキングテストの導入について、「中学校の進学説明会で『今年はスピーキングテストが入ります』と言われた程度で、具体的にどんなことをやるかについては各自が都のホームページにアクセスして確認しない限り、分からなかった」と、説明不足を指摘する。
初めてのテストを前に、受験会場が分かったのも直前になってからだった。「直前にも関わらず、会場までの行き方案内もなく、各家庭でルートを考えなければならなかった。また、欠席の連絡方法など詳細についての手紙が配布されたのは、テスト直前の金曜日だった」と混乱を明かす。当日の欠席者が約7000人いたことについては、「都立高が本命でない子の中には受けない子もいたかもしれない」と語った。
またその保護者によると、生徒が通う中学校では、事前に4時間ほどスピーキングテストの対策時間があったという。しかし、近隣校では全く対策をしていないところもあったといい、「公立校なのに、そのような学校間の差が出てしまうのはいかがなものか」と疑問を呈した。
都内の公立中の英語科教諭は「スピーキングテストの趣旨としては賛成だ。しかし、現状では不受験者の扱いなど、システム上の穴があり、公平性が担保できない可能性が高い」と懸念を示す。また、結果が出るのが1月になってからという点についても、「この結果次第で受験前ギリギリのタイミングで志望校の変更を迫られる子も出てくるだろう」と話す。
「周りの教員からは、学習指導要領も変わり、教えることが増えているのに、スピーキングテストまで対応できないという声が多い。ただ、これまで高校入試は読み書き中心だったため、教員側もスピーキングから逃げてきた現実がある。学習指導要領においても、『話すこと』では即興性を求められており、授業の在り方を変えていかなければならない」とも話した。
勤務先の高校がスピーキングテストの会場になった、ある都立高の教諭は「当日の対応について10月以降、管理職からの指示の変更が目立った。当初は、スピーキングテストに使用しない体育館や教室は当日部活に使ってもよい、教室内の掲示物をはがす必要はない、といった指示があり、『本当に大丈夫なのか』と不安に感じていた。案の定、後になってそうした指示は撤回された。テスト実施日の1週間ほど前まで、控室の数を増やすなどの変更が行われていた」と明かした。
この教諭はまた「都立高入試では男女別定員の是正など、公正な入試に向けて取り組んでいる。そうした中で、タブレットに向かって話す練習が十分にできたかどうかで差がついたり、採点のプロセスに不明瞭な部分が残されていたりといった、公平性に課題のある試験を導入することが良いとは思えない。今回の結果は中学校での指導に生かすために用い、入試には活用しないとするのが望ましいのではないか」とも指摘する。
今回のスピーキングテストの試験時間は15分。試験問題と解答例は都教委のホームページで公開されている。テストで録音された音声データはフィリピンに送られ、現地のスタッフが採点することとなっており、「コミュニケーションの達成度」「表現の幅広さ、論理性」「発音、イントネーション」などの観点から、A~Fまで6段階の評価がなされる。
今年度実施する都立高校入試では、学力検査の得点と調査書点の合計(1000点満点)に、ESAT-Jの結果を加え、総合得点を算出するとしている。