子どもの権利の教育を継続的に こども家庭庁の渡辺長官

子どもの権利の教育を継続的に こども家庭庁の渡辺長官
こども家庭庁の事務方トップとして少子化対策をはじめとする重要政策を調整する渡辺長官
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 4月に発足したこども家庭庁の事務方トップである渡辺由美子長官が4月12日、メディア向けの記者懇談会で、初代長官としての抱負や少子化対策の見通しなどを語った。こども政策の司令塔としての役割を担うこども家庭庁は、他省庁との連携が欠かせない。渡辺長官は、こどもの意見を聞き、フィードバックする過程で各省庁と密接に調整できるかがポイントになるとし、その根幹である子どもの権利をこどもや教師が学ぶ機会について、文科省と共にさまざまな方法を模索し、継続的に取り組んでいく考えを表明した。

 こども政策の司令塔としての役割が期待されている同庁。そのかじ取りを担っている渡辺長官はまず、スローガンに掲げている「こどもまんなか社会」の実現に向けた、政策面と組織管理面のミッションをそれぞれ挙げた。

 政策面では「勧告権が法律上あるが、他省庁にまたがる、例えばこれから進めようとしている少子化対策やこどもの虐待、いじめ、自殺の問題、さまざまな困難を抱えているこどもの対応についても、各省庁でしっかりと施策に横串を指して、縦割りを排して取り組む」と司令塔機能を強調。加えて「これまでなかなか取り組みが進んでこなかった、思い付きもしなかったというような、新しいことにも取り組んでいきたい。その代表が、こどもの意見を聞いて、それを施策に反映し、フィードバックしていくことだ。そういうことを仕組みとしてきちんとつくれるかどうか。ここは、こども家庭庁自身の一丁目一番地でもあると思う」と、こどもの意見を聞くことをこども家庭庁のコアに据えた。

 また、組織管理面では「こども家庭庁は新しい組織なので、いわゆる霞が関の人間だけでなく、地方自治体や民間からさまざまな人が来ている。そういう多様な人材の能力をうまく引き出して、シナジー効果が生まれるような強い組織をつくっていきたい。こども家庭庁が霞が関の働き方改革の先鞭(せんべん)をつける役割を担っていかなければいけないと思っている。非常に課題は多く、仕事量は変わらないが、その中でも働きやすい、さまざまなファミリーイベントと両立できるような職場にしていきたい」と意気込んだ。

 渡辺長官は1988年に旧厚生省に入省。最初に配属された児童家庭局では、合計特殊出生率が戦後最低となった「1.57ショック」の前夜とも言える状況で、少子化を国の政策課題として取り上げるかどうか、省内で激論が交わされていた時代だった。その後、和歌山県庁に出向し、児童家庭課長として地方の保育施策に関わった。そのとき強く感じたのは「面でものを見る、現地に行って考えること」の重要性。その経験は厚労省子ども家庭局長として、児童福祉法改正を主導したときにも生かされた。そして、こども家庭庁設立準備室室長への抜てき。「結果的に、自分の中で最後につながったな」と、これまでのキャリアを振り返る。

 自身に子育ての経験はないが、「こども家庭庁の職員や藤原朋子成育局長をはじめ、育児と仕事を両立させてきた人はたくさんいる。旧厚生省、厚労省では『現場を大事にしろ』とたたき込まれた。そのDNAをこども家庭庁に引き継いでいきたい」と語る。

「現場を大事にする」というDNAをこども家庭庁も受け継ぎたいと話す渡辺長官
「現場を大事にする」というDNAをこども家庭庁も受け継ぎたいと話す渡辺長官

 こども家庭庁設立準備室室長からそのまま同庁初代長官に就任し、なかなか趣味の旅行をする余裕もない中で、ここ数カ月は米国のフランクリン・ルーズベルト大統領の夫人で婦人運動家である、エレノア・ルーズベルトの言葉「Do what you feel in your heart to be right ―for you’ll be criticized anyway.(あなたの心が正しいと思うことをしなさい。どっちにしたって批判されるのだから)」を胸に刻みながら、新しい組織の船出に向けて奔走してきたという。

 今後、こども政策の司令塔として他省庁とどのように連携していくか、渡辺長官の手腕が試される。省庁間の連携を進める方法として渡辺長官は、こどもの意見をどのように届けるかが鍵だと考えている。同庁では、約1万人のこども・若者から意見を聞く「こども若者★いけんぷらす」を新事業として進めている。そこではこどもたちが運営メンバーとなり、こどもたちが発案したテーマに関して意見を募り、各省庁に届けることもあれば、各省庁からこどもたちに聞いてみたいテーマをこども家庭庁が取りまとめていくことも想定されている。いずれの場合でも、ただ意見を聞いて終わりではなく、集まった意見に対してフィードバックするまでが求められている。

 「こどもたちの意見をフィードバックする中で、詳細にどんなことができるのか、すでにどんなことをやっているのかなどを、担当者レベルで密接に連絡していきたいと思っている」と渡辺長官。そうすることで、フィードバックの結果をただ公表するよりも、実行性が高くなるとみる。

 こうしたこどもの声を集めるためにも、そもそもこどもたち自身が、子どもの権利を知る機会を確保していくことが重要だ。こどもたちにとって身近な学校生活の中で、教師をはじめとする大人が意識しながら、子どもの権利をいかに浸透させていくかも課題になる。渡辺長官は「こども家庭庁の発足と同時に施行されたこども基本法が、国際的にみれば児童の権利条約の国内での基本法という位置付けになる。こども自身に届くような形でどうやってそれを伝えるかは非常に重要だ」と指摘。こども家庭庁設立準備室が制作したこども基本法をこども向けに分かりやすく解説した資料などを、学校現場でどう活用していくかが課題の一つになるとの認識を示した。

 その上で「文科省もいろいろな考えやアイデアは持っていると思うので、こども家庭庁と文科省が協力しながら、特に、一度きりではなくて継続的に伝わっていくようなものにしないといけない。どういうやり方で伝えていくのがいいのかを考えたい。それから、まさに今実施している『こども若者★いけんぷらす』でこどもの声を継続的に聞いていく中で、こども家庭庁が自ら、子どもの権利の問題をテーマとして取り上げていくこともあると思う。いろいろな方法を模索していきたい」と、学校や社会における子どもの権利の教育・普及に力を入れていく姿勢を明らかにした。

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