子どもが自分で決める、選ぶ、進める学び 東京・日野第四小の挑戦

子どもが自分で決める、選ぶ、進める学び 東京・日野第四小の挑戦
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 子どもたちが自分で決める、選ぶ、進める学び――。東京都日野市立日野第四小学校(三浦寛朗校長、児童642人)では、昨年度から全校で毎月1回、丸1日かけて探究学習を行う同校独自の「マイプランスクール」に取り組んでいる。「朝から子どもたちの表情が違う」と三浦校長が話すように、子どもたちはマイプランスクールが大好きだという。教員らも「普段、学びに向かいにくい子も自ら進んで取り組んでいた」と子どもたちの変化を感じ取っている。しかし、導入にあたってはカリキュラムマネジメント面での苦労や、教員側に「これでいいのか」といった戸惑いや不安もあった。試行錯誤の1年間の取り組みで見えてきたこと、そして探究学習の評価への取り組みなど今年度の展望について同校を取材した。

自らの力で自らの学びをつくっていく

 「え、そうなんだ! すごい!」「それで、それで?」

 マイプランスクールの発表会を翌日に控えた1月中旬。同校の各学級では、子どもたちが1年間、それぞれの興味関心に基づいて探究してきた学びをまとめたプレゼンの練習が行われていた。

 3年生のクラスでは、「原子」についてのプレゼンを練習している男の子を数人のクラスメートが囲んでいる。中学生で学ぶ原子や分子といった物質の成り立ちは、小学3年生にとっては難しい内容のはずなのに、友達の口から語られる「原子の不思議」に子どもたちは夢中になって聞き入り、前のめりになって質問している。男の子は少し誇らしそうな表情を浮かべながら、一つ一つの質問によどみなく答えていく。

 他の教室ものぞいてみると、映画をつくっている子、カブトムシについて研究している子、畑に適した土について学んでいる子、ラジオ番組をつくっている2人組――など、多種多様な探究学習が各教室で繰り広げられていた。

 マイプランスクールを導入した経緯について、三浦校長は「学習指導要領など、社会的背景もあるが、本校の児童の実態から必要性を感じたからだ」と説明する。「本校の児童は、例えば教員から言われたことを素直に受け止められる一方、自ら改善し、実践しようとする子が少ないと感じていた。マイプランスクールを導入することで、自らの力で自らの学びをつくっていくことができるようにと考えた」と話す。
 
 そうして、昨年5月から月に1回、全校でマイプランスクールに取り組んできた。最初は各教科の発展的な学びから入り、その後は教科の学びの中からもっと深めたいことを選び、個人で探究する時間とした。異学年で途中経過をアウトプットしたり、フィードバックしたりする時間も設け、1月の学校公開日には、上学年と下学年に分かれて児童や保護者に向けた発表会も行われた。

 また、同校では丸1日、最低でも午前中4時間はマイプランスクールに充てることにこだわった。「その方が、子どもたちの動きや学びがダイナミックになる。1日の中でも成長が見られる」と三浦校長は強調する。全校でその時数を確保するため、「総合的な学習の時間と生活科の時間を使ってやっているが、それだけでは時数が足りない。例えば国語科の話すこと、書くことの領域などを活用して行った」と説明する。

学びに向かいにくい子も自ら進んで取り組む
マイプランスクールで思い思いに探究学習を進める5年生(2月撮影)
マイプランスクールで思い思いに探究学習を進める5年生(2月撮影)

 2月中旬のマイプランスクールの日は、5年生のクラスを訪問した。この日、子どもたちは3月に行われる保護者・児童・教員の三者面談での「夢をかなえる 自分だけの学び」の発表に向けて準備をしたり、それが終わっている場合は新たなテーマで探究学習に取り組んだりしていた。

 バクテリアについて学びを進めている男の子は、最初はカニや魚など水の中の生き物について調べていたそうだ。「そこから水の成分について気になり始めて、微生物やバクテリアはどうして水をきれいにするのか、知りたくなった」と、どんどん学びが広がっていった様子。もくもくと自分の学びに集中している。

 男子5人は算数の授業で学んだ多角形の性質を応用し、1人1台端末を使ってプログラミングでいろいろな図形をつくることにチャレンジしていた。特にパソコンが得意な子が中心となり、次々とオリジナルの図形を考えていく。「それ、どうやったの?」と友達の作品を見ながら学び合っている。マイプランスクールについて聞くと、「自分の興味があることを深掘りしたり追及したりできる。学校でも好きなことが学べるなんて最高」と、全員が笑顔で答える。

 水彩画について探究していた女の子は、「水彩画の初心者が描くのに適した題材は?」といったクイズを制作している。「どうやったらみんなに水彩画に興味を持ってもらえるかを考えながらまとめている」と試行錯誤している様子。「絵を描くのが好き。でも、家でじっくり絵を描いたりする時間もないから、こうやってマイプランスクールで取り組めることはうれしい」とはにかみながら話してくれた。

 他にも「自分の学びたいことが自分のペースでできるのがいい」「自分が知らないことが分かっていくのが楽しい」「決まっていることじゃなくて、自由なところがいい」「調べて分かったことに対して、自分はどうしていくのかということについても考えている」と、子どもたちは目を輝かせながら、マイプランスクールに対する思いを語ってくれた。

 三浦校長も「マイプランスクールの日は、朝から子どもたちの表情が違う」という。「今朝も2年生がパンパンに膨らんだ紙袋を両手に抱えて、待ちきれない様子で登校してきていた」と目を細める。2学期からずっと学校に来られていなかった子が久しぶりに登校できたり、保健室など別室登校している子も教室で活動できたりといった変化も見られるという。

 同校の岡田達明教諭も「マイプランスクールでは、普段学びに向かいにくい子が、自ら進んで取り組んでいる」と手応えを話す。「周りの子がやっていたことに興味を持ち、友達と一緒にやってみる協働の良さに気付く姿も見受けられた。異学年の交流も自然と広がっている」と、この1年の子どもたちの変化や成長を語る。また、年度当初と比較しても、普段の授業の中で子どもたちがさまざまな角度から問いを考える力がついてきていると感じているそうだ。

子どもたち一人一人の学びに伴走してきた岡田教諭
子どもたち一人一人の学びに伴走してきた岡田教諭

 もちろん、うまくいくケースばかりではなかった。何をすればいいのか分からなくなる子や、探究の新たなサイクルを回すことが難しく、終わった気になってしまう児童もいた。そうした場合の教員の関わり方について、岡田教諭は「教員から提案するのは最終手段。『手伝えそうなことある?』『どんな資料が欲しい?』といった声掛けを中心に、決してこちらが方向性を決め付けるようなことはしないように意識していた。また、何をやればいいか分からない子に対しては、何か作ってみるところから提案するようにしていた」と説明する。

教員側の意識を変えていく

 子どもたちは総じて意欲的に取り組んできたマイプランスクールだが、三浦校長は「スタート当初はどの教員にも不安や戸惑いが大きかった。丸1日を探究学習に充てることなど、やったこともないし、子どもの学びにどうつながっていくのか、見通しも分からなかった」と打ち明ける。岡田教諭も「この学びを学校でやるのはどうなのか」といった意見や、「どうやって時間をつくっていくのか」と時数を気にする声もあったと明かす。

 それが少し変わったきっかけとなったのが、昨年8月に行われた校内研修での(一社)「みつかる+わかる」代表理事の市川力氏による探究についての講義とフィールドワークだった。「学校の敷地内で疑問や不思議の種を見つけるフィールドワークをしたところ、教員たちが『こういう学びって面白い』と実感したことが大きい」と三浦校長。加えて、軽井沢風越学園に派遣経験のある同市教委の依田真紀指導主事が、子どもたちへの伴走の仕方や、多様な学びにどう対応していくかなどを、年間を通して指導してくれていた。

 さらに教員らの意識が大きく変わったのは、1月の発表会だった。そこには「自分の学びを自分の言葉で伝える」子どもたちの堂々とした姿があった。発表会を見た市川氏からも「方向性を決め過ぎていない、子どもたちで文化をつくっていく風土を感じた」「自分のやっていることを生き生きと語っている子が多かった」とフィードバックをもらったそうだ。「教員側には、まだまだいろいろな意見も不安も悩みもある。でも、みんなで意識を変えていこうとしている」と三浦校長は前を向く。

 また、普段の授業についても、「探究的な学びを取り入れたり、自由進度学習を取り入れたりしている教員もいる」と三浦校長は手応えを感じつつある。岡田教諭も「この1年で子どもの力を信じる大切さに気付けた。子どもたちに“何かをさせる”というコミュニケーションも減った」と自身の変化を実感している。

 「マイプランスクールのような取り組みは、ハードルが高いと感じる人も多いと思う。しかし、いろんな枠組みを一回外してみることで、気付けることもたくさんあるのではないか」と岡田教諭は訴え掛ける。

子どもの学びをもっと深く、探究学習の評価にチャレンジ

 三浦校長は昨年度を振り返り、「自分の興味や疑問から学びを進めていくと、子どもたちはこんなに夢中になるのか」と驚いたそうだ。「その姿は予想以上だった。学んだことを発表したり、友達に教えたりすることで、自分が認められたり、輝く瞬間がそれぞれにあった。自己有用感などにもつながっているのかな」と分析する。

 今年度から同校は同市の研究奨励校の指定を受け、5月からまた新たにマイプランスクールをスタートさせている。三浦校長は「昨年度の取り組みで、ある程度、システムは固まってきたので、今年度は本校における探究学習とは何かを問うていきたい。また、児童に手渡すスキルとして探究学習に必要な力を確認し、評価の在り方を考えていく」と力を込める。

 特に評価については、「自分に関する力」「友達に関する力」「課題に関する力」の3つの観点に分けたルーブリックを作成していく予定だ。三浦校長は「子どものやりたいことをやらせているだけにならないように、教員がそれぞれの児童に対して到達すべきゴール目標を持たせてあげることが重要だ。ルーブリックを活用しながら、子どもの学びをもっと深く、どこまでできているのかをしっかりと見取っていきたい。もちろん、最初から完璧なものは作れないが、走りながら考えていきたい」と話す。

 また、今年度は学期ごとに1回、「アウトプットデー」も設定する。プレゼンしたり、フィードバックをもらったりする機会を定期的につくることで、「一人一人が主役になる機会」を確実に増やしていく。岡田教諭は「低学年のうちから振り返りをしっかりするようにしたい。また、低学年は何かをつくることを中心にやっていくことを検討している。高学年は仮説を立てて考察するといったスキルを学びながら、実際の社会とつながることをもっと意識していきたい」と意気込みを語った。

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