第210回臨時国会が10月3日召集され、岸田文雄首相は衆参両院の本会議で所信表明演説を行った。岸田首相は「日本を守り、未来を切り拓く覚悟を新たにする」と強調し、成長のための投資と改革の一つとして、「処遇見直しを通じた教職員の質の向上に取り組む」と明言。教員採用倍率の低下といった学校教育の課題に対処するため、長時間労働など教員の労働環境の改善に意欲を示した。
所信表明演説の冒頭、岸田首相は物価高や新型コロナウイルス、ロシアによるウクライナ侵略など、国内外を取り巻く多くの課題に触れ、「日本は国難とも言える状況に直面している。歴史的な難局を乗り越え、わが国の未来を切り拓くため、政策を、一つ一つ果断に、かつ丁寧に実行していく」と述べ、「東日本大震災という未曽有の国難からも立ち上がることができた。そうであれば、今われわれが直面する困難も、必ずや、乗り越えていける。私はそう確信している。共にこの国の未来を見据え、歩みを進めていこうではないか」と呼び掛けた。
続けて、「日本経済の再生が最優先の課題」と位置付け、3つの重点分野として「物価高・円安への対応」「構造的な賃上げ」「成長のための投資と改革」を挙げた。物価対策では、電力料金の値上がりリスクに対して「家計・企業の電力料金負担を直接的に緩和する、前例のない、思い切った対策を講じる」と強調。賃上げについては、労働移動の円滑化、人への投資という3つの課題を合わせた一体化改革に取り組む姿勢を示し、看護、介護、保育などの現場で働く人々の処遇改善や、個人のリスキングへの公的支援として「5年間で1兆円」のパッケージに言及した。
投資と改革では、「社会課題を成長のエンジンへと転換し、持続的な成長を実現させる。この考えの下、科学技術・イノベーション、スタートアップ、GX(グリーントランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)の4分野に重点を置いて、官民の投資を加速させる」と強調。
その上で、文理の枠を超えて行うデジタルやグリーンといった特定成長分野への大学などの学部再編促進や若手研究者の育成に向けた支援強化とともに、改革項目の一つとして「処遇見直しを通じた教職員の質の向上に取り組む」ことを挙げた。
文科省は現在、長時間労働が社会的な問題となっている教員の勤務実態を把握するため、全国の小中学校、高校を対象とした調査を行っている。8月、10月、11月のそれぞれ連続する7日間の勤務の詳細を調べるもので、速報値は来年5月に公表される予定。この調査結果を基に、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の見直しも視野に入っている。文科省は岸田首相の所信表明について、「実態調査の結果を踏まえて、初等中等教育の教員に対する処遇改善に取り組むという意思表示と受け止めた」(初等中等教育局財務課)とした。
このほか、岸田首相は静岡県牧之原市の認定こども園で園児が送迎バスに置き去りにされ死亡した事件について、「昨年の福岡に続き、痛ましい事故が再び起こってしまった」と述べた上で、送迎バスの安全装置の義務化と支援措置など「緊急対応策を講じる」とした。
また、新型コロナウイルスに関しては、マスクの着用を「引き続き屋外では原則不要」とし、「近くで会話しない限り、屋外での必要はない」と強調。「基本的な感染対策はメリハリをつけて、マスクは場面に応じた適切な着脱に努めてほしい」と呼び掛けた。
臨時国会の会期は12月10日までの69日間。物価高対策のほか、旧統一教会と政治の関係について、論戦が交わされる見通し。政府は18法案を提出する予定。このほか、教育関連では、各大学で定められている理事長の選出や解任の方法を定めるといったガバナンス強化を目的とした私立学校法の一部を改正する法案や、外国人留学生に対して日本語教育を適切に実施できる日本語学校を認定する制度の法案提出について、文科省が検討している。