来年度から5年間、政府の障害者施策の指針となる障害者基本計画(第5次)の素案が10月5日、内閣府の障害者政策委員会に示された。先日、国連の障害者権利委員会が日本に対して、障害のある児童生徒が通常学級から隔離されている現状の特別支援教育に懸念などを示した勧告の内容については触れられなかったが、委員からは何らかの対応を盛り込む必要性についての提案があった。
今回の勧告は障害者権利条約に基づき、日本に対しては2014年の条約締結以降、初めて審査が行われ、9月に公表された。勧告には拘束力はないものの、締結国は尊重しなければならないとされる。今回の勧告では、通常の学校が障害のある子供の受け入れに関して、準備ができていないことを理由に入学を拒否している実態や、「特別支援学級に在籍している児童生徒は、原則として週の授業時数の半分以上を目安に、特別支援学級で児童生徒の障害の状態や発達段階などに応じた授業を行う」とした文科省の通知を問題視した。
これに対して永岡桂子文科相は9月13日の閣議後会見で、「多様な学びの場において行われている特別支援教育を中止することは考えていない。勧告の趣旨を踏まえて、引き続きインクルーシブ教育システムの推進に努めたい」と述べ、現行の特別支援教育の取り組みを進める考えを表明している。
素案では、日本の障害者施策について障害者権利委による審査が実施され、同委の見解や勧告を含めた総括所見が採択・公表された経緯は追記されたものの、詳しい内容は盛り込まれなかった。これについて5日の障害者政策委で石川准委員長(静岡県立大学名誉教授)が「国連の総括所見も出たので、それを受け止めつつ、第5次計画に前向きに反映できないか検討いただきたい」と述べ、基本計画に勧告の内容への対応を盛り込むよう提案した。
今回の素案の項目の一つ、「教育の振興」では基本的な考え方として、障害の有無によって分け隔てられることなく、国民が相互に人格と個性を尊重し合う共生社会の実現に向け、可能な限り共に教育を受けることのできる仕組みの整備を進めるとともに、障害に対する理解を深めるための取り組みを推進。障害者が学校卒業後も含めたその一生を通じて、自らの可能性を追求できる環境を整え、地域の一員として豊かな人生を送ることができるよう、生涯を通じて教育やスポーツ、文化などのさまざまな機会に親しむための関係施策を横断的、総合的に推進するとともに、共生社会の実現を目指すとした。
その上で、教育環境の整備として、管理職を含む全ての教職員が障害に対する理解や特別支援教育に係る専門性を深める取り組みを推進するため、小・中学校、高校の全ての新規採用教員が10年目までに特別支援学級や特別支援学校を複数年経験することなどを盛り込んだ。