小学校教員、20代で出身大に易化傾向 規制緩和が影響か

小学校教員、20代で出身大に易化傾向 規制緩和が影響か
調査結果が公表された中教審の「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会基本問題小委員会
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 小学校の20代正規教員において、自身の出身大学を「難しくない」と考える人の割合が他の校種や年代に比べ高いことが、10月6日に公表された「教員の資質能力の育成等に関する全国調査(暫定値)」で明らかになった。分析にあたった龍谷大学の松岡亮二准教授は背景に規制緩和による私立大学の参入や採用倍率の低下などを挙げ、「小学校教員になる層が変わっており、2~30年前だったら、正規採用されなかった人が教員になった可能性がある」と指摘。一方で、どのような影響を児童生徒に与えるのかは分かっていないとして、教師の特性と児童生徒の成長に関して、幅広い指標を用いた検証の必要性を訴えた。

 調査結果は同日にオンラインで開かれた中教審の「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会基本問題小委員会で公表された。

 同調査は文科省の委託を受けて、浜銀総合研究所が行った。対象は2021年度現在、幼稚園・小学校・中学校・義務教育学校・高校・中等教育学校・ 特別支援学校で勤務している教員(校長・教頭などの管理職、再任用、講師、臨時的任用教員、栄養教諭、養護教諭を含む)。3月3日から21日までオンラインで行われ、1万2555件の有効回答を得た。

 教員は雇用形態で▽「正規任用(再任用を除く)」の「教諭」「主幹教諭」「指導教諭」(正規教員)▽「臨時的任用(常勤)」の「講師」「教諭」(臨時的任用講師)▽「正規任用(再任用を除く)」の「校長」「副校長・教頭」(管理職)――に分類し、それぞれを年代別に分析した。

 

 対象者に出身大学の「一般的な難しさ」を尋ねたところ、「あまり難しくない」、「難しくない」と答えた正規教員の割合は、30代では小学校は中学校に比べ低いものの、20代では中学校を上回り、26.7%と最も多かった=図表①

 

 さらに、私立大学出身者の割合をみると、小学校の場合、50代正規教員で41.9%なのに対し、20代正規教員では57.5%と大きく増えた。一方で、高校の正規教員の場合、年代が下がるごとに、私立大学出身の割合は減少。中学校の正規教員においても、増加傾向にあるもの、小学校に比べると緩やかで、臨時的任用講師では30代(81.7%)から20代(77.0%)で減少していた=図表②

 結果について、松岡准教授は「年齢層によって回顧の時間と大学進学率が異なることに留意が必要」と前置きした上で、「小学校は年齢が若くなれば若くなるほど、入学の難易度がより低い大学の出身者の割合が増えているという傾向が見てとれる」と指摘。その背景に規制緩和により、教員免許取得が可能な私立大学数が増加したことを挙げた。

 国はかつて、私立大での小学校教員養成を抑制していたが、教員需要の増加が見込まれることや、採用数が急増している地域もあったことから、2006年度から規制を緩和。これを受け、多くの私立大学が小学校教員の教職課程を設置した。文科省によれば、小学校教員の一種免許状が取得できる私立大学は05年度51校から、20年度は190校と約4倍になっている。

 その一方で、松岡准教授は「重要なのは、日本には教育施策の指針になるデータがほとんどなく、これらの変容がどのような影響を児童生徒に与えるかについては分かっていない」と強調。入学難易度だけでなく、教員に関連する幅広い指標を用いた検証が必要だと指摘した。

 また、教員の社会的出自にも着目。正規教員の父親の9~17%、母親の6~13%が15歳時点で教員だった。15年のSSM調査(社会階層と社会移動全国調査)によると、社会全体で父母が教職の割合は1~3%。年齢層や学校種によっての違いはあるが、数字を見比べると教員になった背景に両親の影響がある程度あることがうかがえる。また、正規任用教員の父親の14~22%、母親の12~25%は、高校を卒業するまでに親が何らかの教える仕事に就いていた。

 松岡准教授はさらに、「教員全体で中学3年時の学力自己評価が平均的に高く、大学進学率も約8~9割と、SSM調査における20代全体の約5割と比較してもかなり高い」と指摘。年齢層での違いなど精査が必要なものの、出身家庭の社会経済的地位も平均より高いとした。

 これらの結果から、松岡准教授は児童生徒がさまざまな家庭背景を持つ中、教職課程・教員研修においては、教員の背景が「普通」ではないということを自覚するカリキュラムが求められると指摘。また、「教育格差」の実態について理解するための土台となるような経験を持つ教員も少なく、「全ての子供に寄り添い伴走する教員」を養成するために教職課程で「教育格差」を科目として、現職の教員・管理職に対しては研修として、それぞれ必修化が必要とした。

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