【3.11】地域との連携で防災強化を 子供を主体にした対策課題

【3.11】地域との連携で防災強化を 子供を主体にした対策課題
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 間もなく東日本大震災から12年を迎える。さらに今年は関東大震災から100年の節目の年でもある。地震に限らず、最近では度重なる台風や豪雨などによる大災害も各地で起こるなど、全国どこでも日頃の備えがこれまで以上に重要となってきている。学校現場や文科省で防災教育と学校安全対策に携わってきた、防災教育普及協会副会長で日本安全教育学会理事長の戸田芳雄さんは「これからは学校と地域との関わりがより重要になってくる」「子供たちの主体的な取り組みが求められる」と指摘する。南海トラフ地震や首都直下型地震などの発生が迫っているとされる今、戸田さんに現在の学校や教育現場での防災、安全対策の課題について聞いた。

阪神大震災、東日本大震災で大きく意識が変化

――学校現場では防災や安全に対する意識がいつごろから変わってきたのでしょう。

 かつて防災に関して避難訓練といえば、どこの学校でもおおむね火災を想定してのものでした。それが大きく変わったのはやはり阪神大震災(1995年)。私は当時、文科省で学校安全を担当していましたが、それまでは地震ももちろん念頭にありましたが、大きく訓練の対象としていたかというとそうは言い難い。それを覆したのが阪神大震災でした。大地震がいったん発生すると、家屋の倒壊はもちろん、火災、ライフラインの遮断など、さまざまな被害が連続して起きるという認識が皆さんに共有されたと思います。さらに東日本大震災(2011年)。この大震災では地震に加えて津波の被害が甚大でした。これでまた防災の対象に新たに津波というのが印象付けられた。

 それ以前には今年で発生100年を迎える関東大震災(1923年)がありましたが、ある意味歴史上の事件として受け止められていて、現在の多くの人たちが大震災を初めて体感したのは阪神大震災、東日本大震災といえるでしょう。またそれ以後も熊本地震(2016年)など各地で大きな地震が相次いでいます。私たちはこの大地震による教訓を生かしていかねばなりません。

科目を越えて進められる防災教育

――学校現場での防災教育、安全対策はどのように進められているのでしょう。

 先ほども言ったように阪神大震災以前は、どちらかというと、火災が防災対策の中心ターゲットでした。それが東日本大震災以降、地震は全国どこでも起きるものだという認識が広がった。そこで防災教育が大きくクローズアップされてきました。ただ学校での防災教育は独立した科目があるわけではなく、学習指導要領をもとに行われています。学年に応じて科目ごと、例えば理科、社会や生活科、保健体育などにまたがって防災を意識付けるような内容を取り上げることが要求されています。また学級活動や学校活動などの特別活動でも同様な内容を指導するようにされています。

 国は22年度から5年間の学校安全に関する取り組みを推進させる「第3次学校安全の推進に関する計画」(22年3月閣議決定)の中で、大規模災害に備えた実践的な防災教育を全国的に進めていく必要性を訴えています。ただ実際の現場ではどの程度実践されているのかは、地域性や学校によって異なっている印象はあります。

 時々、防災に関して「防災科」「安全科」などの科目にすればという声を聞きます。これだけ地震に限らず大災害が各地で起きる中、それが実現できれば理想的だと思いますが、ただ現在の教育課程で時間割の中に組み込むのは現実的にはなかなか難しいでしょう。例えば総合的な学習の時間を利用するなどして、ある一定の時期にまとまった形で学習できるような体制を作ってもよいのではないでしょうか。これだけ災害が頻発する今、防災教育のやり方をより工夫しながら強化することが必要な時期に来ているのではないかと思います。

子供たちが主体となって実践することに意味がある

戸田芳雄防災教育普及協会副会長
戸田芳雄防災教育普及協会副会長

――これからの防災教育の課題は何でしょう。

 どうしても記憶の風化は避けられないと思っています。それを防ぎ防災意識を持ち続けるための、これだという具体策はなかなかありません。ただ私は大きな取り組みと日常の取り組みの2通りのやり方で防災教育を進めるべきだと思っています。大きな取り組みというのは、時間と多くの人を使った大規模な避難訓練や専門家による講演といった、体も頭も使う重点的なイベントです。一方の日常の取り組みは、授業の中で先生の話を聞くであるとか、家族で話し合うといったことです。このような教育を意識的に組み合わせていくと、先生方も子供も飽きずに効果的に身に染みていくのではないでしょうか。

 それから、どうしても教育というと大人や先生、専門家が子供たちに教えてあげるという姿勢になりがちです。これは非常に役には立つのですが、本当に子供たちの身に入るかというと、必ずしもそうではないように思います。子供たちは、むしろ自分たちで主体となって取り組むことで、より大事なことを吸収できるのではないでしょうか。自分たちの地域ではどんな災害のリスクがあるのかと考え、それをどのように回避できるか。回避できないとしても大きな被害に遭わないようにするには、どのように行動したらいいか。

 避難訓練の方法も自分たちで考える。もちろん教師や周囲の方々の支援は必要ですが、主体的に子供たち自身が考えて取り組むような防災教育が必要で、そういったことの方がより重要なのではないかと思います。これからの防災教育は、継続性はもちろんですが多様性も求められてきます。地域や学校で取り組むことを、子供たち自身が考えて提案して実践していくところまで持っていけたら心強いです。

――教師の側が求められることは。

 教員養成大学では学校安全に関する基礎を学んでいますが、より学びを深めてほしいと思っています。もちろん細かい点については、配属された現場の初任者研修でやるということがとても重要です。

 その初任者研修だけではなくて私が大事だと思っているのは、管理職に対する教育です。災害が発生した場合には、学校で子供、教職員、施設などを総合的にマネジメントしていく人材が本当に必要です。東日本大震災の時もそうでしたが、大災害の時にどのように指示をしていくことができるかが、管理職には問われます。それは教職員、子供たちの命に直結するからです。

 それと学校安全対策の実務を担う安全主任、防災主任といった教員の皆さんが中心となって学校安全に尽くしていく。結局、災害時には学校の総合力が求められるわけですので、それぞれの立場で学ぶべきことを学んで備えておくことが大事になります。

地域との連携を日頃から進めておく

――これからの防災、学校安全対策で重要なことは。

 大災害の時に、学校は地域住民の避難場所になることがあります。その時に学校が開いているのか、放課後で誰もいないのかで大きな違いがあります。子供たちがいる時には教職員は子供の安全確保が第一になります。そうすると、どうしても地域の皆さんにお願いしないといけない部分がでてきます。これは日頃の学校と地域の連携、シミュレーションがとても重要になってきます。

 特に、緊急時の避難所に指定されている学校が多いと思いますが、普段からの備え(備蓄など)と、具体的な対応についての教員と地域の方の役割分担を明らかにした計画を作って、シミュレーションを行う必要があります。万が一の備えは大丈夫か、地域防災計画や学校の危機管理マニュアルは機能するのか、もう一度、各自治体、学校設置者、校長は確認すると同時に、細かいところまで計画を見直してほしいと思います。学校任せにするのではなく、地域ぐるみで安全対策に取り組むことが必要だと思います。

防災教育が子供と大人を結び付ける効果も

――最後に教育現場での防災教育の意義とは。

 防災教育の効果は、防災の範囲にとどまりません。私も長く取り組みに携わってきて、現場の声としてよく聞いたのは、防災について知識が深まることは当然ですが、児童生徒、先生方と地域住民との絆が深まるということでした。地域の皆さんというのは例えば朝の交通指導の人などは特別ですが、普段は子供や先生方などに声を掛けることもなく関わりが薄いことが多く、お互いの信頼関係が構築できていなかった。それが、一緒に避難訓練をしたり、勉強会をしたり、そういったことを通じて話をすることで、時間をかけて人と人との信頼関係、絆ができて地域のまとまりができていったということです。この絆というのは、普段の生活においても防災教育を進める上でも大変重要なことだと思います。

 それから子供たちは地域のことがよく分かるようになったと言っています。自分の地域でこれまで何があったのか知らなかった。それがお年寄りの方、親も含めて教科の勉強のことだけでなく、いろいろなことを教えてくれるようになって、それで地域のことがよく分かるようになったということです。大人が自分たちにいっぱい声を掛けてくれて、大事にしてくれるのだと思うようになったという子供もいます。そうするとその子供たちは大きくなったら、また子供を大事にする循環が生まれるでしょう。ですから防災教育にとどまらず広がりがでてきます。人が人としてその地域で、社会で生きる基礎を防災教育は育てるのではないかと感じています。

【プロフィール】

戸田芳雄(とだ・よしお) 山形県上山市出身。山形県公立学校教員(15年間)、山形県教育庁体育保健課指導主事、上山市学校教育課長を経て、文科省(旧文部省)教科調査官、体育官、国立淡路青少年交流の家所長、浜松大学教授、東京女子体育大学教授、明海大学客員教授。文科省での担当は、学校保健、学校安全・危機管理、保健体育科教育ほか。

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