学校現場での防災教育や震災伝承を充実させようと、東日本大震災で被災した教員や語り部による教員向けの交流会が5月21日、仙台市で開かれた。震災で自身の娘が犠牲になった宮城県石巻市立青葉中学校の平塚真一郎校長が講話。平塚校長は「発生から10年以上経過し、震災が児童生徒にとって身近ではなくなっている」とした上で、有事の際にスムーズに対応するための、当事者意識を持った体制づくりの必要性を訴えた。
平塚校長は東日本大震災発生時、石巻市立石巻中学校で勤務。震災後の津波で児童教員計84人が死亡した石巻市立旧大川小学校に通っていた長女・小晴さんを亡くした。平塚校長は学校勤務の傍ら、当時行方不明だった小晴さんを捜索。震災から5カ月後にようやく遺体が発見された。「会えるなら死んでもいいとすら思った。他の人に同じ思いをしてほしくない」との思いから、現在も教員と学校事故遺族という両面の立場から学校安全についての講演活動を行っている。
震災から12年が経過し、震災当時の記憶がない、もしくは生まれていないという児童生徒が多くなっている。平塚校長は防災教育や震災伝承の意義を「未来の命を守るため」と強調。「小学校で講話を行った際の感想で、身近な被災者や身近な人の死など『身近』という言葉が多かった」と振り返り、「子供にとって、震災は身近でないということの裏返し」と危惧した。加えて、「震災からの復興に導いたつながりや協働、絆といった力がコロナ禍の3年間においては育っていない感触がある」と懸念を示した。
続けて、昨年3月に閣議決定された「第3次学校安全の推進に関する計画」で、課題に挙がった災害リスクを踏まえた実践的な防災教育について言及。「学校の特別活動とのなじみが非常にいいため、防災学習というと共助の面が多くなってしまう。でも本当に大切なのは自助。自分の命は自分で守る。それが周りの命を大切にするという面にも反映される」と語った。
また、内閣府の災害対応の原則にある「空振りOK、見逃しNG」についても触れ、管理職に対して、「空振りをすると批判があるかもしれない。でも何のためにそうしたのか答えられるようにすることと、空振りしたときに批判を受ける覚悟が必要だと思う」と求めた。
質疑応答では、参加者から「防災教育をどうしようかという機運は高まっているが、自分からいろいろ企画しながら取り組むという流れにならない。意識をどのようにして高めればいいか」という質問が寄せられた。
これに対し、平塚校長は生活安全、交通安全、災害安全という学校安全の3領域を取り上げ、「少なくとも、生活安全や交通安全というのはどこの学校でも関わる部分だと思うので、そこから当事者意識を持ってもらい、自分事として考えていく機会を多く持つこと」とアドバイス。
さらに具体的に「安全点検や避難訓練はどこの学校でも確実にやっていると思う。その質をどのように上げていくか。当事者意識を持たせるためには、担当者だけでなくチームを組織する。例えば、よりリアルな避難訓練をするにはどうすればいいかという場合、津波想定区域が変わったなどトピックスを基に話し合う」と応えた。
交流会は公益社団法人「3.11メモリアルネットワーク」が主催。教員や学生などオンラインを含め約130人が参加した。交流会は全3回行われる予定。次回は7月2日、元中学校教員で平塚校長と同じく旧大川小学校で娘を亡くし、現在は伝承活動を行っている佐藤敏郎さんの講話などが行われる。専用フォームから申し込め、参加は無料。