こども未来戦略会議が方針案 予算規模は3兆円半ばも視野

こども未来戦略会議が方針案 予算規模は3兆円半ばも視野
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 岸田文雄首相が打ち出した「異次元の少子化対策」の実現に向けた議論を進めてきた政府の「こども未来戦略会議」は6月1日、首相官邸で第5回会合を開き、同会議としての「こども未来戦略方針」の案を検討した。3月に小倉将信こども政策担当相が取りまとめた試案(たたき台)である「こども・子育て支援加速化プラン」の予算規模は現時点で3兆円程度だが、さらに高等教育費の支援や子どもの貧困対策、児童虐待防止、障害児・医療的ケア児に関する支援策について、今後の予算編成過程で拡充を検討し、全体として3兆円半ばの充実を図るとした。方針は今月に閣議決定する「経済財政運営と改革の基本方針2024」(骨太の方針)に反映される。今後、政府は方針の具体化を進め、年末までに「戦略」を策定する。

こども家庭庁予算は5割増に

 この日の会合で示された方針の案では、加速化プランをベースに、それぞれの施策を具体化。こども・子育て予算の倍増に向けた財源に関しては、2028年度までに徹底した歳出改革を行う一方で、財源確保のための消費税などの増税は行わないとし、企業を含め社会全体が連帯し、公平な立場で広く負担していく新たな支援金制度の構築に向けて、年末までに結論を出すとした。28年度までに安定財源を確保する一方、加速化プランは26年度までを集中取り組み期間としていることから、この間に財源不足が生じないよう、必要に応じてつなぎとしての「こども特例公債」を発行する。

 加速化プランの予算規模は現時点で3兆円程度と見込むが、方針案に盛り込まれた施策のうち、高等教育費の支援拡充、今後策定される「こども大綱」で具体化する子どもの貧困対策や児童虐待の防止、障害児・医療的ケア児に関する支援策については、今後の予算編成過程で施策の拡充を検討し、全体で3兆円半ばの充実を目指す。加速化プランの実施によって、こども家庭庁の予算は5割増加すると見込まれる。

 

高等教育費の支援拡充

 具体的な施策をみていくと、教育費に関しては、公教育の再生に向けた取り組みを着実に進めていくことが重要であるとし、学校給食費の無償化の実現に向けて、すでに無償化を実施している自治体の実態や成果・課題、全国規模での学校給食の実態調査を速やかに行い、1年以内にその結果を公表するとした。

 また、奨学金制度の充実と授業料後払い制度(日本版HECS)を柱とする高等教育費の負担軽減では、貸与型奨学金の減額返還制度を利用可能な年収上限を325万円から400万円に引き上げ、子ども2人世帯については500万円以下まで、3人以上世帯については600万円以下までさらに引き上げる。所得連動方式を利用している場合は、返還額の算定のための所得計算において子ども1人に月33万円の所得控除を上乗せする。授業料減免・給付型奨学金は、24年度から多子世帯や理工農系の学生らの中間層(世帯年収約600万円)に拡大することに加え、執行状況や財源などを踏まえつつ、多子世帯の学生らに対する授業料などの減免のさらなる支援拡充を検討する。

 授業料後払い制度は、24年度から修士段階の学生を対象として導入。その上で支援拡充の在り方について検討を進める。財源基盤を強化するため、「HECS債(仮称)」による資金調達手法を導入する。

「こども誰でも通園制度」を24年度から本格実施

 幼児教育・保育の質の向上に関しては、安心して子どもを預けられる体制整備を急ぐ必要があるとして、保育所、幼稚園、認定こども園の運営費の基準となる公的価格について、費用の使い道の可視化を進め、保育人材の確保、待機児童の改称などの施策との関係を整理しつつ、改善に向けた取り組みを進める。1歳児と4・5歳児の職員配置基準についても、1歳児は6対1から5対1へ、4・5歳児は30対1から25対1へ改善するとともに、民間の給与の動向を踏まえた保育士のさらなる処遇改善を検討する。

 さらに、0~2歳児の未就園児を含め、全ての子育て家庭に対して、多様な働き方やライフスタイルに関係なく支援を強化するため、現行の幼児教育・保育給付に加え、月一定時間までの利用可能枠の中で就労要件を問わずに時間単位で柔軟に利用できる新たな通園給付「こども誰でも通園制度」を創設。今年度中にモデル事業を拡充させ、24年度からは制度の本格実施を見据えた形で実施する。

 これに加え、子育て世代の柔軟な働き方に対応した取り組みも強化。子どもが3歳になるまでは事業主に対して短時間勤務を措置することが義務付けられ、フレックスタイム制を含む出社・退社時刻の調整が努力義務となっているが、新たにテレワークも努力義務に入れることを検討。男女共に一定時間以上の短時間勤務をした場合に手取りが変わることなく育児・家事を分担できるよう、子どもが2歳未満の期間に時短勤務を選択したことによる賃金低下を補い、時短勤務の活用を促すための「育児時短就業給付」を創設。25年度からの実施を目指す。

 子どもが3歳以降、小学校就学前までは、短時間勤務、テレワーク、フレックスタイム制を含む出社・退社時刻の調整、休暇などの柔軟な働き方を選択できる「親と子のための選べる働き方制度」の創設を検討。現在は子どもが3歳になるまで請求できる残業免除の対象となる子どもの年齢引き上げも検討する。

 合わせて、就学前の子どもが病気などの場合に年5日間の取得が認められる「子の看護休暇」について、対象となる子供の年齢を引き上げ、入園式などの行事や学級閉鎖にも活用できるように、休暇取得自由の範囲の見直しも検討する。

 子育てに関する経済的支援の強化や若い世代の所得向上に向けて、児童手当は全ての子どもの育ちを支える基礎的な経済支援としての位置付けを明確化。所得制限を撤廃し、全員を本則給付とし、支給期間を子どもの高校卒業まで延長する。子どもが3人以上の世帯は経済的支援の必要性がより高いと考えられることから、第三子以降は3万円とする。これらの児童手当の拡充は、地方自治体の事務負担を踏まえつつ24年度中の実施を目指す。

 同会議は次回会合で方針を取りまとめる予定で、さらに政府は、年末までに方針の具体化を進め、「戦略」を策定するとしている。

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