文科省の自己矛盾 2種免許の特例は定数改善が前提(喜名朝博)

文科省の自己矛盾 2種免許の特例は定数改善が前提(喜名朝博)
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 中教審の教員養成部会は、4年制大学への2種免許取得課程の設置案を了承した(9月28日付本紙電子版「4年制大学への2種免許取得課程の設置案を了承 中教審部会」)。これによって、教員免許法上、短期大学等に限られていた小中学校の2種の教員免許の教職課程を4年制大学にも置くことができるようになる。その数日前には「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について」を諮問し、大学の再編・統合を促す議論を始めたところである。

 一方、教育課題の複雑化に対応するため、文科省は教員には高度な専門性が必要であると言い続けてきた。2012年の中教審答申「教員生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上対策について」では、教員養成を修士レベル化し、教員を高度専門職業人として位置付けるとまで言及している。

 現時点で、どれだけの大学が新たな課程を申請するか分からないが、全ての教員に専門性の向上が求められる中で2種免許の教員を増やそうというこの文科省の自己矛盾は、取りあえず免許取得者を増やし教員採用選考の倍率を上げるために、教職に必要な履修単位数を減らすという一時しのぎにしか見えない。

[教職]×[強み・専門性]

 今回の設置案は、2つの特例制度からなる。一つは「強みや専門性を身に付ける活動と両立する教職課程の特例制度」である。これは、[教職]×[強み・専門性]を実現するものであり、強みを生かした教員を目指すことになる。

 ここで言う「強み」として想定されているのが、心理、福祉、障害児発達支援、日本語指導などである。カウンセリングの手法を身に付けた教員やスクールソーシャルワークの実践力のある教員が生まれることになる。中でも、障害児発達支援に明るい教員は即戦力になるだろう。学校現場の教育課題に対応できる専門性と教員免許状との間で生まれる相乗効果は、大いに期待できる。

[中学校免許(英語、理科、数学、保健体育)]×[小学校免許]

 もう一つは「専科指導優先実施教科に対応した小学校教諭の教職課程に関する特例制度」である。これは、小学校の専科指導優先実施教科である英語・理科・算数・体育に相当する中学校教員免許取得の教職課程を置く大学の学科が小学校の教職課程を設置できるようになるものである。申請と課程認定により、例えば中高の英語免許を取得するための学科で、小学校2種の免許が取得できることになる。

 現在でも、中高免許を持っていれば、その教科に限って小学校でも指導することができる。しかし、小学校に特化した指導法を学んでいるわけではなく、自己研さんに頼っていた。高学年の教科担任制を見越せば、義務教育を俯瞰してその教科を指導することができ、その専門性が発揮できる。

 私事で恐縮だが、勤務する学科は小学校の1種、中高保健体育1種の3つの1種免許を同時取得できる私学では数少ない学科である。12年間の体育・保健体育の一貫性を持った理解は、教員になったときの大きな自信となっている。それは、専門を持っているという強みである。

専門性の高さは全ての教員に求められる

 さまざまな専門性や得意分野をもつ教職員で学校を組織し、その力を最大限に生かしながら学校を経営していくのが本来の「チーム学校」である。その意味でも教職員の多様性は学校の「強み」となる。

 そのための共通条件が教員免許であるが、教科指導、生徒指導、特別支援教育、ICTやデータの利活用など、基礎免許で担保すべき資質・能力の幅は膨大であり、4年間では足りないというのが養成現場の実感である。修士レベル化を前提に、学校インターンシップと教育実習を融合させるなどして、教員の専門性の向上が必須である。そうでなければ、これからの学校教育の大きな変化には対応できない。

専門性を発揮できる環境づくりとセットで

 2種免許は、1種免許への上進が努力義務となっている。ある部分に特化した専門性は貴重であるが、全ての教員が各分野で一定水準の専門性を持っていることも必要である。もちろん、採用後に力をつけていくのが教員の使命であるが、そのスタートのポテンシャルは高いに越したことはない。さらに、自己研さんの方法を身に付けていることも教員の条件である。

 それでも、この特例制度で学校の多様性が実現できるなら一筋の光明となるだろう。しかし、ここには定数改善という大前提がある。本制度により配置される教員が、専門性を発揮するためには、加配教員増や小学校高学年の専科加配の推進がセットとして制度化されることが必要である。そうでなければ結局、一時しのぎと言われることになる。

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