児童生徒がクラス全体で同時にオンライン教材を利用しようとすると、接続できなくなってしまう--。こうした学校現場でのネットワーク環境の不具合が2、3割の自治体で起きている実態を受け、盛山正仁文科相は11月14日の閣議後会見で、それぞれの学校現場の不具合を洗い出して解決策を提示する校内通信環境の調査(ネットワークアセスメント)について「2年程度で一気に加速させていきたい」と述べ、ネットワーク環境の改善に意欲を示した。また、アセスメントの実施率や改善状況などを把握するための調査を改めて実施する考えを表明した。
文科省が昨年9月現在で全国の小中高など公立学校3万2377校を対象に校内通信ネットワーク環境の整備状況を学校設置者の1815自治体等に聞いたところ、GIGAスクール構想で児童生徒に配備された1人1台端末を活用するために必要なネットワーク環境が十分に確保できず、さまざまな不具合が未解決のままになっている自治体が2、3割程度あることが分かった。未解決となっている不具合を具体的にみると、「動画がスムーズに再生できない」(21.8%)、「全校生徒が一斉に端末を利用すると、ネットワークに接続しにくくなる」(37.6%)、「クラスで一斉にオンライン教材などを利用すると、接続できない状況が発生する」(29.3%)--などとなっていた。
こうした状況を改善するため、文科省は今年2月、自治体に対して学校現場の校内通信環境を評価してそれぞれの学校に必要な解決策を明示する「ネットワークアセスメント」の実施を事務連絡で要請。CBTシステムによる全国学力・学習状況調査など、今後、大容量の通信が発生する状況も考慮した上で、アセスメントを実施するよう求めた。その上で、ネットワークアセスメント実施促進事業として2024年度から4年間かけて約2万校を対象にする計画を立て、8月の来年度予算概算要求に初年度分として10億円を計上。11月10日に閣議決定した今年度補正予算では、この計画を前倒しして2年間で実施するとして、23億円を計上した。
盛山文科相は「補正予算案においては、アセスメントへの支援について、概算要求額の倍以上の額を計上した。予算が成立後、2年程度でネットワークアセスメントを一気に加速させていきたい」と説明。これと平行して、アセスメントの実施率や改善状況、通信速度や契約の実態を把握するための調査を改めて実施する考えを明らかにした。
文科省では、各都道府県に設置するGIGAスクール運営支援センターを通じて、学校現場のネットワーク環境改善への支援も行う枠組みで施策を進めてきたが、「各都道府県の運営支援センターではヘルプデスクの運営やサポート対応が優先されており、ネットワーク環境の整備にまで手が回らない状況がある」(初等中等教育局修学支援・教材課)として、運営支援センターとは別枠でネットワークアセスメント実施促進事業を立ち上げた経緯がある。
同課の担当者は「自治体に学校現場のネットワーク環境の整備が進まない理由を聞くと、『設備が老朽化しているので学校施設の改修が必要になるが、予算がない』といった説明を受けることがある。そうした場合でも、実際にアセスメントを行うと、Wi-Fi環境の整備など応急対応で課題を解決できることもある。学校現場でのネットワーク環境の不具合がなぜ起きているのか、その原因を確認し、それぞれの学校の実情に合わせた解決策を提示することが必要だ」と述べ、ネットワークアセスメントの早急な実施を自治体に促した。