GIGA端末の更新はどうなる? 基金化の狙いや舞台裏を解説

GIGA端末の更新はどうなる? 基金化の狙いや舞台裏を解説
霞が関の官庁街に立つ財務省(右手前)と文科省(左奥)。予算編成において、毎回のように激しい応酬を繰り広げてきた=撮影:大久保昂
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 GIGAスクール構想で配備されたデジタル端末の買い替えをどうするか。多くの自治体が気をもんでいた問題は、国がお金を出して都道府県ごとに基金を設置し、計画的に更新を進めていくことに決まりました。でも、「基金って何?」「どんなメリットがあるの?」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。そんな疑問に答えるとともに、予算編成を巡る駆け引きについても解説します。

 Q GIGAスクール端末を基金方式で更新することが決まったそうだね。そもそも基金ってどういうものなの?

 A 政府が特定の目的のために積み立てたお金のことです。国や地方自治体の予算は「単年度主義」が原則となっており、基本的には当該年度のうちに見積もりや契約、支払いまで行わなければなりません。これに対して基金は、年度をまたいで執行できるので、使うタイミングを柔軟に決定することができます。

 2019年度以降に配備されたGIGAスクール端末は、24年度から更新時期を迎えます。地方自治体は、端末の消耗具合などを見ながら、最適なタイミングで買い替えたいと考えています。しかし、年度ごとに予算化された場合、見通しを持ちながら計画的に買い替えることは難しくなります。だから、全国知事会などが「基金方式にしてほしい」と訴えていました。

基金による更新の狙いはコスト削減

 Q でも、基金ってあまり良くないイメージがあるよね。最近も批判されているニュースを見たよ。

 A 確かに国の予算を巡っては、せっかく基金を作ったのにほとんど使われない「休眠基金」が問題となっています。ただ、GIGA端末の更新については、事情が異なります。端末には必ず寿命があり、地方自治体は「買い替えを進めたいので国が支援してほしい」と要望していました。基金のお金が使われない事態は想像しづらいです。

 文科省は基金化のメリットの一つとして、コスト削減を挙げています。都道府県ごとに基金を置くのは、都道府県が主導する形で市区町村の枠を超えた共同調達を進めてもらいたいからです。大量の端末をまとめて購入すれば、単価を下げることができます。

 また、年度内の予算執行という制約がなくなることで、端末や業者をしっかりと比較・検討できるため、優れた端末を安く購入しやすくなるという効果も考えられます。最近も徳島県で、県立学校の生徒用に購入した端末が大量に故障し、大きな問題となっていました。ああいった事態も避けやすくなるというわけです。

 Q なるほどね。でも、GIGA端末って本当に全員分必要なんだろうか。せっかく買ったのに、あまり活用されていない地域もあると聞くよ。

 A 基金による共同調達には、そうした問題を改善する狙いもあるようです。同じ仕様の端末を使うようになれば、活用法などに関する研修も市区町村などの枠を超えて共同で行われるようになり、ICTを使った授業の好事例が広まる可能性があります。

 端末の活用が進まない事情の一つとして、指導する側の教員に端末が行き渡っていない問題を挙げる人もいます。授業を受け持つ教員の端末購入費は地方交付税で全額措置されているはずなのですが、文科省によると、昨年8月時点で、約3分の1の自治体は全員分の整備ができていませんでした。このため文科省は、自治体が今回の基金を使って児童生徒用の端末の買い替えを進める場合、教員側の端末整備率についても「100%以上」とする条件を課すことにしています。

 Q 疑問はまだあるよ。今回の補正予算で確保したのは、約7割分の端末の更新費用にとどまるそうじゃないか。どうして全ての端末じゃないのかな。

 A これには事情があります。文科省は今回の補正予算で、更新費用の全額を確保することを目指していました。しかし、総合経済対策を策定する中で、岸田文雄首相が低所得世帯を対象とした給付金の支給などの政策を打ち出し、大きな予算が必要になりました。政府全体の予算規模が膨らむことを避けるため、財務省との交渉の中で、今回は25年度までに更新が必要だと見込まれる7割分を基金化する形に落ち着いたようです。

 11月2日に閣議決定された岸田政権の総合経済対策を読むと、GIGA端末の更新については「5年間同等の条件で支援を継続」と記されていますので、残る3割分についても国費で措置されると考えるのが自然です。買い替えの進捗(しんちょく)を見ながら、追加で予算化していくことになるでしょう。

 文科省幹部の一人は「今回は基金を作ることをまず優先した」と話しています。このタイミングでどうしても基金化しておきたい理由は、他にもあったと推察されます。

給特法の見直しの前に決着させたかった文科省

 Q どういうこと?

 A 中教審では今、教員の負担軽減や処遇改善の議論が進められており、来春をめどとして、給特法の見直しを含めた改革の方向性を示す見通しになっています。その後のスケジュールを考えると、来年秋に展開される25年度予算の交渉では、給特法改正を含めた教員の処遇改善がテーブルに載る可能性が高いです。

 給特法をどう見直すかについては、「教員にも残業代を支給すべき」「教職調整額を上積みすべき」といった意見があります。いずれにしても、大きな予算の増額が必要なのは間違いありません。財務省との交渉は相当に厳しいものになるでしょう。だから、文科省としては、GIGA端末の更新のための予算交渉を同時に抱えることを避けたかったのが本音です。

 Q 大きな交渉を2つ同時に抱えると、大変だもんね。

 A そういうことです。今回の補正予算で基金化が決まり、GIGA端末の更新費用については当面心配する必要がなくなりました。文科省としては、関門を一つ突破したといったところでしょうか。一方、中教審では今後、給特法の在り方が本格的に話し合われることになります。1年後の予算交渉を見据えながら、こちらの議論にも注目したいですね。

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