【どうなる部活動改革④】広がる企業参画、カギは持続可能性

【どうなる部活動改革④】広がる企業参画、カギは持続可能性
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 部活動の地域移行を軌道に乗せる上で、民間の知見やノウハウを借りることは有力な選択肢の一つ。今回はこうしたビジネスの視点から部活動の未来を考える。企業と連携しながら、持続可能な地域スポーツ活動を実現していくにはどうすればよいのだろうか。

旅行会社が部活動支援に乗り出した理由

 「私たちの強みや経験を生かして部活動を支援するプラットフォームをつくることができれば、社会課題となっている部活動の問題に貢献できるのではないか」

 こう語るのは、大手旅行会社「近畿日本ツーリスト」(東京都新宿区)の宮崎敏行さんだ。同社は今年度から、修学旅行を通じて築いた学校現場や教育委員会とのパイプを生かし、部活動の運営を手助けする「部活動サポートサービス」に乗り出した。新型コロナウイルスの感染拡大によって主力の旅行事業の不透明感が増す中、経営の多角化に向けて宮崎さんたちが目を付けたのが「部活動」だった。

 事業は大きく2つに分かれる。一つは、オンラインでの部活指導サービスの提供だ。ドローンやeスポーツ、ダンス、ヨガといった従来の中学校の部活動がカバーできていなかった活動について、プロの講師やインストラクターの指導が受けられる。

昨年、試行的に行われたオンラインのダンス部活動の様子。沖縄県渡嘉敷村の中学校 の生徒たちが参加した(近畿日本ツーリスト提供)
昨年、試行的に行われたオンラインのダンス部活動の様子。沖縄県渡嘉敷村の中学校の生徒たちが参加した(近畿日本ツーリスト提供)

 もう一つは、部活動運営事務の代行サービスだ。指導者や活動場所の調整、参加する生徒や保護者への連絡、集金などの業務を同社が一手に担う。部活動の地域移行が進めば、こうした需要が拡大すると見込んだという。

 サービス開始を発表してから、多くの学校や自治体から問い合わせが寄せられ、ニーズの高さを実感したという。その一方で、こうしたサービスをいきなり全面的に導入するケースはなく、事業として成長するまでには少し時間がかかりそうだ。宮崎さんは「まずはスモールスタートで始める。最初は厳しいかもしれないが、魅力を感じてもらい、長期的に見て事業が拡大していくならばメリットがある」と強調する。

人材の確保だけではうまく行かない

 一方、時代を先取りするように実績を積み上げてきた企業もある。2010年代から全国各地の自治体とタッグを組んで部活動の地域移行を伴走支援してきた「スポーツデータバンク」(東京都中央区)もその一つ。地域ごとのリソースやニーズを丁寧に把握し、関係者とビジョンを共有しながら、それぞれの地域に合った受け皿づくりを手伝ってきた。これまでの経験から、地域移行をうまく進める上で「人材」「財源」「管理」の3つのキーワードが浮かび上がってきたという。

 代表取締役の石塚大輔さんによると、地域移行を目指す自治体の多くは当初、企業に対して指導者の確保、つまり「人材」の観点での支援を求めるケースが多いという。だが、石塚さんは「人材が供給されるだけでは持続可能な体制にならない」と説明する。安定的に運営していくためには、「財源」と安全面を含めた「管理」という2つの要素についても、民間の力を活用していく姿勢が欠かせないという。

部活動の地域移行のポイントを語るスポーツデータバンクの石塚さん=撮影:藤井孝良
部活動の地域移行のポイントを語るスポーツデータバンクの石塚さん=撮影:藤井孝良

 例えば、同社が支援している沖縄県うるま市。地域移行に必要な「財源」を賄うために、地元企業からの協賛金を募っている。また、企業が自治体に寄付すると税制面での優遇措置が受けられる「企業版ふるさと納税」の制度を活用した支援も呼び掛けている。

 「管理」の面でも、民間企業の力を借りる余地がある。部活動を学校の管理下から外すとなれば、これまで教員が担っていた安全・防犯の対策をどうするかという課題が浮上するからだ。石塚さんによると、地域移行に際し、学校の体育館にクラウドカメラを設置したり、学校施設にスマートロックを導入したりと、さまざまな企業の技術やサービスを活用する動きが広がっている。

 また、スポーツデータバンクは、指導者向けの教育・認証制度を導入し、指導者の資質などを保証する仕組みづくりを進めているが、この取り組みに協賛してくれたのは大手損害保険会社の三井住友海上だった。石塚さんは「それぞれの自治体で部活動の地域移行の課題をオープンにし、その課題を解決してくれる企業から協賛を得る代わりに、企業の商品、サービスを活用し、企業側にも還元していく。このノウハウをどうやって横展開していくかがポイントだ」と語る。

専門家「税金頼みからの脱却に向け規制緩和を」

 部活動の地域移行に向け、今後も拡大していくことが見込まれる民間企業の参入。だが、今の仕組みでは、そのメリットを十分に生かし切れないという意見もある。

 「今は学校が聖域化されていて、許されないことが多い」

 早稲田大スポーツ科学学術院の間野義之教授はこう語る。間野教授は部活動の地域移行に向けて経産省が発足させた「地域×スポーツクラブ産業研究会」の座長として、受け皿づくりについて検討してきた。全国10カ所でのモデル事業を通じて実感した課題が、民間企業が入ってもなかなか税金頼みの仕組みから抜け切れない現実だった。

持続可能な部活動の地域以降に向け、規制緩和の必要性を訴える間野教授(本人提供)
持続可能な部活動の地域以降に向け、規制緩和の必要性を訴える間野教授(本人提供)

 「持続可能なものにしていくには、行政の補助だけでなく、保護者の負担と企業のスポンサーシップも組み合わせることが必要になってくる」と間野教授。スポンサーシップで収益化を図るには、チームのユニホームに企業のロゴを入れたり、公式戦の大会名のネーミングライツを導入したり、学校施設への指定管理者制度を導入したりといった取り組みが考えられるが、現状はいずれも難しい。だからこそ「規制緩和」が必要だというのだ。

 こうした現状を打破するため、間野教授はチャレンジ精神を持った自治体が現れることに期待しているという。「部活動が地域に移行したらそれで完成かといえば、そうではない。勇気ある自治体、学校、教育委員会に出てきてもらうのが大事だ」

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