【盛山文科相に聞く㊦】 「義務教育のプライオリティを上げたい」

【盛山文科相に聞く㊦】 「義務教育のプライオリティを上げたい」
「学校現場の先生にはこれからも子どもたちに向き合い、すくすくと育てていただきたい」と語る盛山文科相=撮影:佐野領
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 2023年12月21日に教育新聞のインタビューに応じた盛山正仁文科相。少子化の中で教育予算を増やすことは容易ではないとの認識を示しつつ、岸田文雄政権が進める「異次元の少子化対策」をベースとして、義務教育に対する予算の拡充につなげたい考えを示した。インタビュー詳報の後半では、こうした予算の在り方や喫緊の課題となっている教員の「働き方改革」などについてただした。

――学校現場の人員拡充も含め、必要な教育予算をどう確保していくのか。

 政府の予算編成には(各省庁の予算要求に上限を定める)「シーリング」の仕組みがあり、その中でどうするのかになる。今回は(23年度の)補正予算でだいぶ取ることができた。GIGAスクール構想の端末更新について、5年間で更新する制度を認め、この逆風の中で3年分の基金を作ることができたことは、予想以上にうまくいった。

 学校教育では「リアルな体験が大事だ」と言いながらも、他方で私は(議連の幹事長として)学校教育のICT化も進めてきた。その中で更新費用の国庫負担を期待する関係者に対しては「1回目があまりにうまくでき過ぎたので、今回の更新は相当厳しい」と水を掛けてきたが、それでも予算を確保して基金として作れたことは大きかった。

 学校の先生には、タブレット端末やデジタル教材をうまく使いながら授業をしていただきたい。それによって2次元の紙ではなかなか表せなかった立体の展開とか、天体ショーとか、そういうことが分かりやすくなる。ICT機器を使って、子どもたちが学びを吸収しやすくしていきたい。また、デジタルを使うことによって、先生たちの校務の負担軽減にもつなげていくことができればとも思う。

――少子化が進む中で、教職員定数の改善などの教育予算を増やしていくことはハードルが高いのか。

 ハードルは高い。ただ、全体の政策の中でのプライオリティとして、教育や子ども対策を考える必要がある。今は「異次元の少子化対策」をやっていて、その一環で高等教育の負担を軽減することになっている。それらのベースとして一番大事になる小学校低学年の教育について、うまく政府全体のプライオリティを上げる方向に持っていくことができれば(教育予算に対する考え方は)変わっていくと思う。

――戦後の日本は教員を特殊な職業と位置付け、残業代を支給しないと規定した「給特法」や給与を優遇する「人確法」を整備した。働き方改革や教員の処遇改善に取り組む中で、教員の「特殊性」をどのように考えているか。

 学校の先生は、倫理感を含めて高いものを求められているので、普通の仕事をする人以上に大変だ。「教育は国の礎」という言葉から始まるのかもしれないが、特に小学校低学年への対応は本当に大事だ。子どもをうまく育てるために、いろいろ工夫をしながら向き合っている先生は、大変な仕事だ。本当にそう思う。

 私は大学で非常勤講師をした経験があり、「大学生に聞いてもらう授業をするのは難しい」と実感した。小学生を教えることは、大学生を相手にするよりも、もっと大変だろう。どこまで勉強したいと思っているのか分からない小学校低学年の子どもに対して、45分程度集中して話を聞いてもらうとか、基本的なことを覚えてもらうとか、これはすごく大変だろうと思う。

――教員にも時間外労働に対する手当を出すのがいいのか。その場合、裁量との関連はどのように考えるか。

 働き方改革は待ったなしになっている。勤務時間を短くすることは大原則だ。その一方で、学校の先生にはやはり、子どもたちに向き合ってほしい。今の状況で私たちがお願いできることは、うまくタブレット端末その他を使い、これまで時間を取られていた負担をできるだけ軽くしながら、やっていってほしいということだ。

 タブレット端末を使うことで、子どもたちが今までのプリントよりも理解が進んでいることも多いと思う。これまでは宿題がプリントで出て、その回答を提出して、先生が採点して、次の授業の時に子どもたちに渡していた。これに対してタブレット端末では、「これは○です」「これは間違い」とすぐに答えが分かる。子どもたちも「ああ、そうか」とその場で気付いた方が早く分かる。こうしてICT機器を活用していただくことによって、教員の勤務時間の短縮にもつながるのではないか。採点の手間も含め、うまくお願いしたいというのが私の立場だ。

 学校の先生の給与や処遇、労働時間、裁量、給特法の在り方については、中教審が動き出しているところ。じっくりご検討いただき、それから次のステップに進むことになる。

――先日公表されたOECD(経済協力開発機構)による生徒の国際学習到達度調査(PISA)では、日本の教育がおおむね堅調であることが示されたが、背景の一つに教員の献身的努力があるとされている。日本の学校教育を支える教員へのメッセージを。

 コロナ禍が明け、普通の生活になってきたのは23年の春ぐらいからだ。20年から2年間ぐらいは厳しい環境が続いてきた。そうした中、慣れないオンラインに対応した先生もいたと思う。多くの先生にとって、(学校のICT環境整備は)黒船が来たようなものでしょう。それまで教科書を持って、黒板を背中にして教えていたのが、タブレット端末に持ち変えて、それを見ながら「この子が遅れている」と分かったら、そこへ行って対応するようになった。今までプリントを書いていたのが、デジタルになってどうしようかと困ったところもあったと思う。それらも含め、学校の先生には本当に頑張っていただいた。誠にありがとうございましたという感謝を伝えたい。

 そうは言いながらも、子どもたちが自分で体験をする「リアル」が大事だ。学校現場の先生には、対面で子どもたちと接しながら、どういうふうにすればいいのかを考えていただき、これからも学びの充実や進化に取り組んでほしい。リアルな部分をベースにしながら、ICT機器もうまく活用して、これからも子どもたちに向き合い、すくすくと育てていただきたい。

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