【学校らしくない学校での3年】 子どもの願いを知る

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 授業は登校してもオンラインでもよく、時間割も生徒と教員が相談して決めるなど、学びの多様化学校としてユニークな取り組みを進める岐阜市立草潤中学校。学校生活も学習状況も一人一人違う中で、教員はどのように生徒と向き合い、支援をしているのか。教務主任の中今純一教諭は、ポイントの一つとして開校後しばらくして導入した「生徒カルテ」の存在を指摘する。(全3回)

「生徒カルテ」を一人一人作成

――授業は登校でもオンラインでも可、時間割も生徒と相談して決めるとのことですが、一人一人学び方が違う生徒たちに、どのように支援の筋道を付けているのでしょうか。

 「生徒カルテ」を一人一人作っています。今でも中身を改良し続けていますが、「記録のための記録」にならないようにしていこうと、生徒指導主事が中心になって作成しています。そこに週1回、学習の状況や生活面の状況などを担任が記録しています。

 また、生徒たちには半年後もしくは1年後の目標や見通しを自分なりに持てるように働き掛けています。子どもたちはそれぞれ状況が違うので、「学校には来ているけれど教室での勉強はできない。だから半年後には教室でちょっと授業を受けられるようにしたい」という子もいれば、それを短期の目標にして、1年後には「5日間当たり前に登校できるようになりたい」という子もいます。

 保護者との面談も年5回あって、そこで目標を生徒・保護者・教員の三者で共有しています。また、「生徒カルテ」には、目標に至るまでのステップをどうするか、個別の支援計画みたいなものを入れ込んでいます。もちろん、目標を立てられない子もいるので、無理はさせません。ただ、子どもが願っていることを大人がちゃんと知って、「一緒にやっていこう」という関係を築いていくようにしています。

「生徒カルテ」は、生徒と接する中で誕生したという=撮影:大川原通之
「生徒カルテ」は、生徒と接する中で誕生したという=撮影:大川原通之

――カルテは開校準備の段階から導入しようとしていたんですか。

 開校してから考えつきました。最初は「学習の様子を職員みんなで把握したい」「生活の様子を把握したい」ということで、普通の中学校ではバラバラに行われる記録の一元化をしようと考えました。

 その後、開校2年目に私は生徒指導を担当していましたが、生徒が今どの段階にいるのかを可視化したいと考えました。そして、「休む段階」「見つける段階」「試す段階」「挑む段階」の4段階に分けました。学校に行けなくて家にいる状態から毎日学校に来ていろいろチャレンジする状態まで、一人一人の子どもが今どの段階にいるのかを可視化し、職員で共有しようと考えたのです。

 例えば、「休む段階」の生徒に、「もっと授業に行こう」「頑張れ」などと背中を押しても苦しいだけです。逆に、いろいろと頑張ろうとしている子に「無理するなよ」と言うのも、ちょっと違います。ですから、担任が一人一人の生徒をいろいろな観点・項目ごとに4段階に分け、1週間ごとに記録しています。もちろん、段階は上がったり下がったりします。

 「生徒カルテ」に限らず、現在も「もっとこういうものがあった方がいいんじゃないか」とか「こういうものがあったら使えるんじゃないか」など、考えたことを出し合いながらアップデートをし続けています。

学校での生徒たちの過ごし方

――生徒たちは学校で、実際にどのように過ごしているのでしょうか。

 生徒と担任で相談して、「今日の1時間目は授業をちょっと頑張ってみようかな。2時間目はちょっとしんどいから図書室で過ごそうと思っている」とか「来週の行事は、どんな形なら参加できそう?」などと、相談しながら決めています。もちろん、その日の体調や気分によってできないこともたくさんありますから、その都度柔軟に対応しています。

――そうなると、生徒一人一人の学習の進度にバラつきが出てきそうですね。

 おっしゃる通りで、小学校の低学年からずっと不登校だった子もいれば、中学校に入ってから不登校になった子もいます。また、同じ学年でも学習の理解が十分でない部分が子どもによってバラバラです。一応、各学年の授業は教科書通りに進んでいきますが、それとは別に「ギフティッドルーム」という部屋を設けています。

 例えば、「僕は小学校の5・6年の時に不登校だったから、5・6年の算数を学び直したい」という子は、そこに行って個別に学習します。市で導入しているデジタル教材を中心とし、小学校の計算ドリルやいろいろなテキスト、プリントなどの教材が用意されているので、生徒が自分で選んで、教員が支援しながら学習に取り組んでいます。

 今までは、少し休んでしまうとどんどん授業が進んでしまって、教室に戻っても授業内容が分からず不安だったと思います。そのため、教室の中に仕切りを置いて、教室を2つに分けて、それぞれの進度に合った学び方をするなどしています。中には得意な教科は自分でテキストを持ってきて、授業よりどんどん先へ進んでいく生徒もいます。

生徒一人一人に合わせた指導に取り組んでいる=撮影:大川原通之
生徒一人一人に合わせた指導に取り組んでいる=撮影:大川原通之

――中学校ですので、どうしても進路の問題があると思います。その点はいかがでしょうか。

 初年度は進路指導をどうやったらいいのかで悩みました。普通は3年生になったら進路説明会や三者面談を開き、高校受験についての情報を提供しますが、ようやく学校に来られるようになった生徒に進路という現実を突き付けると、中には苦しくなって再び来られなくなってしまう子もいます。一方で、中には進路の話をしてほしいと言う子もいます。だから一律の対応はできませんでした。今は少しずつ、子どもたちの状況やニーズを考えた上で、進路の情報提供をする場を設けています。

――具体的に、生徒たちの進路はどうなっているのでしょうか。

 全日制高校に行く子もいれば、通信制高校に行く子もいます。通信制も、今は本当に多岐にわたっています。岐阜県内でも選択肢が増えているので、生徒たちにきちんと説明できるようにするため、教員が通信制高校を訪問して、施設を見学したり話を聞いたりするようにしています。

 進路を早く決めたい生徒は早めに出願の準備を進めますし、保護者とじっくり話しながら決めていく子もいて、本当にバラバラです。今の3年生には11月時点で進路が決まった生徒もいました。

自分をアップデートさせたかった

――草潤中学校には自ら希望して来たそうですが、何かきっかけがあったのでしょうか。

 本校に来る前は岐阜市内の小学校に勤めていましたが、草潤中学校が設置されると聞いて「なんか面白そうな学校だな」と思って手を挙げました。とはいえ、不登校について特に詳しいわけではなく、「学校らしくない学校」という部分に興味が湧いたというのが正直なところです。

 今まで学校で働いていて違和感を抱いたことが幾つかありました。例えば校則です。過去の勤務校は、決して「ブラック校則」だったわけではありませんが、例えば体操服の色なんかはどうでもいいのにと思っていました。保護者や子どもたちから「なんで駄目なの?」と聞かれても、「学校がそうだから。ごめんね」としか言えない自分がいたんです。

「教員になって、学校に対して徐々に違和感を覚えるようになった」と話す=撮影:大川原通之
「教員になって、学校に対して徐々に違和感を覚えるようになった」と話す=撮影:大川原通之

 草潤中学校は、そういうことが全くない学校ということで、自分にも何かできるかもしれないと考えました。あとは、学校をゼロからつくっていくことへのワクワク感もありました。また、高い志を持ったすてきな人たちが集まってきて刺激をもらえるんじゃないか、自分をアップデートできるんじゃないかとも考えました。そうした欲求があったので、「ぜひ行きたいです」と手を挙げたんです。

【プロフィール】

中今純一(なかいま・じゅんいち) 社会科の教員として、岐阜県内の小中学校で教壇に立つ。学びの多様化学校である岐阜市立草潤中学校の設置に際して勤務を希望し、立ち上げに参画。現在、教務主任を務める。また、2022年度から福井大学連合教職大学院で「個別最適な学び」と「職員の同僚性」をテーマに学んでいる。

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