これは、以前同僚だった先輩の先生がよく話されていた言葉です。その言葉を聞いた時、確かにその通りだと思いました。例えば、同じ指示を出したとしても、この先生が言えば子どもはこういう反応を示すのに、別の先生では全く違う反応を示す時があります。それは、その先生が持つ「人格」が指示を出しているからだと思います。子どもの信頼を得ている先生は、なぜか子どもが懐き、よく言うことを聞きます。同じことを別の先生が言うと、ぷいっと横を向いてしまうことすらあります。
人格など、そうたやすく作られるわけではありません。その人が生きてきた重みを背負っているからです。だから「人格が授業をする」なんていったって、「人格が変えられるわけはないじゃないか」なんて思う人もいるでしょう。でも、私は、少し違うことを感じます。確かに「人間としての人格」はそうたやすく変えられません。でも「教師としての人格」(私はこれを「教師の品格」と呼んでいます)は、努力で作られるかもしれないと言うことです。
子どもとの接し方、授業力、同僚と協力する力(同僚性)、学級経営力、いろいろな分野で力をつけることで、「教師としての品格」が備わっていきます。だからこそ、書物に書いてあるような先行実践や力のある先生方の取り組みをまねることが大切です。そのまねから取捨選択しながら、通用するものを洗い出していく過程の中で、自分の教師力が高まっていきます。自分から先輩の技を試してみようとか、子どものためにいつも前を向いて頑張ろうとか、今の自分を変えていこうとする姿勢を持っている人が、品格のある教師といえるのではないでしょうか。
私は、毎年多くの若い先生方と出会います。中には、自分の指導力のなさに自信を喪失してしまう人もいます。そして、そういった先生の中には、矢印の向きを自分に向けて、自分を責めて落ち込んでしまう人もいます。私は、そんな若い先生方にアドバイスしたいと思います。
「矢印は自分に向けるのではなく、外に向けるべきです」と。自分がうまくいかない時こそ、目の前の現状を変えてやろうと、ささいなことでもいいから取り組んでいく。そういった矢印の向きを外側に変えることが、悩みを解決する出発点であり、自分自身を救う道です。そして、その取り組みは、子どもの成長にも、その先生自身の成長にもつながります。だから「教師の品格」を作る基盤は、前を向くことだと、長い教員人生の中で感じています。
一昔前の教師は、飲み会の席で先輩の先生の話を聞きに行ったり、先輩の話や行動をこっそりと観察したりして、自分の技に取り入れてきました。私は、そういう時代はもう終わっていると感じます。新任の先生であれ、ベテランの先生であれ、保護者からは同じことを要求される時代なのです。だから若い先生方は挑戦することが大切であり、ベテランの先生は、若い後輩に自分の技を積極的に示すべきです。そして、そういう関係は相乗効果で、お互いの成長を促します。私は、今、中学校の校長をしていますが、私の勤務する学校がそんな学校になることが夢です。
教師の世界は、今までそういった技の伝承が下手でした。しかし、これだけ若い先生が増えてきている今、若い先生もベテランの先生も「教師の品格」を磨くべく、毎日前を向いて努力していくことの大切さを感じています。
(西川真治・豊川市立南部中学校長)