本紙電子版1月25日付で報じられているように、同日、文部科学省の「今後の幼児教育の教育課程、指導、評価等の在り方に関する有識者検討会」の第1回会合が開かれ、今後の幼児教育の教育課程などに関わる議論が始まった。注目されるのは、幼児教育と小学校との接続、すなわち幼小接続をどのように進めるかである。
2006年の認定こども園制度のスタート、08年および17年の幼稚園教育要領の改訂、幼児期からの非認知能力育成の重要性への着目など、近年、幼児教育を巡ってはさまざまな動きがある。
17年告示の幼稚園教育要領では、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」として10項目が示され、小学校教育との円滑な接続が強調されている。
この「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」は、幼保連携型認定こども園教育・保育要領や保育所保育指針にも定められており、幼児教育機関の種類によらず、小学校教育との接続に向けて目指す子ども像が共有されていると言える。今回の有識者検討会においても、「幼児教育と小学校教育の円滑な接続」が論点として掲げられている。
幼小接続について、これまでの主な経緯を振り返っておこう。
・1989年改訂の小学校学習指導要領で、低学年の教科が再編され、生活科が新設された。この生活科は、幼児教育との関連が考慮されたものである。
・2007年に改正された学校教育法では、幼稚園が「義務教育及びその後の教育の基礎を培うもの」として規定された。これを受け、18年に改訂された幼稚園教育要領や小学校学習指導要領では、幼小接続に留意すべきことが定められた。
・10年、文科省の調査研究協力者会議で、「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方について(報告)」が取りまとめられた。この報告の中で、「幼児期の終わりまでに育ってほしい幼児の具体的な姿」12項目が参考例として示されている。なお、この12項目は2017年の「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」とほぼ同じであり、主な違いは、「道徳性・規範意識の芽生え」が「道徳性の芽生え」と「規範意識の芽生え」に分かれていたことと、「自然との関わり・生命尊重」が「自然とのかかわり」と「生命尊重・公共心等」に分かれていたことくらいである。
・17年に幼稚園教育要領や小学校学習指導要領が改訂され、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」が示されるとともに、この姿との関連を考慮して幼小の円滑な接続を進めることが求められている。これを受け、18年、国立教育政策研究所より、小学校入学当初の「スタートカリキュラム」を推進するための「スタートカリキュラム導入・実践の手引き」が出されている。なお、小学校への接続のための主に5歳児を対象としたカリキュラムは「アプローチカリキュラム」と言われるが、文科省はこの言葉を前面に出して報告書などを出してはいない。
・23年、中教審の「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」が、「学びや生活の基盤をつくる幼児教育と小学校教育の接続について~幼保小の協働による架け橋期の教育の充実~」を出し、5歳児から小学校1年生の2年間を「架け橋期」として、この時期の教育の充実を求めている。
以上のように、幼小接続については近年さまざまな取り組みがなされている。すでに各地で、アプローチカリキュラムやスタートカリキュラムなどの「架け橋期」の取り組みが多く報告されている。
では、今後、幼小接続をさらに進めていくにあたり、重要なことは何だろうか。重要なのは、2つの「温度差」を乗り越えることであろう。すなわち、幼児教育施設の間の温度差と、「幼」と「小」との間の温度差とをどう乗り越えるかが課題である。
まず、幼児教育施設の間の温度差についてであるが、幼児教育施設は幼稚園、保育所、認定こども園に分かれている上に、私立の園が多い。園の種類や設置者が多様であることから、幼小接続に関する取り組みにも、違いが生じやすいものと考えられる。保育者の働き方も園によって異なっており、保育者が幼小接続に関する研修を受けることが難しい園もあることが推察される。
次に、「幼」と「小」との間の温度差であるが、特に小学校側に難しさが感じられる。幼児教育側では「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を目指した教育をすることが求められており、このことは保育者にも理解しやすい。他方、小学校側では低学年の各教科等の指導において「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」との関連への配慮が求められているが、同じ小学校に多様な幼児教育施設出身の児童が進学することもあり、配慮を具体化しにくいのではないか。
これらの温度差を乗り越えるには、幼児教育施設や小学校の関係者が相互に関わる機会を増やし、互いの取り組みから学べるようにすることが求められる。このためにも、自治体が幼小接続推進のためのプラットフォームとして、交流や研修の場を設け、設置者の違いにかかわらず、地域の幼児教育施設や小学校の教員・保育者が関わり合えるようにすることが重要だ。
当然ながら、こうした取り組みを進めるためには、幼児教育施設や小学校の教員・保育者がこうした関わり合いに無理なく時間を使えるように、働き方の改善を進めることが求められる。