東京都渋谷区が文部科学省の「授業時数特例校制度」を活用し、来年度から全区立小中学校で午後の授業を探究学習「シブヤ未来科」に充てることを受け、探究的な学びや授業の変化について語り合うイベントが2月3日、渋谷区内の会場とオンラインのハイブリッドで開催された。登壇した埼玉県戸田市立戸田東小学校の元校長の小髙美惠子氏は「これから子どもたちが出ていく社会では、誰も登ったことがない山を自分の力で登っていかなくてはならない。学校の役割も変わってきた。保護者も地域も一緒に進んでいくことが重要」と学びの変換を訴え掛けた。
同イベントは、渋谷区議会議員の神薗まちこ氏の主催で行われた。授業時数特例校制度を活用し、探究学習に取り組んでいた戸田市立戸田東小学校の元校長で現在は戸田市教委の学校経営アドバイザーを務める小髙氏と、渋谷区立代々木中学校で「シブヤ未来科」のファシリテーターを務めているミライプラス代表の小林誠司氏が登壇した。
小髙氏は「課題の設定、情報の収集、整理・分析、まとめ・表現、検証・振り返りのサイクルを、同じテーマで3回は回すということが、探究学習の肝になる。1年間で3回は回さないと、本物の探究学習にはならない。だからこそ時間が必要で、授業時数特例校制度などを活用することは必要だ」と、渋谷区の来年度以降の取り組みに理解を示した。
加えて「探究学習は手段。どんな資質能力を目指すのかという焦点化が重要」と強調し、戸田東小中学校では「課題発見力」「論理的思考力」「解決への行動力」の3つの力を9年間で育もうと計画し、取り組んできたという。
探究学習を通して、子どもたちは「私でも社会に影響を与えられるんだ」「正解がないことにチャレンジするって楽しい」「勉強が苦手な私でもチームの役に立てた」「探究をやることで、教科学習の大切さに気付いた」などと変化していったと言い、「探究学習で自己調整力がついた子どもたちには、教科学習での一斉授業が通用しなくなる。もっと自分たちに任せて欲しいと言うようになる。そこから教科の授業も変わっていった」と述べた。
こうした事例を受け、参加者からは質問が相次いだ。探究学習の経験がない教員が多いのではないかという指摘に小髙氏は「戸田東小でも最初はそうだったので、校内分掌をプロジェクト化した。そこから自分で考えて自分で行動することは、こんなに楽しいんだということを実感してもらうように働き掛けた」と答えた。
代々木中で「シブヤ未来科」のファシリテーターとして教員にも伴走してきた小林氏は「何が一番、先生方の変化につながったかというと、社会を知ってもらうこと。今の世界における日本の立ち位置などを伝えると、本気でこういう探究学習が必要なんだと考えるきっかけになる」と述べた。
渋谷区全校での午後探究スタートまで、あと2カ月を切った。来年度に向けた保護者への説明会を控える学校もある。
小林氏は「子どもたちの成長している姿を保護者や地域の方に見てもらう機会を増やせば、理解も深まる。子どもたちが社会に出たときに、どんな力が必要なのか。先生方だけではなく、外部の人間も一緒になって子どもたちのために新しい学びをつくっていけたら」と思いを述べた。
小髙氏は「これまでの学校というのは、大人が登ったことのある山を、地図を渡して子どもたちに登り方を教える場だった。しかし、これから子どもたちが出ていく社会では、誰も登ったことがない山を自分の力で登っていかなくてはならない。学校の役割も変わってきた」と述べ、「苦手克服も大事だけれども、お互いの強みを出し合って、みんなで知らない山を登っていく。それこそが協働的であり、主体的な学びだと思っている。学校だけでなく、保護者も地域も一緒に進んでいくことが重要だ」とエールを送った。